【特別対談 #6】Vegetable Record × KAIKA TOKYO 2021.10.05
写真右奥より時計回りにVegetable RecordのSyotaro HayashiとRyota Mikami、KAIKA TOKYOの中山孝一郎氏と横井僚介氏。
音楽レーベル「Vegetable Record」の共同代表兼アーティスト、Syotaro HayashiとRyota Mikamiによる「音楽を使った空間デザイン」「サイトスペシフィックミュージック」などについての特別対談。
第6回目はホテル「KAIKA TOKYO」の館内音楽「Song for KAIKA TOKYO」について、KAIKA TOKYOの中山孝一郎さんと横井僚介さんとお話しました。
三上:今回は墨田区本所にある、アートストレージとホテルが融合した、新しいコンテンポラリーアートの拠点「KAIKA TOKYO」の館内音楽「Songs for KAIKA TOKYO」について、KAIKA TOKYOの横井さん、中山さんとお話しします。本日はありがとうございます。
林:よろしくお願いいたします。
中山 / 横井:よろしくお願いいたします。
KAIKA TOKYO、THE SHARE HOTELS、リビタについて
三上:KAIKA TOKYOやホテルブランド「THE SHARE HOTELS」、トータルプロデュースをしている「株式会社リビタ」についてご紹介いただけますでしょうか?
中山:先ずは、KAIKA TOKYOを運営しているリビタについて簡単にご説明いたします。リビタは2005年設立のリノベーションを専門に扱う不動産会社です。具体的には、社宅やマンション、戸建てなどのリノベーション分譲事業、不動産のオーナーさんへのコンサルティング、あとは自社で出掛けたシェアラウンジやシェアハウスの運営なども行っています。そして、ホテル事業としてTHE SHARE HOTELSを運営しています。2016年オープンの「HATCHi 金沢」を皮切りに京都、広島、函館、東京と続き、KAIKA TOKYOはその8店舗目としてオープンしました。ちょうど先日も奈良に新しく「MIROKU 奈良」がオープンしたので、合計9店舗展開しています。
林:場所の選定基準はあるんですか?
中山:やはりホテルなので、観光地というのはひとつテーマとしてあります。あとは元々リノベーションの会社なので、そのノウハウを活かして、ほとんど使用されなくなった遊休不動産を新しくホテルに再生させています。
三上:なるほど。ちなみに「LYURO 東京清澄」は数年前に僕たちも音楽のインスタレーションやライブで使用させていただきました。
Songs for KAIKA TOKYO
三上:館内音楽「Songs for KAIKA TOKYO」について、簡単に説明させていただきます。Songs for KAIKA TOKYOはオリジナル曲とプレイリスト、2種類あります。オリジナル曲は「時報を音楽でデザインする」をコンセプトにしていて、様々なサンプリングやマリンバ、ピアノ、ギターなどの生楽器を組み合わせて、7時から24時までの正時に合わせたグラデーションのような18曲を制作しました。
館内のインダストリアル感を柔らげる「木の温かみ」のような要素をオリジナル曲で表現していて、ホテルのカラーである「コンテンポラリー」な要素をプレイリストで表現しています。両者が合わさることで「ちょっとした非日常」を音楽で作っているようなイメージですね。
KAIKA TOKYOのユニークなポイントでもある、参加ギャラリーの「見えるアートストレージ」から着想して、オリジナル館内音楽と3ヶ月毎に入れ替わるプレイリストを合わせた、トータル18時間の「見えない音楽のストレージ」を空間に作ることを目指しました。
林:緊急事態宣言中の活動もご紹介したいと思います。KAIKA TOKYOの元々のオープン日の2020年3月末に向けて、1〜2月くらいにかけてずっと曲作りをしていて、実際に館内で流す、っていうタイミングで4/7に緊急事態宣言が出てしまったんですね。
ただ、せっかく楽曲もあるし、こういう状況でも楽しめるような何か出来ないかって考えて、それで直後の4/10に「Songs for Time Signal」という、Songs for KAIKA TOKYOを使った音楽のインスタレーションをリリースしました。
会場はそれぞれの自宅、使用デバイスはそれぞれのスマートフォン。Songs for KAIKA TOKYOの楽曲名がそれぞれ「07:00」「08:00」・・・「24:00」と正時名になっているので、午前7時のアラームに「07:00」、午後4時のアラームに「16:00」と自分でセットして、それぞれの環境でKAIKA TOKYOの音楽演出を楽しむ、という作品です。
その翌月にはさらに発展させた音楽映画「A Film "Celebration at home"」を写真家の工藤葵さん、マリンバ奏者の野木青依さんとコラボレーションして作りました。
Songs for KAIKA TOKYOの18曲に合わせて野木さんが即興演奏をして、その様子を工藤葵さんが撮る。そして、その映像を実際に7時〜24時まで1日かけてSNSで発信、最終的に全てまとめた音楽映画としてリリースする、という一連の作品です。こちらは現在でもYoutubeで公開されています。
館内音楽として使用した感想
林:実際に館内音楽としてご使用いただいていかがですか?
横井:オープンしてから約1年半が経ちましたけど、僕らスタッフ自身の感想としては、音楽で空間をデザインする、時報を使って音楽を奏でる、というのは非常に面白いと思いました。こんなアレンジの仕方もあるんだ、という。それで、実際に営業をしていく中で、浅草の本所はとても静かなところなんですけど、一歩入ると、こういったアートの世界観やちょっとした非日常を視覚的にも聴覚的にも味わえるというところはKAIKA TOKYOならではの魅力だと思っています。
あとは「どういった音楽を使ってるんですか?」ってお客さんから聞かれることもあります。ホテルの実用性というところでは、僕らスタッフもこの音楽の時報で動いています笑
中山:時報が鳴って、誰かがシフトに入ってくると、ちょっとしたテーマ曲みたいになってます。ロッキーの入場曲みたいな笑
林 / 三上:笑
林:僕らが音楽を作っている他の場所と違って、KAIKA TOKYOでは18時間のプレイリストの中で1時間に1回だけオリジナル曲が流れるので、お客さんが「KAIKA TOKYOのオリジナル音楽が流れてる」って気が付くことはあまり無いかとは思いますけど、でもそういう点も、KAIKA TOKYOではすごくコンセプチュアルな音楽のアート作品として成立しているというか。
三上:各階の上がったところとか、隠れ作品が随所にありますよね。僕らの音楽もそういった作品と同じ立ち位置なのかなと。まさかこれが作品とは思っていなかったけど、後でそこに気が付いて、段々と理解が深まるみたいな。サイネージではこっそり表示させてもらってるんですけどね笑
中山:KAIKA TOKYOが元々は倉庫だったので、そういうひっそり感はとてもぴったりなのかなとも思いますね。あんまり表に出さずに、覗き見る感じがホテルのコンセプトとも合ってるのかなと。
林:気付いた時がすごい面白い、みたいな感じですよね。音楽までこういう仕掛けがあったんだって。
三上:下調べとかしないで来たら地下の大きいストレージ空間があるなんて思わないですよね。アート展示は1Fだけなのかなって。
中山:やっぱり地下に行って驚かれる方も多いです、全然雰囲気が1Fと違うって笑
三上:そのあたりも詳しくお聞きしたいのですが、コンテンポラリーアートとホテルの融合ということですけど、内装デザインや地下に行って驚くような仕掛けとか、どういったところを意識されて空間を作ったのかなと。
中山:THE SHARE HOTELSのキーワードのひとつに「シェアスペース」というものがありまして、建物にそれぞれ固有のシェアスペースを地域に開いているんですね。KAIKA TOKYOでは、それが1Fと地下のアートストレージなんです。このスペースをアートギャラリーさんに開放して、そこでアート作品の公開保管を行っているという形です。
内装デザイン的な観点では、リノベーションする前が物流倉庫だったことからアートの倉庫というイメージを残してまして、特徴的な建物にするために、個性的かつ実用的なデザインを得意とされるデザイン事務所「POINT」の長岡勉さんにインテリアデザインをお願いしました。来ていただいた方は分かると思うのですが、館内で金網だったりコンクリートのようなハードな印象が強いと思うんですけど、ホテルなのでそこに暖かみを持たせたいなということで、なるべく木製の家具や什器を多用しています。ハードな印象を軽減させる、というところはかなり意識していますね。
三上:なるほど。
中山:壁の色もパッと見はグレーかなと思うんですけど、実はグリーンが少し入ったグレーグリーンなんです。そこもやはり暖かみを出すための工夫です。客室もそうですね。
林:1Fの椅子もそうですよね、グリーンで。
中山:はい、グラデーションも実は微妙に場所によって違うんですよね。
三上:僕らが一番初めに館内音楽のお話をいただいた時は、内装もほぼ無い状態だったので笑
中山:そうですよね笑
三上:なので、当初は選曲も今とは違って、アバンギャルドジャズとかフリージャズとか、そっち系のコンテンポラリー感強めだったんです。逆に、そういう音楽の方が全体としてはフィットするんじゃないか、という事で一回提案してみたんです。それで協議いただいたんですけど、やっぱりお客さん泊まる場所ですし激しいフリージャズはちょっと・・・、ということになりまして笑
中山 / 横井:笑
三上:その後に、ちょうど内装も出来たので改めて再度見ていただけますか、ということで再訪したんですね。そしたら、想像以上に木の要素が足されていて、インダストリアル感というか、ハードな感じがいい具合に中和された雰囲気で、イメージがガラッと変わったんです。初めに来た時は確か金網とコンクリートくらいしかなかったと思うんですけど笑 フリージャズを選んだ理由も、ストイックな雰囲気にエネルギー的な暖かみを加えたらいいかなと考えていたんです。でも完成した内装の仕上がりを見て、僕ら的にも、アバンギャルドジャズは違うか、って話になりまして笑
中山:最初は本当にアメリカの刑務所みたいでしたもんね笑
一同:笑
三上:それで、プランを大きく変更して、オリジナル曲を木の要素みたいな雰囲気に、それ以外はノイズとか不協和音のない、ほとんどメロディーもないようなドライでミニマルな電子音響を基調にしようということになったんです。加えて、宿泊者の方が食事をされる時間帯や夜のバータイムではもう少し有機的な楽曲を選んだり、プレイリストの方も一辺倒ではなく、グラデーションのように微妙な変化をつけています。
アート×音楽
林:最後に「音楽×アート」でこれから実施したいことはありますか?
横井:先ずは館内音楽「Songs for KAIKA TOKYO」の生演奏をお二人にやっていただけたら面白いのかなと思っています。館内音楽とリンクしたリアルな体験っていうのは、お客さんにとっても中々無いのかなと。
あとは、1ヶ月に1回(1アーティスト)くらいのペースで一部屋が色々なアーティストによって変わっていく「アートルーム」があるのですが、そこのアーティストとのコラボレーションも面白そうです。アートルームの作品から着想して楽曲を作ったらどうなるのかな、という。
三上:その部屋で僕らが滞在制作して、音楽をアート作品として残していく、みたいな形でも面白そうです。室内で楽曲が流れているみたいな。ちょっと視覚的に何か無いと難しいかもしれないですけど、最近自分たちの音楽の視覚化に色々と挑戦していまして、ちょうどKAIKA TOKYOも少し関わってらっしゃる「すみゆめ」でもそういった展示作品を作りました。
横井:いいですね。個人的には音楽付きTシャツとか、商品に音楽を付ける試みが面白いなと思っているので、ホテルでも積極的に出来たらと考えています。
三上:今後のKAIKA TOKYOついてはどちらを見ればいいですか?
中山:ホテルの情報に関しましては、HPやInstagramをご覧いただければと思います。企画展やアートルームなどのアート情報は「Art Sticker」というプラットフォームアプリと連携しているので、そちらのサイトも合わせてチェックしてみてください。
三上:それでは、施設にもぜひお越しいただければと思います。本日はありがとうございました。
林:ありがとうございました。
中山 / 横井:ありがとうございました。
<2021年10月5日 KAIKA TOKYOにて>
本インタビューは、Podcastでも配信中です。
撮影:工藤 葵/写真家
https://aoikudoaonisai.wordpress.com
館内画像提供:KAIKA TOKYO