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ベトナム国立農業大学 人材開発・提供センター(VCMS)についての注意喚起

 このページは、私本人が「ベトナム国立農業大学 人材開発・提供センター(VCMS)」から「技術・人文・国際業務」枠で外国人技術者=エンジニア を受け入れた際の経験を、ページをご覧の皆様と共有するために制作したものです。自身の経験に基づいた「事実」を正確に描写したものであり、特定の団体や人物を糾弾したり告発したりする意図はありません。文章中には「評価」の記載はありますが、あくまでも自身の体験に基づく個人的な評価であり、私の評価が正しい評価であるとは限らないことを前置きしておきます。その上で、現在、取り引きを行っている、あるいは今後、取り引きを検討しているという方の参考になればと思います。

ベトナム国立農業大学 人材開発・提供センター(VCMS)の概要

 まずは、概要について説明致します。ベトナム国立農業大学 人材開発・提供センター(VCMS)は、ベトナム国立農業大学内(ハノイ市内)に拠点を構え、ベトナムから日本に対して、技能実習生や外国人技術者=エンジニア(技術・人文・国際業務)の派遣をすることを業務としています。また、派遣に先立って、同センターに所属する学生に「事前教育」を行うことを事業としています。同センターには、ベトナム国立農業大学の現役学生、卒業生が所属していますが、他大学の卒業生も所属することができるようです。

 VCMSのトップを務めるセンター長には、VU・NGOC・HUYEN(ヴー・ゴック・フエン)さん、という方が就いています。こちらの方は、ウェブ検索をすると視察等で何度も日本に訪れているようです。また、NGUYỄN XUÂN ĐÀI(グェン・スアン・ダイ)さんという方が現場を取り仕切る計画部長という肩書きを持たれていました。会議や打ち合わせに出てこられるトップも、通常はこの計画部長でした。

 ベトナム国立農業大学は獣医学部を有しており、外国人技術者=エンジニア (技術・人文・国際業務)枠で日本での就職を目指す学生の多くが、ベトナム国で獣医師免許を取得している方々です。「獣医学の専門知識が、日本の農業や畜産の現場に貢献できる」という理由で、技術・人文・国際業務の枠で査証(ビザ)が交付されています。獣医師ではない学生や、外国人技術者として査証(ビザ)が取得できない場合には、技能実習生として日本での就職を目指すようです。

 以上が、ベトナム国立農業大学 人材開発・提供センター(VCMS)の概要です。日本語による同センターの情報が少ないため、参考にしていただければと思います。

VCMSから人材提供を受けた結末

 経緯も含めて詳細に書いて行こうと思うため、情報が長くなることが予想されます。ただ、詳細は多くの方には必要ないため、結論だけを先に書いておきます。先程も触れましたが、この情報は、あくまでも私の実体験に基づいたものであり、私の体験ではそうであったということで、全てにあてはまることではありません。特定の団体や個人を糾弾するものでも告発するものでもありません。ただ、私自身が大変に苦労してきた経験ですので、苦労を無駄にしないためにも、また同業者の日本人、あるいは人材紹介事業などを営む邦法人の皆様に、同じ苦労をして欲しくないという思いで、情報として残すことを決めました。

 もう一点、制度上の不備により、私個人がおそらく不法就労者・滞在者を量産する片棒を担がされる形になってしまったことを、心苦しく思っております。事実を綴って行く中で、何か今後の法改正のきっかけとなって欲しいと願っております。

 以下が、VCMSから人材提供を受けた結果です。

(1)圧倒的に低い教育レベル

 VCMSから受け入れた外国人技術者(エンジニア)は、過去に受け入れたどの団体からの技能実習生よりも教育レベル(日本語・日本文化への理解)が圧倒的に低く、職務遂行能力に疑問があった。面接から来日まで一年近くの猶予を与え、日本語の習得を条件としてきたが、来日時、日本語によるコミュニケーションはほぼ不可能であった。

(2)求人票の改ざんによる学生の送り出し

 求人票は、雇用条件を提示するものであり面接、採用、雇用契約の締結にあたって非常に重要です。弊社は、VCMS側が提供してきたフォーマットに基づき必要な情報を漏れなく記載しました。

 しかし、VCMSは、弊社の求人が学生たちにより魅力的に映るように、弊社が提出した求人票をベトナム語に翻訳する際に、勝手に給与額を増額する改ざんを行なっていた。そのため、日本語の求人票とベトナム語の求人票の給与額に相違があり、それがのちのち大きな問題となった。このことは、技術者を受け入れたあとの話し合いの中で判明しました。技術者たちはベトナム語の求人票をもとに、「私たちは会社に(弊社)に騙された」と主張しはじめ、VCMS側は日本語のわからない技術者たちに、弊社が求人票に基づく支給をしていない雇用契約違反を行なっていると主張していた模様。自分たちが改ざんした事実さえ、しらを切っていました。

(3)雇用契約違反と法遵守意識の低さ

 技術者たちとは、弊社が提示した求人票に基づいて面接を行い、その条件に双方同意の上、雇用契約を締結しています。弊社は、しっかりと、求人票通りの給与を支給(むしろ配慮して求人票以上の給与を支給)していました。

しかし、来日後すぐに「給料が低いからもっと給料を上げろ」と団体交渉を開始。その際、給料をあげるまで仕事をしないとストライキを宣言。しかも、あろうことかVCMSもその団体交渉に加担し、「貴社が要望を承諾しないとエンジニアはみんなやめますよ」と脅しをかけ、法外な要望を押し付けようとしました。もともとは、VCMSによる求人票の改ざんが原因です。

 どれくらい法外であったかというと、手当や残業代も含めて、時給にして通常相場の2倍程度です。地域の平均時給が仮に時給900円だとすれば、彼らの要求は時給1,800円です。彼らの能力と比較して、とんでもない法外が要求です。能力給で支給している弊社としては、その能力の仕事をしてくれれば支払っても良い範囲の金額ですが(事実それくらい支払っている現場責任者もいます)、(1)で述べたように、彼らは非常に教育レベルが低く、仕事上必要なコミュニケーション能力も有していないため、到底能力には不釣り合いな金額でありました。

 求人票に基づいて、両者合意の上の雇用契約でありながら、来日後すぐに団体交渉を行うことは、雇用契約に違反することを指摘すると、VCMSは「採用者と労働者の直接契約ですので私たちには関係ありません」「技術者たちに魅力ある条件を提示できない貴社の責任ではないですか」と平然と言ってきました。雇用契約が全く意味を持ちませんでした。

(4)一方的な退職宣言と雇用契約の破棄

 あまりにも法外な要望なので、その要望は承諾できないと返答すると、全員を辞めるように誘導(しているように感じた)。少なくとも、弊社が要望を承諾しない限り、全員が辞めても良いとVCMSと技術者との間で、事前に打ち合わせをしていた様子。

 彼らは、一方的に退職宣言をしました。社内規定の1ヶ月前通知や、その他雇用契約は一方的に破棄されました。その裏には、すでに不法就労をサポートするエージェントの介入が垣間見られました。技術者枠のビザは技能実習生と違い転職が可能でありますが「資格内」という条件がついているため、実質は難しいと言われています。しかし、「あなたは転職ができますよ。もっと高い給料が貰えますよ」と言葉巧みに、不法就労へ導いているのがベトナム人のエージェントたちです。逆に言えば、不法就労をする前提があり、わざとこちらの承諾できないような法外な要求をし、退職するための理由を作っているようにも見えました。弊社は不法就労者を合法的に入国するための踏み台に利用されたのです。

(5)不法就労先への逃亡とVCMSによる黙認

 技術者たちは、暗躍するエージェントに伴われて一方的に逃亡し、ビザの資格外活動への従事が疑われます。弊社の提示している給与を大幅に上回る給与支給は同業者では不可能であること(弊社は同業種の中では比較的高い給与を提示していました)、また私たちの同業種が、違法エージェントから人材を採用するとは考えにくいため、必然的に逃亡した技術者たちの行く先は、資格外の不法就労であることはあきらかです。VCMSなどの送り出し機関は、それらエージェントの実態は知っているはずであり、責任ある機関であれば自分たちが送り出した人材が不法就労に陥らないように配慮を徹底するであろうと思われます。しかしながらVCMSは、不法就労になることと理解していながら黙認しているのですから、間違いなく不法就労を助長していいる組織です。

(6)逃亡と請求の踏み倒し

 技術者とは、面接および契約の段階で、招致費用(ビザの申請手数料、航空券、その他受け入れ費用など)は貸与であることを説明。期限前の離職の場合は招致費用の返還義務がある旨を説明していました。したがって、退職を一方的に宣言してきた段階で、契約に基づいて招致費用の返還請求書を提示しました。

 しかし、技術者たちの「友達」と称するベトナム人エージェントから恫喝する電話を受け取りました。内容は、「お前は法律違反、訴える」「この請求書を入管に提出して、二度のお前の会社にエンジニアを採用できないようにしてやるからな」というものでした(なぜ、請求書を入管に提出するのかは疑問。おそらく「入管」という言葉を出せばこちらが焦ると思ったのではないかと推測)。恫喝という表現を使うのが最適であるほど、大きな声で脅しをかけてきました。法律上、給与と相殺することも出来ず、後からでも請求書を送り続けるしかないかと思い、転居先の住所を確認をしましたが、「言う必要はない」の一点張りで、結局は請求書を踏み倒し、こっそりと姿をくらませました。結局はこの費用は、泣き寝入りになりました。

(7)エージェントとVCMSの関係について

 彼らがいう「友達」がエージェントである確証もVCMSと関係があるのかどうかもわかりませんが、組織的に指示をされているのは明白でした。

 全員が同じ様式のペーパーを持参し、離職を認める署名をせよと要求してきました。また、ペーパーには、指示と見られる付箋が貼り付けられていました。さらに、全員が口を揃えて同じ趣旨の発言をするので、おそらくエージェントあるいは、VCMS側が用意したペーパーを読まされているのでなないかと推測。内容は、「私たちは、14日前にあなたに退職を通知したから自由にやめる権利がある。私が調べたところ、日本の法律ではそうなっている(日本語がわからないのにどうして調べられたのだろうか)」「私たち外国人技術者は転職の自由が認められている」「貴社に私は必要ない。なぜなら貴社が私を不当に評価する。私は貴社の待遇に不満がある。だから、私がいなくなることは、どちらにとっても良いことです」(全員「貴社」という言葉を使っている)。全員が口を揃えて同じフレーズを繰り返しておりました。通常は、送り出し機関側もこのような不法就労へ導くエージェントを警戒するはずです。したがって、雇用契約および日本の法律にしたがって生活するように指導するのが送り出し機関の役割です。しかし、いとも簡単に退職、不法就労を黙認・助長していることが不思議でなりません。一方的な退職宣言の前に、すでに行き先が決まっていたと考えるのが自然です。しかし、ここから先は推測の域を出ないので、これ以上の言及は避けることにします。

(8)VCMSによる費用の二重取り

 一連の団体交渉の始まりは、VCMSによる求人票の改ざんが原因でありましたが、それ以外にも、VCMSはおかしな行動を行なっています。それは、同名目の費用の双方からの二重どりです。

 VCMSは、派遣する技術者から斡旋費用として50万円程度(正式には5,000ドル)を受領しています。弊社からの紹介料として数十万円受領しています。つまり、求人票を改ざんしてまで魅力的な受け入れ先をつくり、雇用契約さえ成立すれば、両者からお金が入ります。その後のトラブルは「直接契約ですので当事者で解決してください」と知らん顔です。

 技術者の一人の話しでわかったことですが、技術者に請求する5,000ドルの内訳は、「教育費」以外に「渡航費」「ビザの申請費用」とあったようです。もちろん、それら招致に伴う費用は弊社が全額実費負担していますし、航空券も弊社が予約から支払いまでを行いました。VCMS所属の学生には、実費が含まれていると説明しておきながら、その実際はただの手数料の丸取りです。

(9)送り出し機関に求められる指導力、管理能力の欠如

 外国人技術者枠での受け入れは、基本的には直接契約のため、弊社と技術者たちとの間で解決すべき問題であることは弊社も心得ています。

 しかし、人材紹介を受ける条件としてVCMSの義務として、「日本国内での就労に必要とされる教育、訓練等を行う」と契約書に明確に書いてあります。また、送り出した人材の適正管理も彼らの業務の範囲です。教育は全くされておらず、入国後の契約違反の黙認やむしろ加担など、送り出し機関に求められる指導力、管理能力はほぼ皆無でありました。その上、自分たちは「中立」でなければならない、「貴社と技術者は直接契約のためセンターに責任はありません」と平然と言ってのけます。当事者である私からの評価は、ただの詐欺団体にしか見えませんでした。契約違反が横行し、まともに付き合える団体ではありませんでした。

(10)結論

 VCMSは派遣した技術者が会社を辞めて資格外活動をしようが全く金銭的な損害が発生しません。したがって、技術者たちを適正に指導する様子も見られませんでした。むしろ、求人票の改ざんの事実を技術者たちに指摘され、怒りの矛先が自分たちに向いているのを交わすために、意図的に弊社を悪者に仕立て上げている様子でした。弊社に対しては、表向きは中立を装っていましたが、弊社のコンプライアンス遵守をいくら説明しても、技術者たちには正しく伝わっていなかった様子です。会社側も、外国人だから大変な思いをしているだろうとの配慮から、出来うる限りのサポートはしておりましたし、その旨の説明を何度も行なってきました。しかし、同じ不満を繰り返し主張するばかりで埒があきませんでした。おそらく、正しく伝えていなかったのだと思います。

 最終的には、VCMS側が派遣した技術者に対し、弊社がコンプライアンスを守らない悪い会社であるという刷り込みを行なっている様子でした。日本語のコミュニケーションが出来ないことを良いことに、技術者側には真実を伝えず、結局は、技術者側に弊社に対する不信感を植え付け、退職を誘導しているように見えました。そして、事実として全員が、見事にエージェントに伴われて逃亡しました。これは、受け入れからおよそ6ヶ月以内におきたことです。最初から結論ありきのようでした。

 結果として、技術者たちの採用に要した、およそ200万円を越す費用は、ドブに捨てたようなものでした。あとには、徒労感とVCMSに対する不信感だけが残りました。お金を払って、不法就労のための踏み台にされただけだと認識しています。

 もちろん、入国管理庁および外務省には事実をすべて正確に報告をしました。技術者本人たちも「エンジニア枠は転職できるから不法滞在にはならないし、うちに来ればもっと高い給料を出すよ」というエージェントの口車にのってしまった被害者であるとは思うのですが、大学を卒業して現地の獣医師の資格を取得しておきながら、日本で資格外活動を行い、ビザの更新が出来ずに不法滞在、国内潜伏、強制送還という道をたどる人が多くいるのは残念でなりません。

 


 上記の文章で、VCMSと取り引きを行なった概要はまとめましたが、以下の文章では、教育を施されていない技術者たちが、VCMSとともに、どのような横暴を働いたのかを、記録として詳細に示しておきます。多くの方にとっては必要のない情報でしょうが、彼らの思考方法を知る上では参考になるかと思います。それと、技術者を受け入れるまでの経緯について少し触れたいと思います。

外国人技術者枠での採用の経緯

 私は、農業法人を経営しており、10名ほどの日本人社員、10名ほどの技能実習生で現場を運営をしております。技能実習生は、20年ほど前より採用してきました。当初は、制度設計が曖昧で、技能実習生の指導にも手を焼いたものですが、近年は制度と教育が充実してきたおかげで、安定的に制度を利用することが出来ました。

 世の中には、技能実習生制度を利用している会社は、「外国人労働力を搾取している」という見方をする人もいますし、実際にそういう会社が摘発されることもあります。しかし、実際には多くの採用企業がコンプライアンスに則って研修生に接しています。逆に、技能実習生は法律上残業が制限されている影響で、実習生本人たちが希望する残業をさせてあげることが出来ないというジレンマもあるくらいです。コンプライアンスを重視して技能実習制度を利用している立場から言うと、技能実習生は法律上、日本人被雇用者よりも優遇されていると思います。

 話しはそれましたが、技能実習生は基本的にはトラクターなどの農機具の運転ができないことになっています。現代の農業では、農場作業においてトラクターの扱いは必須とも言えます。それが許されていない技能実習生は、自ずと出来る農場作業に限界があります。

 また、2017年から3号資格が導入され、技能実習生の滞在可能期限は最長5年となりましたが、今でも3年期限で実習に参加される方が多いかと思います。

 残業制限や農機具等の扱い制限、そして滞在期限等の制限は、どれも実習生本人たちを守るための制度であるため、いくら本人たちが希望しても、法を破るわけにはいきません。3年滞在し、やっと一人前になってきたというところで「帰国」となってしまうことが多く、人材育成と人材の定着に大きな問題を抱えていました。

 そこで良く言われるのが、「外国人を安く使おうと思っているからだ」という心のない指摘です。実は、外国人技能実習生は「安い」労働力ではありません。具体的には書きませんが、一人を招致するのに相当程度の費用が必要になります。また、招致後も管理団体に対して毎月の管理費用の支払いが必要になります。これは法で定められているものです。また、技能実習生の賃金や労働時間なども法律で細かく決められており、法令を遵守する限り、決して「安い」労働力ではなく、日本人と比べて「人件費」という面では割高だと思っています。

 こう述べると今度は「それだったら日本人を採用するはずなのに、外国人技能実習生をつかっているのだから、それは事実ではない」という、これまた心ない反論が返ってくるのです。経営者としては、実は法的制限や文化相違によるトラブルを防止する意味でも、実は日本人を採用したく思っているのです。しかし、実際は募集すれども「応募がない」のが現状です。農業法人の経営者の方は良くわかっているはずです。農業法人の間で、日本人スタッフの引き抜きなども行われており、本当に日本人の採用は難しいというのが現状です。

 そこで弊社が行き着いた結論が、外国人技術者=エンジニアを採用し、長期間働いて現場の責任者に育ってもらおうということです。そこで、技能実習生の面接のために毎年訪れるベトナム国で、技術者=エンジニアの派遣も行なっているというVCMSを知人に紹介していただいたのが、今回VCMSと取り引きを行なった経緯です。

面接から採用まで

 弊社がVCMSに提出した求人票に基づいて候補者選定をしていただき、複数名の候補者と通訳を介して面接を行いました。求人票には、基本給与、残業代、社宅の費用、採用の条件などすべての必要事項が記載されています。求人票は、VCMSのフォーマットを利用して作成しました。したがって、記載すべき事項に不足はありませんでした。面接時に採用の条件を再度本人に確認し、採用の通知を出しました。弊社から出しだ条件には、(1)日本の運転免許証に切り替え可能な自動車運転免許証を取得していること、(2)1年後の来日に向けて、業務遂行に影響がないレベルの日本語の習得、の2点も含まれていました。日本語能力には少し心配もありましたが、国を代表するエリートたちだから努力は惜しまないだろうと期待しておりました。その後はビザ申請の手続きなどは順調に進み、正式に「雇用契約書」も締結の上、技術者たちが来日しました。

 この時は、少なくとも国の最高学府を卒業し、獣医師の国家免許も取得している人材を採用できることに心から喜びを感じていました。また、地頭のの良さを期待し、現場のリーダー格に育てていこうと決意をしておりました。

来日初日に問題が露呈

 VCMSからは、技術者たちは所定の研修プログラムを終了し、日本での就労に全く問題ない状態の教育状態であると報告を受けておりました。飛行場で久しぶりに出会った彼らの成長を期待しておりましたが、すぐに不安に変わりました。日本語が全く通じないのです。「はじめまして、●●●●●と申します。よろしくお願いします」以外は「ワタシ、日本語わかりません」「はい、がんばります」程度しか喋ることが出来ない状態でした。

 VCMSに相談すると、「言語能力には個人差がありますが、全員がプログラムを終了しているので問題ないと認識していますが、引き続き日本語の習得はオンライン授業などによって支援をしていきます」と回答はありました。しかし、VCMSが言う「問題がない」程度の判断が本当に大丈夫かどうか非常に不安に思ったことを覚えています。

技能実習生と比較して抱く不満

 来日からしばらくは、日本語も話せないこともあり、大人しく会社の指示に従っておりました。ただ、自分たちは「エンジニア」であり、技能実習生とは格が違うという振る舞いが目立つようになりました。技術者たちが来日する以前から勤務する技能実習生と自分たちの待遇を比較するようになりました。彼らは、自分たちを「エンジニア」であると強調するのです。技能実習生の前では、少し威張っているようにも見えます。

 エンジニアと技能実習生は、適用される法律が違っており、単純には比較出来ません。適用される保険や年金または日本ベトナム間の国際条約なども関係し、例えば同じ基本給与と勤務時間でも、控除される金額が微妙に違ってきます。

 日本人の前では「わかりました」「ありがとうございます」「はい、がんばります」しか言わないのですが、ベトナム語の通じる技能実習生を前にすると雄弁になり、自分たちの優位性を主張しているようでした。ベトナム語で情報を収集できるところは技能実習生からですので、どうしても間違った情報を鵜呑みにする傾向にあります。

 しばらくすると、VCMS側から連絡があり、技術者たちが技能実習生と比較して自分たちは不当に扱われているから是正をしろとの申し入れがありました。VCMS側も通訳以外は日本語を話すことが出来ず、カタコトの通訳を交えた会話ですので、どこまで伝わっているのかわからないのですが、適用される制度が違う旨、また仕事の能力によっても評価が違う旨を説明しました。この段階で、日本語能力、業務の遂行能力ははるかに技能実習生が優っていました。したがって、基本給も技能実習生の方が高い傾向にありました。一方、技術者たちは、仕事を「誠実にこなそう」という姿勢が見られませんでした。その上、技能実習生を見下し、自分たちはエンジニアだからもっと評価されてしかるべきという態度を示すようになってきました。来日から1ヶ月程度の時期でしたが、非常に不安が募りました。

常識、生活能力の欠如による間違った不満

 次に彼らが抱いた不満は、光熱費の概念を理解できないことによるものです(ベトナムには光熱費という概念ががないのでしょうか)。本来社宅では、各社員は、電気、ガス、水道、(暖房などの)燃料などの会社と直接契約を行っています。ただ、技術者たちは、日本語がわからずに直接契約の交渉をすることもできません。そこで、会社名義で契約を行い、会社が給与から控除することにしました。必然的に、給与から控除される金額は多くなります。

 技術者たちの多くは20代半ばの年齢でしたので、おそらく自立して「生活」したことがないのではないかと思います。どのくらいのレベルの生活をすれば、どのくらいの支出が必要になるかなどの、いわゆる「生活力」が全くないのです。一人暮らしの経験があるならば、光熱費や食費を節約する経験もあるのではないかと思います。

 しかし、この光熱費についての実費負担を、何度説明しても理解してくれません。「実費」だから、いわゆる「自分たちが使用したぶんが請求されている」ということを何度も説明しました。しかし、自分たちは不当に給与から控除されていると主張します。もちろん、日本語が話せないので、不満はVCMSを通して私たちに伝えてきます。「光熱費を給料から引くな」ということです。しかし、各会社から請求がきた金額をそのまま控除しているだけであり、それにマージンを載せることもありません。その領収書を見せてVCMS側にも説明したのですが、何度も何度も同じ説明を要求してきます。もうこの頃から、VCMSへの対応にも疲れ始めていました。本来、学生に指導力を発揮するのが同センターの役割だと認識していましたが(こちらもある程度のお金を支払っているのですから生活指導くらいして欲しいというのが本音でした)、技術者たちの言ったことをそのままこちらに伝えてくるだけの窓口機関となっていました。それどころか、事実も確認せずに、弊社が悪い会社であるように技術者たちと一緒になって責めてくるのです。何度も何度も同じ説明を求められ埒があかないとはまさにあのことです。こちらも暇ではありませんという気持ちでいっぱいでした。

 この時は、冬場だったため暖房が必要な時期でした。日本語の流暢な技能実習生に通訳を担当してもらい、暖房器具の使い方や暖房費の節約方法などの指導も行ないました。しかし、暖房を最高温度で設定して、部屋の中では汗をかきながら半袖、短パンで生活していました。節約の概念がわからなかったのかもしれません。どうしたらそんな額の請求が来るのだろう(人によっては数万円)というほどの、電気代や暖房費等の請求がきました。当然、実費負担ですから、本人たちの給与から控除されます。一方で、通常の範囲で節約をするように、何度も指導もしていました。例えば、光熱費が技能実習生や他の日本人社員と比較しても、3倍〜5倍ととんでもない額の請求となっていました。

 給与明細を持参し、光熱費控除の説明を求めるので「各部屋にメーターが設置されているので、自分たちの使用量に応じた実費です」と各業者からの領収書を示し、何度も説明してきましたが、今度はメーターが壊れている、タンクに穴があいているかもしれないから調べろ、自分たちはこんなに使っていない、私たちは騙されている!とみんなで大騒ぎです。

 この光熱費が実費であることを理解しないことが、技術者たちの不満をさらに募らせていきます。「自分たちは不当に低く評価されている、会社は光熱費の名目で必要以上の控除をしている」というのが彼らの理論です。さらに、光熱費は会社が負担するものであり、自分たちが負担するものではないと平然な顔で言うのです。確かに過去には、弊社でも福利厚生の一環として光熱費を一律フラット負担としていたこともあるのですが、やはり自分の懐の傷まないところに、やりたい放題(夏は冷房を24時間最高出力で稼働させっぱなしなど)であったということもあり、実費負担としたという経緯があります。

携帯電話でのトラブル

 上記のような光熱費をめぐるトラブルの他にも、携帯電話をめぐるトラブルがありました。彼らは20代の若者ですから、日本到着後にすぐに携帯電話を欲しがりました。ただ、住民登録のタイミングやキャリア会社に支払う補償金の問題などで、携帯電話を彼らの名義で新規に契約することは難しい状況でした。そこで、会社名義で契約をして(正式には私の個人名義)、支払いは本人たちに行なってもらうことにしました。

 地域柄、大手の携帯キャリアしか利用できなかったため、格安ケータイなどの選択肢はありませんでした。彼らは、日本に住むベトナム人によるベトナム語のSNSなどの情報発信を情報源としています。おそらく首都圏にいるであろうベトナム人が格安SIMなどを利用しているという情報を引っ張り出してきて、携帯電話の契約の翌日には「これ高い、私いらない」「もっと安いの買う」「ベトナムもっと安い」と言い始めました。キャリアが少ないからベストな選択であると伝えるのですが、何せ日本語が通じません。私の個人契約であるため、解約すればペナルティーになることも説明しました。しかし、日本語を理解出来ない彼らにとっては、この件も「自分たちは騙されている」という発想になっていたのだと思います。

団体交渉の開始と一方的な退職宣言

 社会常識、日本語能力、そして日本の文化や社会制度の理解不足が、彼らの不満を高めていきました。本来ならば、そういう誤解に基づく不満を解消させるのが、送り出し機関としての役割なのですが、VCMSは全く機能しませんでした。技術者たちの言うことを鵜呑みにして、間違った情報、嘘の情報をもとに、弊社を一緒になって追求してきました。

下記の5点について、何度同じ説明をさせられたでしょうか。VCMSを交えた最後の話し合いでも、下記5点の説明を要求してきました。

(1)基本給与が支払われていない(2)残業代が支払われていない(3)生活費が高すぎる(4)技能実習生と待遇が変わらないのは許せない、といった内容でした。

まず(1)については、これは間違いなく求人票に基づいた給与額を支払っていました。この求人票記載の給与額も間違いなく相場よりも少し高めのものです。さらに、本人たちがあまりにも「エンジニアはもっと高い」と言い続けるので、求人票以上の支給も約束していました。もっとも、本人たちが主張する求人票による金額というものは、VCMSにより改ざんされたもので、途方もない金額のものでした。

(2)については、残業自体をほとんどやりたがりませんでした。残業が基本的に制限されている技能実習生と行動をともにし、時間がくると仕事が残っていても、技能実習生と一緒に帰宅してしまうような仕事しかしていませんでした。求人票での給与の提示には、1日1時間から2時間程度の見込み残業の金額が記載されていましたが、仕事がたくさん残っているにもかかわらず、その程度の残業もやりたがりませんでした。必然的に支給額も増えないわけです。しかも、彼らはVCMS側には「残業が制限されており、やりたくてもさせてくれない」と報告をしておりました。会社側が求人票記載の見込み残業を不当に制限していると報告していたのです。

(3)についての説明が一番疲れました。生活費が高くて、日本で仕事をしている意味がないというのです。出来る限りで生活指導やサポートもしましたが、さすがに全ての会社負担には限界があり、生活力をつけてもらうように促しました。光熱費が高い。食費が高い。携帯電話代が高い。これが彼らの主張でした。

 VCMS側も、会社としてサポートをお願いします、と毎回のように要求してきます。先程も述べましたが、会社としてはできる限りのサポートはおこなってきました。携帯電話の費用なども一部負担してあげておりましたし、社宅の費用も日本人スタッフの半額程度まで補助してあげました。食費や光熱費の使い方に関しても生活指導を行なってきました。本当に子どもが何人もいるような感じでした。総じて全員が幼かったのだと思います。

 一方、携帯電話や社宅などのサポートを一度始めると、どんどん要求はエスカレートしてきました。言えばなんでもまかり通るという態度でした。今度は、値引きした社宅の費用を過去に遡って支払えと要求してきました。最終的には、社宅、光熱費のすべてを含めて私たちは5千円しか払わない。その5千円以上に控除された部分は、過去に遡って支払えというのが、彼の要求でした。

(4)についても、給与は能力に応じて支払われるので、頑張って仕事をマスターしていけば必ず給料は上がりますと説明をしつづけました。この時、彼らの仕事の状態は、まだ技能実習生のレベルにも至っていませんでした。でも彼らは「私たちはエンジニアです」というのが口癖でした。能力ではなく、エンジニアの立場に給料を出せというのです。

 上記の説明は、VCMSを交えて何度も行いました。通訳を挟んで話し合いをするので、一度に2時間から3時間を要する非常に不毛な会話を何度も強いられました。

 VCMSを交えた最終的な話し合いの際にも、3時間もかけて上記説明を丁寧に行い、給与額や支援額も含めて、会社として譲歩できる部分は最大限に譲歩しました(本来はまったく譲歩すべき必要がないことですが)。この条件でいかがですかと最後に尋ねた時に、技術者たちの代表が「ニヤッ」として言いました(あのバカにした顔は忘れられません)。

 私たちは、私たちの要求に100%応じない限り、納得行きませんから、みんなで辞めます。「今日、辞めると行ったので、14日後に出て行きます」「それまで、残りの給料を全部払ってください」と、一方的な退職宣言をしてきました。VCMS側の反応は、「記者と技術者との直接契約ですのでセンターに説明はありません」「私たちは中立の立場にありますが、魅力ある条件を提示できない貴社に問題があるのだと思います」と発言しました。

 雇用契約書の存在や、その他の契約の存在も示しましたが、もう一方的な宣言です。また、不法滞在になることも含めて説明をしましたが、私たちの気持ちは変わりませんの一点張りでした。

 雇用契約など日本の法律などなんの役にも立ちません。VCMSが加担して、不法行為のオンパレードです。最終的には、不法就労斡旋のエージェントのような存在が組織的に介入し、こっそり逃亡をしていきました。

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