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国語教育における「中心」という用語を考える-1                        話の「中心」は何?

 学習指導要領には「中心」という言葉が多く登場する。
 小学校国語の第3学年及び第4学年の「読むこと」の指導事項には次の項目がある。
 
 ウ 目的を意識して,中心となる語や文を見付けて要約すること。
 
 また小学校国語の解説編では要旨について次のように述べている。
 
要旨とは、書き手が文章で取り上げている内容の中心となる事柄や、書き手の考えの中心となる事柄などである。要旨を把握するためには、文章全体の構成を捉えることが必要になる。文章の各部分だけを取り上げるのではなく、全体を通してどのように構成されているのかを正確に捉えることが重要である。
 

光村小3の事例を考える

 指導要領に出ているのだから、当然のことながら教科書にも出てくる。
2024年度版光村図書小学国語3年上の教科書p65は、「全体と中心」というタイトルで上下二段に書かれている。上段は「はじめ」「中」「おわり」という文章構成について説明し、下段は「中心」について次のように述べる。
 
 文章を読むときだけではなく、話を聞くときにも、中心は何かを考えましょう。また、自分が話したり書いたりするときには、伝えたいことの中心をはっきりさせてから、組み立てを考えるようにしましょう。
 
 その後に、校長先生らしき絵とともに次のように書かれている。
 
▼次の話の中心は何か、考えましょう?
 五月になりましたが、新しい学年にはなれましたか。同じ学年の友だちだけでなく、ほかの学年の友だちとも、楽しくすごせるといいですね。それでは、学校のみんなで楽しい学校生活にするには、どうしたらよいでしょうか。
 あいさつは、したほうも、されたほうも気持ちよくなりますね。また、みんなで遊んだり、歌ったりするのもよいでしょう。
 みんなで楽しく生活するために、どんなことができそうか、ぜひ、みなさんじしんで考えてみましょう。
 
                       (光村3年上 P65)
 
 朝礼での校長先生のお話の中心を考えようといった課題である。ところで、この話の中心は何だろうか?
 先日、研究会の席上でこの課題を示し、中心は何か聞いてみた。以下のような意見が出された。
 
・あいさつやみんなで遊んだり歌ったりすることを大切にしてほしい
・みんなで楽しく生活するためにどんなことができるか、考えてみましょう。
・学校のみんなで楽しく生活するための方法
 
 中心のとらえ方にズレがあることがわかる。大人でも揺れるのだから、子どもたちの考えが1つに収斂していかないことが予想される。(現時点で、私は指導書を見ていない)
 ただ、指導書にどのように書かれていようと、中心を考えさせた上で、いろいろな答えを認めることはできないだろう。そうなると、人によって中心は違ってよいことになってしまう。
 

2020年度版との比較

 今年から新しい教科書になったので、前の2020年度版ではどうなっていたのかを確認してみた。すると小学3年上p59に「全体と中心」というタイトルがあり、下段のはじめに次のように書かれていた。
 
 文章を読むときだけではなく、話したり聞いたり書いたりするときにも、全体に対する中心がどこかを考えましょう。「問い」と「答え」を見つけることは、その手がかりになります。
 
 2024年版とは異なっている。それだけではない。上段で次のような説明がされているのである。
 
「こまを楽しむ」では、「はじめ」のぶぶんに、文章で何が書かれているのかが、「問い」の形でしめされています。この「問い」にたいする「答え」が、文章全体や段落の中心になります。
 
 中心とは何かをはっきりと説明しているのである。2024年度版には、この説明がない。
 下段は、先ほどの文章に続けて、校長先生らしき人の絵とともに次のように書かれている。
 
▼次の話の中心はどこか、考えましょう。
 五月になりましたが、新しい学年にはなれましたか。どんどん楽しい学校にしていきたいですね。それでは、学校のみんなで楽しく生活にするには、どうしたらいいのでしょうか。
 遊んだり、歌を歌ったりするのもいいでしょう。でも、大切なのは、あいさつです。あいさつは、したほうも、されたほうも気持ちよくなりますね。まずは、毎日のあいさつからはじめましょう。

 
 校長先生の話も変わっている。2段落で、中心が分かりやすい。「学校のみんなで楽しく生活にするには、どうしたらいいのでしょうか。」と問いかけ、それに対して「まずは、毎日のあいさつからはじめましょう。」と答えて終わっている。上段に書かれていた中心の説明とも重なっており、よく分かる。以下が中心である。
 
楽しく学校生活をするためには、まず毎日のあいさつからはじめましょう。
 
 2024年度版と2020年度版、二つを比べてみると、違いが明らかである。2020年度版の方が中心分かりやすく説明されており、課題の答えも明快である。2024年度版は中心がわかりにくい。
 教科書を使用する先生方は、ましてや子どもたちも、前の教科書と比較することはまずない。2024年度版を用いた場合、中心がよく分からないという結論になってしまいかねない。
 子どもたちの答えが揺れた場合、中心をどのように説明するのか。また、その説明に子どもたちは納得するのだろうか。
 子どもたちにとって、中心ってよく分からない、ということを教えるのであれば何の意味もない。2024年度版の改訂は、この箇所に限る限り後退している。
 なぜこのようなことが起こったのか?そこについての私なりの考えもあるが、それは一先ず置くことにする。大事なことは、分かりにくくなった問題をどうするかということである。
 最良の対応は、2020年度版p59をプリントして、代用することだと思う。3年生のはじめの段階で、子どもたちをわざわざ分かりにくいところに連れて行く必要はない。
 

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