古墳シスターズの活動日誌その4


というわけではじまりました。古墳シスターズの歴史第一回です。第一回目は「古墳シスターズの成り立ち」です。


古墳シスターズという組織がいかような経過をたどって発足にいたったか、その誕生秘話です。当時の雰囲気なんかをよりリアルに感じてもらえたらと、それっぽく物語風にしてます。ためになる内容は信じられないくらいないので、決してわざわざ時間などを割かずに、通勤通学などの片手間にお読み頂ければ幸いです。




〜主要な登場人物〜


・松山(僕)

・松本←古墳シスターズのギター担当  

・K←古墳シスターズ初代ベース

・T←古墳シスターズ初代ドラム



※古墳シスターズはメンバー交代を経ているので旧メンバーが存在するんですが、元気にどこかで暮らしてるであろう彼らの平穏な生活を守るため一応伏せ字にしております。





ところは香川県高松市。新緑まぶしいある春の日のこと。


その日、僕こと松山はドコモショップの個室トイレで一人静かにうめいておりました。


大学3年生の松山は当時なにかにつけ腹をくだすたちで、この日も滞納していた料金支払いのためおとずれたドコモショップで腹をくだし、たった一つしかない個室トイレに閉じこもっていたのです。


もちろん正確な額は覚えておりませんが、決して安くはありませんでした。そして彼は、ここを出てからも電力会社へ滞納している先月の電気代、それから家賃を払いに銀行へと行かねばなりませんでした。

できることなら一生をここで終えてしまいたい、いっそのことショップの伝説になってしまいたい。期せずして、便座でうずくまるその姿は神にそう願う姿そのものだったかもしれません。

しかしながらやがて彼は個室トイレから出てきます。伝説になる前に、個室の扉がノックされたからです。




とても爽やかな春の空でした。

街を往く人たちの姿もどことなく楽しげでおろしたばかりのスーツも制服も、車も、自転車も、商店街のアーケードも、何もかもがきらきらと輝いています。


彼はそんな景色をなるべく見ないよう、足元に転がり落ちたため息をつま先で蹴飛ばしながら、賑やかな商店街を歩いていきました。


鬱屈とした気持ちの正体は分かりませんでした。
気づいたときにはいつの間にか側にやってきて、それからずっと、寝ている時やお酒に侵されているとき以外、それはいつも彼と一緒にありました。

この気持ちはいったいなんなのだろう……。授業もろくに行かずにのんべんだらりとしていることへの後ろめたさなのか、それとも友人がみな就職や進学決めていくことへの焦りなのか、はたまたもっと別のなにかなのか。治らない腹痛のせいか。


あてもなく眺める海にも、お金もないくせにやってきた本屋さんのどの棚にもその答えは見つかりません。

そうして気づけば枕元のお酒に「また明日」などと呟いては1日を終える。それが彼の日課でした。




ありとあらゆる料金を支払い、中にレシートしか入っていない財布とともに家へ帰ろうとするころにはすっかり夕暮れの時分でした。まだ冬の尾ひれの残る三月でしたので、商店街の人通りも昼過ぎに比べるとずいぶん少なくなっていたように思います。



何か特別な心づもりがあったわけではありません。とりわけその日の夕暮れが寂しかったわけでも、遠すぎる次の給料日に今度こそ死を予感したわけでもありません。


だからKに電話したのもやはりいつもの、なんでもない日常からほんの少しだけはみ出たに過ぎなかったのです。それが結果的に古墳シスターズという生命体をのちに産み落とすことになるとは、当時の彼を含め誰も想像していませんでした。


当時の松山の友達といえば、そのほとんどが優良学生で、たまに留年するようなやつもちらほらとはいましたが、それでも彼ほどディープにミスってるやつはそうそうおらず、みんな何かしら前途あるやつばかりでした。


ただその中にも松山のような例外もいて、その一人が同じ大学に通うKでした。

Kとは大学に入ってからの仲で、もともと特別仲がよかったわけではありませんが、ただ松山と同様、いわば「ろ過」残りかすとでも言いますか、大学一年生、二年生、三年生と学年を重ね、ろ紙で上質な学生がこされていく中、最後までともに残ってしまい、心細くなったのでしょう、ふと隣を見ればすぐ近くにいた、というあんばいで、最近松山のもっぱら心の友となってしまった男、それがKでした。


「K、バンドやろう。俺がギター持って歌ってお前がベース」

前置きらしい前置きはなかったように思います。

『意味わからんけど、ええよ』

電話の向こうで、さすがのKも少し呆れたようでしたが、なんとなく彼も松山と似たような気持ちでいたのかもしれません。快諾でした。


まさかそれから何年も、現代の蟹工船と呼ばれる通称「はにわ号」に収容されるとは彼もこのとき想像だにしていなかったでしょう。


Kがこの軽はずみな承諾を後悔するのはそれから一年ほど先のお話です。

つづく


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