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マティス展@東京都美術館


《金魚鉢のある室内》
窓の内側に窓の外の景色が広がる


展覧会概要

The Path to Color
2023/4/27-8/20
生涯を通じて探求を続けたマティスの活動年代に沿って、展示室が構成されています。

展示室に沿った感想

1.フォービズムに向かって 1895-1909


マティスは、国立美術学校ではギュスターブ•モローに師事したそうです。象徴主義といわれ、神話をモティーフにしていた師匠とは、大分違いますね。

歴史的評価としては「フォービズム」のリーダー的存在であった時代です。

キャンバスに直接色を置く技法、筆触分割(点描)の作品が展示されています。色彩の持つ力を最大限に引き出したいと思っていたのだと思います。マティスは鑑賞者のことをとてもよく考えた作家でもあります。

鑑賞者にとって自分の絵画が「良い肘掛け椅子のような存在でありたい」と考えていたとオーディオガイドが教えてくれました。良い肘掛け椅子とは、心地よく身を委ねられるような存在でしょうか。
ちなみにオーディオガイドの案内人は上白石萌音さんで、生真面目で誠実な雰囲気が良かったです。

2.ラディカルな探求の時代 1914-18


絵の大部分が塗られていて、面を感じさせます。絵の中で、イーゼルが浮いたように見えます。
同じ絵の中で、複数の視点が同時に描かれています。それは様々な人の目による視点の一瞬なのでしょうかそれとも、1人の人間による相応の時間を切り取ったものなのでしょうか。

ともすると、抽象画に足を踏み入れるような単純化に見えますが、マティス本人は抽象に舵を切ることを嫌っていたそうです。あくまでも具体的モチーフを残したまま、《グレタプロゾールの肖像》のように透けたり、《金魚鉢のある室内》のように内と外が透過したりします。
鑑賞者としては、面白い追体験をすることができるのです。

3.並行する探求 彫刻と絵画 1913-30


マティスは、絵画表現の転機に彫刻作品を作ったそうです。壁紙のような絵しか知らなかったで、面白かったです。

彫刻《背中1》から《背中4》まで、制作年は、1909,1913,1916.7,1930と、21年に渡り、同じテーマを探求しています。もちろん、これだけではありませんが、この4作品を並べてみると、凝縮された変化の様子を感じることができます。

単純化されていく、造形の中で、変わることのない作品の核となるもの。鑑賞者に手渡すバトンのようなもの。
「あなたはどう思いますか?」と聞かれている気がしました。

4.人物と室内 1918-29


一階の展示室入り口
パイプをくわえた自画像


当時流行したオダリスクのテーマ。衣装、首飾りはモロッコやアルジェリアで買った布を使って、絨毯、壁掛け、衝立、アトリエにセットを組み立てていったそうです。手作り衣装とはびっくりしました。舞台芸術家ですね。

赤いキュロットのオダリスク

絵をじっと見ていて、異国情緒の中に幸福感に溢れた郷愁を見つけるとは、不思議なことだと思いませんか?

5.広がりと実験 1930-37

《夢のための習作》では目を開いてこちらを見つめる、《夢》では、目を閉じて安らかで満ちたりた様子。静寂さが心地よい絵画です。

《夢》のための習作
座るバラ色の裸婦


《座るバラ色の裸婦》こちらは、少なくとも13回書き直されたものらしいです。
鑑賞者の「誰か」になるために、描いた絵の具を拭い、大胆に省いて、完成したそうです。

6.ニースからヴァンスへ 1938-48


マティスは、「線、色調、勢いを表現すれば、見るものの想像力に委ねることができる」と考えたそうです。

《赤の大きな室内》ヴァンスに引っ越してからの作品です。自分の絵の中に自分の絵が描かれる入れ子の構成になっています。モティーフが対になっていることも落ち着きます。
マティスの使う赤や青、黄色はどれも心地よくて、気持ちが落ち着きます。

赤の大きな室内
黄色と青の室内
マグノリアのある静物

体が不自由になり始めた、切り絵の作品を前に、「カワイイ!」と言っている女性たちがいました。決して古びれず、デザイン的に洗練されており、無駄がない、一言で表現するのであればそう、「カワイイ!」と、納得でした。

芸術•文学雑誌 ヴェルヴ 表紙たち

7.切り紙絵と最晩年の作品 1931-54

《オセアニア、空》
《オセアニア、海》1946
1930年のタヒチ旅行に基づく海にまつわるモチーフ群が「15年経った後に心に取り憑くイメージの形をとって」マティスの記憶に蘇ってきたそうです。
私はアーティストではありませんが、時を経て、自分の記憶に蘇ってくるものかあることを知っています。

8.ヴァンス•ロザリオ礼拝堂 1948-51


ヴァンスといえば、ロザリオ礼拝堂です。白い壁にステンドグラスのブルーと黄色。素朴な線により描かれた聖母子、ひょろっとした十字架。

ヴァンスという街も含めて、大型スクリーンで観れると聞き、それはそれは楽しみにしていました。
前室にある礼拝堂の資料、老境に入り空間をプロデュースしたいと考えていたマティスにとって、この仕事の依頼は偶然でなく必然、、、鑑賞者としての期待が高まります。
陽光が最も美しいとされる冬の1日を記録した素材も素晴らしい。

但し、ざわつく物販の部屋の隣りで、大型スクリーンに映し出すだけの演出でした。
期待が大きかっただけに、寂しすぎる!
最近流行りの没入感が貧弱です。
あえて、狙ってる?スペースと予算がなかったの?と邪推しました。

例えば、前室に礼拝堂の模型を置いたり、大きなバナーを吊るして空間に奥行きをつけたり、スクリーンを3面に映したり、展示上の工夫の余地があったのではないか、と思わざるを得ませんでした。

光が美しかったから、それでいいのかな。
ロザリオ礼拝堂の動画の見せ方には物足りなさを感じましたが、マティスという画家の生涯を通じた探求の旅を追体験できたことはとても良かったです。

マティス展は、2023/8/20まで上野の東京都美術館で開催中です。日時を予約の上、是非お出かけ下さい。

展覧会公式サイトへのリンク

混雑具合

お天気 くもり
会期前半 平日
9:30-10:00の回を予約
鑑賞に支障がない程度の混雑
外国人観光客より日本人が多い

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