#ヴァンパイアパーティー かおりん×うしお 『おじさんとワタシ』

♧…おじさん(凪波うしお)
♦…香織(かおりんさん)

※ 「」の中はセリフっぽく
 それ以外はナレーションぽい
 読み方でお願いします🙇


♦(ナレーションっぽく)
 夏の暑さも引き 秋の装いの
 代名詞とも言えるキンモクセイの
 柔らかな香りが 部屋に入ってくる

♦「すっかり涼しくなったね  おじさん
  クーラー要らなくなるね」
♧「全くだ 昨日の夜なんかあやうく
  風邪引きそうになったぞ」
♦「また机で寝てたんでしょ
  こん詰めると 良いものは
  作れないって自分で言うくせに」
♧「いや 除湿をつけっぱにした」
♦「もっと駄目じゃぁん」

♦なんの取り留めがない会話も
 今となっては日常である
 おじさんのマンションに居候になって
 はや5年 持ちつ持たれつの間柄だが…

♦「そう言えば 検診は?
  もう受けないとだめなんでしょ?」
♧「あン…まぁな しかし
  何年生きてても身体だけは
  ガタが来るからなぁ」
♦「でも怪我とかはすぐ治るんだもんね
  良いなぁ 不老不死」
♧「馬鹿お前、厳密には  ちゃんと
  老けるし 怪我の治りが早いのと
  老化は関係ねぇんだよ。」
♦「そういうもんなの?」
♧「そういうもんなの吸血鬼は」

♦そう 隣にいるこのおじさんは
 何を隠そう 吸血鬼なのである

♧ヴァンパイアパーティー
 シチュエーションボイス

♦『おじさんとワタシ』


♦政府が発令した
 「異種族保護共生法」
  (いしゅぞくほご きょうせいほう)
 により 日本のみならず世界中の
    所謂(いわゆる) 人ではないが
 人間社会に溶け込み生活する
 異種族に対して 必要最低限の
 日常生活が保証されるようになり
 しばらく経つが まさか私の叔父も
 吸血鬼だとは夢にも思わなかった

♧「今日晩御飯なに食いたい」
♦「うーん…なんでも良いなぁ」
♧「一番困るんだわ そういうの」
♦「んじゃさ お散歩がてら
  買い物行かない? 天気良いし」
♧「それも良いな」

♦急な報道や発令にも関わらず
 世間は意外と これを受け入れ
 特に暴動や過激な目立つ輩が
 現れる訳でもなく各々自身の
 生活を謳歌している いや、
 厳密に言えば日本政府の根回しが
 良かったと言う方が正しい
 いまだに課題は山積みではあるが
 吸血鬼に関しては医療や技術が
 発展しているとは言え 実のところ
 「噛んだ噛まれた」の事件は絶えない

♦「久しぶりにおじさんの
  手料理 楽しみだなぁ」
♧「今の時期なら 秋刀魚も良いな」
♦「秋刀魚かぁ サーモンは?」
♧「サーモンか きのこと味噌で
  ホイル包み焼きも悪くないな」
♦「そうと決まれば!」
♧「行きますか」

♦近年ではヒトが吸血鬼に噛まれても
 致死量さえ超えなければ
 ヴァンパイア化しないのは常識で
 仮に致死量を超えても特殊な
 施術と血清(けっせい)により
 吸血鬼になることはない
 架空の存在がいざ身近になると
 最初こそ戸惑いはしたが
 おじさんとは子供のころからの
 付き合いではあるし 特段
 恐怖心も芽生えなかった むしろ
 ある種の憧れが出てきたのは
 紛れもない事実である 
 おじさんに好意を抱き始めて
 もう10年以上経つのだが…
 この堅物は姪を可愛がりこそするが
 それは異性としてでなく飽くまで
 “親戚の可愛い姪”としての愛情であった

♦「ねぇ おじさん」
♧「なんだ?」
♦「おじさんはさ 血を吸ったこと
  今まであるの?」
♧「なんだ 藪から棒に」
♦「気になってさ 聞いたこと
  なかったし」
♧「んまぁ あんまり人に
  言う事じゃねぇしな」
♦「いたの? もしかしてお母さん?」
♧「んなわけ有るかよ 妹の
  血を吸うやつがどこにいる」
♦「冗談だよ~ でも誰かいたんだ」
♧「んまぁな」
♦「誰?」 
♧「学生時代の彼女」
♦「ひゅ〜〜 おじさんも
  隅に置けないねぇ なんで
  吸いたくなったの? ^^」
♧「やめろよ いわせるな」
♦「もう 照れちゃって〜」
♧「うるさい ほらスーパー着くぞ」

♦おおよそ 察しはついたが
 だいたいそんなものである
 吸血鬼にとって血を吸う行為は
 眷属を増やす目的を除けば
 腹を満たす為であったり
 口寂しい時だったり あるいは
 気持ちが昂(たかぶ)っている時と
 相場が決まっている 男女が集い
 “そういった雰囲気”のシーンで
 血を吸う…なんともベタだが
 気持ちはわからなくはないなと
 自分はヒトではあるが
 なんとなく理解する

♦「おじさんはさ
  どんな時 血を吸いたくなるの?」
♧「吸いたくなるっていうか
  吸うこと自体が特別だよ
  俺はな?」
♦「特別?」
♧「おぉん 血を吸う時どんなに
  気をつけていようが
  首筋には牙の跡が残る」
♦「確かに」
♧「つまりそれは二人にとって
  切っても切れない絆になるわけだ
  たとえヴァンパイア化
  させなくてもだ」
♦「二人にだけの絆…」
♧「そりゃ昔は 吸血鬼ってのは
  仲間を増やしてナンボみたいな
  トコがあったから そういった
  ロマンチックな思想ってのは
  ここ100年ぐらいの間に
  広まった事らしいがな
  絆は生まれると
  少なくとも俺はそう思ってる」
♦「学生時代の彼女さんも
  愛してた訳だ」 
♧「そうなるわな だけど
  気が気じゃなかったぜ
  まかり間違って吸血鬼に
  させちまったら 心臓に
  杭を打たれる所じゃ
  済まされなかったからな」

♦「今みたいに吸血鬼って
  そんな居なかったんじゃない?
  なんかあったら
  大変だったはずだよね」
♧「とにかくまだ明るみに
  出てなかったからな」
♦「んじゃ今の暮らしのほうが
  やっぱり暮らしやすい?」
♧「まぁな」

♦「おじさんはさ 私の血
  吸ってみたいって思ったことある?」
♧「そりゃまたどうして」
♦「おじさんにとって私は
  可愛い姪っ子じゃん」
♧「あのな…さっきも言ったが
  血縁の血を吸う事自体
  普通しないのよ」
♦「でも私は…
  おじさんにとっての“特別”
  でいたいと思ってるよ?」
♧「ひとついっておく まず
  前提として俺がお前に
  手を出すことが世間では
  ご法度なんだよ」
♦「私はおじさんとの絆が
  欲しいけどな」
♧「お前はそれで満足なのか」

♦「えっ?」
♧「仮に俺がお前に牙を
  突き立てたとして それは飽くまで
  こちらが“捕食”として
  血を吸っているなら
  二人の絆なんてどこにもないのよ」
♦「…ッ!」(息を呑む感じ)
♧「血を吸う事への意識が
  希薄になってくると
  こういった事も珍しくない
  お前がどんなに絆が欲しかろうと
  俺が望まなければただの傷なの」

♦「…また子供扱いする」
♧「腹は立てないのか」
♦「もう慣れた」
♧「ならこの話は終わりだ
  さっさとホイル包み焼き作るぞ」
♦「でも!」
♦「私はおじさんに噛まれたい!
  オンナとして見てくれなくても
  大事な…おじさんとの
  証だから…」

♧「…… ふむ」
♧「えらく感情的だな」
♦「うるさい…」
♧「どれ、おいで」

♧「よしよし…昔からお前は
  拗ねるとすぐ眉がハの字になる
  お前の母さんそっくりだ」
♦「自分の母親と重ね合わされるの
  嫌なんですけど」
♧「すまんな」
♦「でも、落ち着く…」

♧「良いか 香織
  少し痛いがな
  じき慣れる 安心しろ
  吸血鬼にはさせん」
♦「…うん」
♧「最後に ホントに
  良いのか? 吸血鬼にはならんが
  傷は消えることは無い」
♦「傷じゃないよ 二人の絆」
♧「…よかろう、」(しばらく吸血音)


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

♧「今日は帰り遅いの?」
♦「あ、大丈夫 帰ってこれる」
♧「連絡よこせよ」
♦「なんかあったらね
  大丈夫だよ~」

♦首を噛まれて数日私達は 
 普段通りの生活を送っている
 吸血鬼がいて血を吸う事が珍しくない
 この現代で、果たしてこの出来事は
 意味があったのか 私にとっては
 かけがえのない絆なのだ
 相変わらずのおじさんとの生活だが
 私は確かにここに居て
 多幸感に満ち溢れている。

fin.

<あとづけ>
ここまで読んでくださった
聴いてくださった皆様
誠にありがとうございます

「血を吸う事」がどれだけの
意味があるのか しかもそれが
一般化した社会で と言う
ロジックに目を向けた作品であります

二人にとっての首筋の絆は
あって然るべきなのか
なくても繋がっているものなのか
それ以上でもそれ以下でもない
香織のもどかしさや
おじさんの姪に対するジレンマを
多少でもお伝えできれば幸いです…


 



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