古墳シスターズの活動日誌その6
久しぶりの更新になります。古墳シスターズのボーカルギター松山です。
先日、ぼくたち古墳シスターズの結成10周年を記念したツアー「そろそろ夢なら覚めてくれツアー2023」がファイナルシリーズ含め全公演無事に終わりました。
来てくださった皆さん、ライブハウス関係者の皆さん、対バンしてくれた皆さん本当にありがとうございました。楽しんでもらえたでしょうか。
このツアーがまだ構想段階にあったころからスローガンとして掲げていた通り、今回のツアーでもたくさんの町に行くことができました。
ようやくライブハウスに行けるようになったっていう人も多いだろうし、僕らも会いたかった。それが少なからず叶ったことは本当に幸せに思います。
ただ欲を言えば、まだまだたくさんの町に行きたかったです。
じゃあ行けばよかったじゃないかと言われればそれまでで、これはもう完全に僕らの力不足。
行きたいところへ行きたいときに行くこと、ライブをしたいときにライブができること……。
「バンドの力」というものを示す指標のひとつに、そんなのがあると思ってる僕ですが、それにならって言えば古墳シスターズはまだ「バンドの力」が足りてませんでした。もっと行きたかったなあ。楽しみにしててくれた人、ごめんなさい。精進して、また必ず行きます。
さて、そうしてツアーも一段落つき、あとは二ヶ月後に控えるツアーの集大成【はにフェス2024】を残すのみとなり、ずいぶんご無沙汰となりましたが、こちらのnoteも改めて更新していきたいと思います。
みなさんは覚えてますでしょうか
もはや記憶の彼方となりつつある「古墳シスターズの10年史」シリーズ。
10周年の節目にこれまでの活動を振り返ってみようという企画です。
最後の記事はもう数ヶ月前になるんですね…いやはや。ずいぶんサボらせて頂きました。
時系列順に展開されるこの「古墳シスターズの歴史」、前回の記事を見てみるとなんとまだギターの松本くんすら加入していませんでした。このペースだとラースは永遠に出てきませんね。
本当はツアーの最中にもちょっとずつ更新していくつもりだったのですが、あまりにもライブにはしゃいでしまいこの有り様になってしまいました。まあそもそも別にやらなくていいというか、誰にやれと言われたわけではないんですが、しかしまあ自分でやると言った以上やりきらないと、です。ロックバンドのボーカルですからね。言ったことはやりきらないと。
できれば残り二ヶ月ほどとなったツアーの集大成「はにフェス2024」までには終えたいなあとか考えているんですが…うーん…。いやまあいいんですよ、とりあえずやるんです僕は。やるんです。はい
ということで大変ながらくお待たせいたしました、「古墳シスターズの歴史」第4?回目です。
今回はついに松本くんの登場回となります。稀代の酒気帯びギタリスト松本くんがいかにして僕たちの前に現れたか、その一部始終です。
なんせその後10年来の付き合いとなる彼の登場ですからね。なるべくダイナミックに、センセーショナルなお話にできたらと思ってますが、まーどれくらいかかるか……もっとやるべきことあるはずなんですが……
まあ言うても仕方ない。やりましょう。どうぞ。
〜あらすじ〜
周りの友人たちが次々と就職内定、大学院進学と華麗に未来を決めていく中、「バンド結成」という愚の骨頂極まりない進路に舵を切った松山とその友人KとT。
バンド名(古墳シスターズ)も無事に決まり、素人ながらも「なんちゃって曲作り」もスタート。残すはあと1人のメンバー「ギタリスト」を探すだけとなりました………
〜主要な登場人物〜
・松山(僕)
・松本←古墳シスターズのギター
・K←古墳シスターズ初代ベース
・T←古墳シスターズ初代ドラム
春の穏やかな日差しに照らされた真新しいつま先たちが行き交う大学キャンパス。
そのすみっこにある小さな喫煙所で松山とKは、目の前をゆく新入生たちの群れを眺めておりました。
このころすでに勉学を放棄し、なかば中退生の影をしのばせていた彼ら。
入学式が行われたばかりのキャンパスという、前途を己の愚かな行いで曇らせた留年生にとってほとんど磔刑場みたいな現場へとふたりがやってきたのは、この日、彼らが所属する軽音サークル主催の新入生歓迎ライブがあるからでした。
時刻はお昼を過ぎたころ。
ライブ自体はすでに始まってる時間でしたんで、本来ならもうふたりは教育学部棟にある、会場のナントカ会館にいて、うら若き新入生たちのバンド演奏を眺めているころだったのですが、いかんせん久しぶりの登校だった彼ら。
思いがけず遭遇してしまったキャンパスの活気に、いつまでたってもナントカ会館へと行けないまま、こうして喫煙所に磔にされていたのです。
考えてみればそりゃ入学式の終わったばかりのキャンパスですから、新入生たちがたくさんいて、彼らが無邪気に闊歩していることなんかくらい前もって想像できたようものです。油断していたんですね。すっかり。
飛び交うおびただしい数の笑い声や新天地を駆ける軽やかな靴音、さらには風に翻るスカートの衣擦れの音…
それら一切は石つぶてとなり、のうのうと大学へとやってきた留年生めがけて一目散に飛んでいくと、彼らの皮膚を引き裂き赤い肉を散らせました。
見る人が見れば、血まみれの二人組がそこに見えたかもしれません。
やがてKが松山の肩に優しく手を置いてやるまでこの磔刑は続いていたのですが、ようやくふたりの全身が血で染め上がった頃ふたりは当初の目的であったところの、新入生歓迎ライブへと向かうことに。時間にして小一時間ほど経った頃です。
喫煙所を離れ、お互いになにも言葉を発することなく歩いていった彼らの後ろにはおびただしい血痕が残っていたとかいなかったとか言われてますが、まあそれはとてもどうでもいいことです。
ふたりが所属する軽音サークル。名前は「軽音BEE」といいます。
軽音BEEでは一回生から三回生までを現役生と呼び、四回生以降を「元老院」と呼称しました。
平時行われる定期ライブでは現役生たちが主役で、元老院たちは出てきません。
中には、定期ライブにも出てくる元老院もいましたが、現役生から投げかけられる冷ややかな視線もあって出演していたのは心臓に毛が生えたごく僅かなやつだけでした。
この日行われていた新入生歓迎ライブも現役生が対象で、この春に元老院となった松山もKも出ることはなく、あくまで見物人でした。
会場であるナントカ会館の入口につくと演奏を終えた新入生たちが賑やかに写真撮影をしていましたが、血まみれのふたりはなるべくそれらを見ないようにして階段を登りました。
おれたちがなぜこんな思いをしなければならないのか、一体何をしたというのか……
そんな自問を抱きながら息も絶え絶え階段を登っていったわけですが、答えはめちゃくちゃ簡単で、入学してから何もしてこなかったからなんですが、ふたりがその解に行き着くのはそれからしばらく経ってからのこと。
すでに学校を辞去しバンド活動に従事し、真冬の車内から星の輝く満点の夜空を眺めていたときのこと…とかなんとか適当に言ってみますがこれまたどうでもいいので割愛。学校いけ。
とはいえ、この日ふたりがわざわざそんな辛い思いをしてまでこの新入生歓迎ライブに訪れた理由。いやほんとに。全然帰ってててもおかしくありませんでした。今となって、何かしらの神がかり的な、運命のなんたらかんたらが働いてたんじゃないかとか思ってしまいます。どうなんでしょう。
なんせここで帰っていたらその後の古墳シスターズは存在しないわけですからね。後から振り返れば人生の転換期ってのは案外地味なもんだったりするらしいですから。知らんですが。
で、ふたりがこの日新入生歓迎ライブにやってきた理由ですが、それはとある新入生に会うためでした。
とある新入生。
もうお気づきかと思いますが、はい、松本くんです。ふたりは松本くんに会いにきたのでした。
というのも、この時すでに松本くんと松山たちは顔見知りで、この日より少し前にあった新入生歓迎パーティ(?)みたいなやつで両者はすでに相まみえていたのです。
松本くんとのファーストエンカウントがあったのは、松山たちが「ボックス」と呼んでいた、サークルの部室みたいなところでした。
松本、松本くん、まつもっくん、まっちゃん、キング…
今でこそ古墳シスターズのギタリストとしてあちこちで名を馳せて(?)いる彼ですが、そんな彼との出会いはどんなものだったのか。なんせその後10年以上もの付き合いになる男です。皆さんは考えるのではないでしょうか。それはさぞ劇的なものだったろうと、さぞ壮大で、さぞ素敵なものだったろうと……。
残念。
全くそんなことありません。というか松山がほとんど覚えていません。すみません。本当に。多分それくらいしれっと現れました。
余談ですが、松山が松本との出会いを後に人に語るときはこのことを逆手にとり、センセーショナルな嘘のエピソードを言うようにしてます。
やれ全裸だったとか、やれ桜の木の上にいただとか、やれ全裸で尻から万国旗を垂らしていただとか、まあそういうくだらないやつです。
だって面白くないんだもん…。
それくらいしれっと、ほとんど記憶らないような形で松本くんは現れたのです。
それでも、後日、わざわざ松本くんの新入生歓迎ライブを見に行くことになったの は、松本くんが松山と母校が一緒だったということが判明したり、両者好きな音楽が似通ってたりということがあったからで、「それなら今度のライブ見に行くよ」みたいな、当時はかわいい後輩ができたとかくらいに松山は思っていたんでしょう、そんなことがあって、で、本当に「なんとなく」な理由で見にきただけだったのです。
さて。
記憶にない、覚えていない、面白くない。散々な物言いですね。
まるで松本くんが悪いみたいになってます。
しかしながらそれらは裏返せば松本くんがそれぐらい無難な、いわば一般的な大学生の範疇にいたということの証明にもなるでしょう。
無難すなわち健全。
取り立てて不服の申しようのない、素敵な男子だったということです。かわいい後輩ができた、とさえ松山は思ってたくらいですから。
そうじゃなきゃきません、こんな地獄。
「ところで松本くん、なんのコピーバンドで出るんだっけ」
「これだね」
Kが指差したのは木の板の上に貼られた今日のライブのお品書き。
全部何かしらのバンドのコピーバンドが、それぞれコピーするバンドの名前をもじったり、はたまたそのまんまだったりして時間の経過とともに書かれていました。タイムテーブルというやつです。
「松本くん、『MAN WITH A MISSION』やるんや…」
このときはまだ松本くんの人柄も趣味嗜好もほとんど知らなかった松山。
この新入生歓迎ライブでは基本的に新入生たちから好きなバンドを聞いて、上級生たちが混じってそのコピーバンドを結成する、みたいな仕組みでした。
なのでこの日出てくるバンドは、そのバンドの新入生メンバーが好きなアーティストのコピーバンド、つまり松本くん、マンウィズ好きやったんですね。
ちなみに松本くんのパートはギターだったんですが、マンウィズのギター、普通にむずいです。
「松本くん、多分だけどギターうまくないと思う」
「俺もそう思う」
Kも、あの純朴な男の子があんなギタープレイができるとはなんとなく想像しにくかったのでしょう。松山の不躾な偏見に同意してくれました。
とはいえ。
素朴な男の子がギターを持てばひとたびロックスター。
いいじゃないですか。それこそロックの醍醐味です。
たとえそれがサークルの演奏会だろうと、大きなステージの上だろうとそんなのはギターを手にした少年はその間、無敵なのですから。
上手い下手は関係ない、拙い演奏でもかまわない…誰よりも松本くん自身に楽しんでほしい……
とかなんとか、親心とでもいうのかなんなのか、そんなことを思いながら松山とKはすでに松本をあったかく見守る体制になってました。
そうしてついにやってきた『MAN WITH A MISSION』もとい松本くんバンド。
いやはや、まさにここからでした。古墳シスターズは。
この瞬間から、向こう10年続くバンド「古墳シスターズ」がはじまったといっても過言ではありません。
これよりおよそ30分間。
たった30分間に起こる出来事が数名の人間の人生の大きく変えることになります。
松山たちは騙されていたのです。
いや、彼らだけではなく、きっとそれはそこにいた全員が、あの入学間もない松本くんを知ってる彼のバンドメンバーの同級生も、上級生もみな、彼の純朴なペルソナに騙されていたのです。
今でこそ言えます…純粋とは狂気であると…。
けたたましい入場BGMが流れ、火蓋が切って落とされた松本劇場、まずは彼のギターを持たない登場から幕を開けます。
(………ギターは?)
新入生歓迎パーティーで聞いていた彼のギター。
聞くところによると、アニメ『けいおん!』に触発されて購入にいたったというストラトギターが、なぜか見当たりません。
フロアの同級、上級生の拍手の中、松本くんはなぜか手ぶらでステージ中央で俯いていました。
(うわ…)
フロアもメンバーも、横にいるKも、誰も気付いていないようでしたが、今でも松山にはそのときの松本くんの目が忘れられません。
健全な大学生しかいないはずのフロアを、なぜか怨嗟の眼差しで睨めつける目…
(いったいなにが…)
新入生歓迎ライブというのは、言ってしまえば新入生たちのお披露目、すなわち自己紹介を兼ねた催しです。
だから「これからよろしくお願いします」というような、そうまでいかないにしても、どこか気恥ずかしそうな、謙虚な姿があってこそすれ、そんな怨嗟にまみれた視線をほとんど初対面のフロアに投げる道理はないはずなのです…それともいたのでしょうか…仇の者が…。
そして悲しいことに松山の予感は当たってしまいます。ドラムのカウントとともに始まった終わりの始まり。
気が付くと松本くんはマイクを握りしめてフロアに飛び降りていました。
この瞬間、フロアに起きた小さな悲鳴も、徒党を組んでいた女の子たちの、身をかばうようにしてはねのいた姿も、松山はまだ昨日のことのように覚えています。
曲目は忘れてしまいました。
たしかにフロアにはMAN WITH A MISSIONの楽曲が流れていたはずです。それが思い出せないのはただ単純に松山の記憶力がないのか、それとも目の当たりにした惨劇に聴覚を奪われていたのか。今となってはもう分かりません。
かつて松本くんと呼ばれていた「それ」は、数秒のうちに、ゲーム会社CAPCOMの大ヒットシリーズ「バイオハザード」に登場するクリーチャーの一種となっていたのです。
マイクを握りしめ、床に倒れ込んだ「それ」
動かせる関節の全ては動き、飲み干した王水に苦しんでいるのか、天に、地に、虚空に向かって放たれる咆哮。
怨嗟にまみれた両眼はもはや白目の部分がなくなっており、いったいどこへ繋がっているのかさえ分からない深い闇の穴へと変わり果てていました。
それから30分ほど経ったころ。フロアには新入生、上級生の垣根はどこにもなく、あったのは人類とそれ以外という区分だけになっておりました。
その後のことを松山はあまりよく覚えていません。フロアがその後どういう状況になっていたのか。飛び退いた女の子たちがその後もサークルにいたのか辞めたのか。その後のバンドは演奏をしたのか。
松山が覚えているのはその後、会場の外でクリーチャーに「よかったら一緒にバンドしよう」と申し込んだことだけです。
余談ですが、このとき少々素敵なことがあったのを覚えています。
松山が、世界の終末後、クリーチャーに一緒にバンドをしようと申し出たとき、クリーチャー側から「ぼくも言おうと思ってました」と話されたということです。
クリーチャーが何を以てしてそう思っていたのか、結局松山は今に至るまでよく分かっていませんが、少しロマンチックな言い方をすれば、理屈じゃない何かが起きたんだと思います。
これより向こう10年は続くバンド「古墳シスターズ」は始まりました。
名曲「窓辺の歌」ができるまであと10年。