ラブタイツ炎上事件に関するネット記事の問題点2(wezzy篇)

はじめに

一昨年のアツギ「ラブタイツ」炎上事件については、当時たくさんのネット記事が出回っていた。だが、それらは内容が不正確なものが多い。先日書いたnoteと同様に、記事中の問題個所をいくつか検討する。

今回はこちらの記事を。文は和久井香菜子氏。途中からは治部れんげ氏への聞き取りになる。

この記事の問題点

まずは冒頭、和久井氏によるこちらの一文。

イラストはアツギの商品を履いた女性を描いたもので、制服を着た学生、大きな胸や短いスカートなど性的な要素を強調しているものもあった。

「イラストはアツギの商品を履いた女性を描いたもの」という前段の指摘は、多くのまとめ記事が見落としていたことで、この点は正しい。

だが、「制服を着た学生」「大きな胸」「短いスカート」は、必ずしも「性的な要素」とは限らないし、また、作品中で特に「強調」されてもいない。
これらが「性的な要素」となるのは、何らかの文脈が付加されているか、見た人の側に何らかのバイアスがある場合だろう。
衣服や身体の部位を、ただ頭ごなしに「性的な要素」とみなすのは、差別的だと思う。

あらためてイラストをすべて確認してみたが、私が見る限りでは、
「制服を着た学生」「大きな胸」「短いスカート」を、ことさらに「強調」した作品は、存在しなかった

失礼ながら、和久井氏はラブタイツのイラストを充分に精査することなしに、先入観だけで決めつけているのではないだろうか。

次にこちらの段落。

多くの女性にとってタイツは防寒のために履くもので、透け感の高いストッキングだと不安だから、安全に露出を防ぐ衣装としてタイツを選ぶ人も多い。ラブタイツキャンペーンは、「タイツを履いた脚は性的魅力に富んでいる」というフェティシズムを公言し、女性たちの安心感を脅かした。

この書きぶりからは、タイツは防寒のために履かれるものなのに、ラブタイツキャンペーンは、透け感の高いタイツを描いて、性的なフェティシズムを表現した、と仰りたいようだ。

だが、ラブタイツキャンペーンで描かれていたのは「タイツ」だけではなく、ストッキング製品も含まれていた。ストッキングを履く理由は、必ずしも「防寒」のためだけではない。
和久井氏は、ラブタイツで描かれたのは「タイツ」だけだと誤解しておられるのではないだろうか。

ラブタイツでは、夏用ストッキングから400デニール相当のタイツまで多様な製品が描かれていた。「透け感の高い」製品から「防寒のため」の製品まで、さまざまなバリエーションがあった。「透け感の高い」製品ばかりが描かれたわけではない。
各イラストレーターはそれらの製品の色合い、柄、質感等の特徴を精密に描き分けていた。つまり、これらのイラストのテーマは、アツギ製品のディテールそのものであり、「性的魅力」「フェティシズム」とはまったく無縁のものだ。

おそらく和久井氏は、「透け感の高い」ストッキング製品のイラストを目にされて、それを「フェティッシュ」な「タイツ」のイラストだと誤認したものと思われる。

公式ツイートさえ確認すれば、そこには製品名やデニール数が明記されていたから、誤解することはなかった。やはり和久井氏は、オリジナルの広告を見ることなく、魚拓まとめ等のネット記事を見ただけで、タイツとストッキングの違いさえ気づかずに論じておられた可能性が高い。

このように前提が誤っているとすれば、後半の結論はもはやこの方の空想でしかない。再掲すると、

タイツを履いた脚は性的魅力に富んでいる」というフェティシズムを公言し、女性たちの安心感を脅かした

断定しておられるが、アツギがフェティシズムを公言したという客観的な証拠資料が何か存在するのだろうか。もしも上記の思い違い以外には存在しないのだとすれば、この言い方は、
企業とイラストレーター諸氏に対して非常に失礼だと思う。


次に、治部れんげ先生のコメント部分。

 具体的に言えば、すごく短いスカートを履いた女子のイラストがたくさんありました。しかし実際にタイツを履く女性の多くは、ああいったイメージを求めてタイツを購入していません。ですからラブタイツキャンペーンは、実際にタイツを買っている人たちではなく、タイツを履いた女性を鑑賞する層に向けられていました。


ここで言う「すごく短いスカートを履いた女子のイラスト」は、実は、ラブタイツのイラストには、殆ど見当たらない。個人の主観によるところがあるとしても、「たくさん」あるとまでは到底言えない。
具体的に言えば、ミニスカートが1~2枚、キュロットやショートパンツが4~5枚。残り20枚以上は膝丈のスカートである。構図の関係で判然としない絵もあるけれど、「すごく短い」「たくさん」と形容するのは、あまりにも恣意的で不正確である。治部先生も、イラストすべてを精査してはおられないのではないか。

このように前提となる事実に疑問がある以上、「ですから」以下の結論をただちに肯定することはできない。
「すごく短いスカート」「ああいったイメージ」というバイアスを排して、あらためて客観的に検討する必要がある。治部先生の結論を再掲する。

ラブタイツキャンペーンは、実際にタイツを買っている人たちではなく、タイツを履いた女性を鑑賞する層に向けられていました

まず、ラブタイツキャンペーンは、アツギ公式ツイッター上で展開された。つまりフォロワーの多くは、アツギ製品の購買層である。
次に、公式ツイートには、商品名、パッケージ写真、商品詳細page、そしてイラストが、ワンツイート内に収録されていた。
さらに、商品詳細pageからは、商品を通信販売で購入できた。また並行してプレゼント企画も実施されていた。

これらの事実からすると、ラブタイツキャンペーンは、「実際にタイツを買っている人たち」に向けたキャンペーンと言わざるを得ないであろう。「タイツを履いた女性を鑑賞する層」に向けたのなら、商品名や通販リンクなどに意味はないはずだから。

そもそも衣料品メーカーの広告が「実際にタイツを買っている人たち」以外に向けられることなどありうるのだろうか。営利企業であるアツギが。そんなもの稟議も決裁も通らないだろう。仮に非常に特殊な事例がありうるのだとしても、治部先生からは、主観的な思い込み以外に、客観的な事実や証拠を摘示した説明は一切なされていない。

治部先生も、和久井氏と同様に、先入観に基づく思い込みから事実を誤認し、企画趣旨とは真反対の結論に至っているように思われる。上記発言も、
企業とイラストレーター諸氏に対して非常に失礼だと思う。

おわりに

このお二人は、ともに先入観に基づく事実誤認をもとに、企業及びイラストレーターの意思とは真逆の、非常識な意見を主張しておられる。

とくに治部先生の見解は、Wikipediaのアツギの項目でも引用され、多くの方の目に留まった。このネット記事は、いわゆる「炎上」の拡大に寄与した可能性がある。

「炎上」事件から2年が過ぎた今でも、アツギ関係者や参加イラストレーターを非難する意見を見かける。そのさいネット記事の意見を、受け売りでそのまま引用している場合がある。
だが、ここでも述べたように、それらの多くは不正確で信用に値しない。

アツギ「ラブタイツ」炎上事件の実質は、企業の企画趣旨やイラストレーターの表現意図とは真反対の恣意的解釈に基づく、理不尽な誹謗中傷である。
アツギ関係者及びイラストレーター諸氏こそが、この「炎上」事件の被害者であると思う。

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