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夥しい孤独 12

3月29日 未明


振られてから続けているダイエットが、結構順調に続いている。

最初の一週間は何も食べたくなくて、こんにゃく畑ばかり食べていたら3キロ痩せた。

その後、ちょっとずつ食べだしたら、そのぶんだけきっちり体重が増えた。
しばらく栄養を摂っていなかったからか、少しでも入ってきたものは吸収しないとと身体が必死になっているんだろう。
そんなに必死にならなくても、貯蓄はいくらでもあるのに、そういうわけにはいかないらしい。

毎日900キロカロリーくらいしか摂取していないのに増えるって、私の基礎代謝はどうなってるんだ?と思い、体力をつけて代謝を上げないとと思い、できるだけ毎日、歩いて出勤している。(徒歩で職場まで片道一時間)

毎日往復2時間歩くので、考える時間は無限にある。

たくさんの思い出を思い出したり、腹を立てたり、もうどうでもいいと思ったり、ふとした何かがきっかけで涙が出たり。
(なにせ10年も一緒にいたので、街中どこを歩いても何かしらの思い出がある)

泣きながら歩いているやばいやつだけど、マスクがあるのでなんとか誤魔化せている、と思う。

そうして日に日に、悲しみは薄れていって、何も感じない時間が増えてきた。

なんにも食べたくないと思っていたけど、結局お腹は減るし、美味しいものはなんだかんだ美味しいし。

ただ、食べても食べなくてもどっちでもいいようなもの、あるいは、食べたらかなりリスクのあるもの(食べた後に後悔するようなもの。麺類とか、菓子パンとか、コンビニスイーツとか)は、あまり食べたいと思わないようになった。
満腹になりたい、とも思わない。

食べるなら、できるだけ身体に良くて、美味しいものを食べたい、というマインドになっている。

このマインドでいられるうちに、できるだけ痩せておきたい、と思い、毎日それなりに頑張った。

結果、減ったり、増えたりを繰り返しながら、この一ヶ月で7キロ痩せた。

職場の人にも何人かに、痩せた?と聞かれることが増えた。

周りから目に見えて痩せているのなら、成果が出ているということなので、シンプルに嬉しい。

頑張って続けていこうと思っている。

今の目下のモチベーションと言えばダイエット、になっているので、ぐずぐずと感傷に浸る時間が減ってきた。

なんのために生きるのかもわからなかったけど、今さらだけど自分のために自分らしく生きようと、尊厳を取り戻そうとしているような感覚もある。

この10年、私は停滞していた。

ずっと同じところにいて、生ぬるい、いつ冷えるかわからないお湯に気づかない振りをして浸かっていたような、そんな10年。

この人しかいない。
この人に会うためにここまで生きてきたんだ。
この人に見限られたら、世界中から見限られることとおなじ。

そう思っていたけど、ある部分は今でもそう思うけれど、そうとは限らないのかもしれない。

そんなふうに今、思っている。

とりあえず今の目標は、出会った頃くらいの体重まで痩せて、それからあの人を呼び出して、許せなかったことも全部ぶちまけて、そのうえで、本当のさよならを告げること。 
私をぞんざいに振ったことを、後悔させてやること。

だけど、せっかくの10年を憎しみで終わりたくはない。
最後は楽しかったことを二人で話して、昔みたいにいつもどおりの一日を過ごして、それで、バイバイするんだ。

ありがとう、楽しかったね。

そう言って、いつものようにハグをして。

さようなら。

「じゃあ、またね」

とは、もう言わずに。

最後のドアを閉める。


…できるかな。

本当に、そんなこと。

だけどそうしなければ、私は永遠に、幸せにはならない。

幸せになりたい。
いつになったら幸せになれるんだろう。
どうして私だけ、幸せになれないんだろう。

ずっとそう思ってたけど。

そうじゃないんだ。

自分のことは、自分で、幸せにするしかないんだ。

最近、そう思えるようになってきた。

誰にも依存せずに。

ひとりでも平気だった、強い私に戻るんだ。

あの人は

やっぱり運命の人だったのかもしれない。

離れても、二度と会わなくても。

ずっと心のなかにいる人。

折りに触れ、胸の内で語りかける人。

だけど、共に生きていく人ではなかったんだ。

一緒にいて、二人で幸せになれる相手では、なかった。

認めたくなんてないけど。

認めることは、とてもこわくて、悲しいけれど。

でも本当は、一回目に振られた時から、わかっていたんだ。

うすうす。

私達は根本的に、わかりあえない。

わかりあえないことが、ずっとしこりになって、いつか壊れてしまうだろう。

わかっていたのに、認めたくなくて、蓋をした。

閉じた蓋は、いつかは開けなくちゃならない。

その時が、10年も経ってやっと、訪れたのかもしれない。


ねえ、〇〇。

今も、なんなら別れたことさえ一瞬忘れて、心のなかで語りかけていることがあるけれど。

だけど決断しなきゃならないんだ。

いつかは。

その日に向かって、今は歩いている。



「頑張れ」って、言って。

最後の夜に、最後のお願いをして、抱きしめてもらった。

「"よしよし"して」

「がんばれって言って」


掠れた声であなたが言った、「がんばれ」。


宝物みたいに唱えるよ。
あるいは、呪文みたいに。


がんばれ

がんばれ


私。

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