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夥しい孤独 13
4月6日
昨日、マッチングアプリでメッセージをくれた人に会った。
新しい出会い、というのは正直もううんざりで、そんな気は起きないけれど、さみしいものは、さみしい。
気楽に、お酒を飲んだりごはんを食べたり、相性が合えば、そういうことだけできる人。
そういう人がいたらなあと思って、登録してしまった。
だけどいざ会うと、気軽にと自分で言いながら、終始、粘着質な視線を向けられることがしんどくて。
事前に写メを送ってもらったけど、実際会うとやっぱり印象も違うし、何より会話が、全然面白くない。
なんとなく噛み合わない会話。
うわべだけのやりとり。
あの人とは、はじめて会った時から、きちんと会話している、という感覚があった。
他愛もない会話でも、しっくりくる安心感があった。
粘着質な視線を適当に交わしながら、この人と、キス、できるかな、と考えてみた。
……うん、無理。
ましてやそれ以上のことなんて。
そう判断したら、もうひたすら、早く帰りたいとばかり思っていた。
つくづく、ごはんって、「誰と食べるか」なんだなとも思う。
あの人の口癖だった。
「どんな料理を食べるか」より、「誰と食べるか」を重視するから、何を食べたい、というのが特にない人だった。
お洒落なスペイン料理も、美味しいとも、美味しくないとも、特に感じない。
食べ終わって店を出たとたん、手を強引に繋がれた。
指を絡ませる繋ぎ方。
反射的に、鳥肌が立った。
支払ってもらったご飯代の半額を払おうとしたら細かいのがなくて、コンビニに行きたいと伝えて駅のほうに向かおうとしたけど、あっちにあったはず、とホテル街のほうへ誘導される。
その間も指をなぞられたり、ぎゅうぎゅうと強く握られたり。
辿り着いたコンビニ。
外観を見た瞬間、思い出が蘇った。
もう何年も行かなくなっていたけれど、私がまだ妹と二人暮らしをしていた頃、通っていたラブホテル街の中の、お惣菜が充実していたコンビニ。
不意に、あの頃の二人が、私の前を通り過ぎて、嬉しそうに、惣菜や翌日の朝のパンを選びだした。
くすくす、笑いあって。
あの人は、いつもすごく真剣に商品を選ぶ。
私より時間をかけて、かがんで、目を窄めて吟味する様子を見て、私は笑っている。
耐えられなかった。
今すぐ駆け出して、幻覚から逃げ出してしまいたかった。
お水を買ってお札を崩し、断る相手に無理矢理半額を渡し、私から駅の方へ歩き出す。
もう、取り繕うことも出来なかった。
駅までの地下道。
ほんの1ヶ月半くらい前に、あの人と二人で歩いたのに。
手を繋いで、笑いあいながら。
あのぬくもりが、甦る。
…私、何をしてるんだろう。
こんなところで、ほとんど見ず知らずの、好きでもなんでもない人と、繋ぎたくもない手を繋いでる。
何を、してるんだろう。
マスクをしていて良かったと思った。
ほとんど、泣いてしまいそうだった。
「ねえ、今日こんなことがあったんだよ。
こんな人に会って、いきなり手を繋がれて、気持ち悪かった」
そんなふうに、あの人に聞いてほしかった。
「それは大変やったな」
そう言って、頭をなでて欲しかった。
なんで、私はこんな目に遭ってるんだろう。
自分で選んで自分で会ったくせに、そう思った。
そもそも、あなたが私をあんなふうに捨てなければ。
新しい彼女なんか作らなければ。
私はこんなわけのわからない、よく知らない人に会う必要なんかなかったのに。
こんなに虚しくて、みじめな思いをしなくて済んだのに。
私がこんなに、こんなに孤独なのに。
あなたは新しい彼女と、満ち足りた日々を送っているんだろうか。
私だけが、蚊帳の外で。
ひとりぼっちで。
もうずいぶん、平気になってたのに。
あなたなんか、いなくてもいいと思っていたのに。
振り出しに戻ったよ。
せっかく、強くなったと思ったのに。
台無しだ、ぜんぶ。
さみしい
さみしい
会いたい。
会いたくてたまらない。
さみしくて会いたくて、死んでしまう。
もう、戻れないなら。
二度と、戻らないなら。
もういっそ、死んでしまいたいよ。
たすけてよ
たすけて
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