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【スタートアップの裏側 〜今だから語れる、あの時の経営・ファイナンス〜 by バンカブル#4】シリーズD、累計調達額 約68億円に到達したファンズCFOに聞く。レイターステージのファイナンス戦略。

資金調達を行い急成長を目指される、スタートアップ企業の経営陣の方々に、ここでしか聞けない資金調達の裏側についてお話を伺う「スタートアップの裏側」。毎回、急成長するスタートアップ企業の経営者の方々をゲストにお迎えし、お話を伺います。第4回のゲストは、ファンズ株式会社の取締役CFOである、前川 寛洋さんです。

同社は、ファンドを通じて上場前後の企業に資金を間接的に貸し出す形で投資ができる貸付投資のサービス「Funds(ファンズ)」を運営しているフィンテックスタートアップです。     2023年3月、シリーズDで総額 約36億円を調達し、累計調達額は約68億円となりました。投資ラウンドとしてはレイターステージに差し掛かる同社が、いかにしてこれまでの資金調達を成功させたのか。直近の資金調達の舞台裏と合わせてお伝えします。

インタビュアーは、これまで多くのスタートアップ企業に向け、運転資金を圧迫しない広告費の4分割・後払い(BNPL)サービス「AD YELL(アドエール)」を提供してきた、株式会社バンカブルの代表取締役社長、髙瀬 大輔が務めます。

本記事の内容は、SpotifyApple Podcastでもお聴きいただけます。【スタートアップの裏側 〜今だから語れる、あの時の経営・ファイナンス〜@株式会社バンカブル】ぜひチェックしてみてください。


前川 寛洋/ファンズ株式会社 取締役CFO
人材業界のスタートアップで執行役員を務め、経営戦略、人事、ファイナンス等、経営全般を幅広く管掌。その後、ブティックファームを創業し、大手企業の事業開発、PMO等に従事。現在はファンズの取締役CFOとして、コーポレート全般を管掌。2023年2月には国内外の機関投資家より総額36億円の資金調達を実行し、累計調達額は約70億円。その後、2023年12月にFunds Startupsを設立し、同社代表取締役およびFunds Venture Debt Fund代表パートナーに就任。その他、国内最大のスタートアップカンファレンスIVSの企画責任者や、スタートアップ政策のパブリックアフェアーズを務める等、スタートアップに対する幅広い知見、リレーションを有する。

髙瀬 大輔/株式会社バンカブル 代表取締役社長
事業会社のマーケターを経験後、デジタルホールディングス傘下のオプトへ入社。同グループのインハウス支援コンサルティング会社ハートラス(旧エスワンオーインタラクティブ)代表を経て、2021年4月よりバンカブルの代表取締役社長に就任。“新たな金融のカタチを創り出す”をミッションに掲げ、広告費の4分割・後払いサービス「AD YELL(アドエール)」を中心に展開中。


プロダクト運用開始から4年でシリーズD、総額約70億円の資金調を実施

髙瀬:はじめに、貴社の事業内容について教えてください。

前川:個人向けの疑似的な社債をオンラインで発行するサービス「Funds」を提供しています。資産運用を希望する個人投資家から資金を募り、ファンドを通じてその資金を集約し、資金を調達したい企業に提供する仕組みです。2024年7月には、ありがたいことに累計募集額が700億円を超え、目標としてきた1,000億円もみえてきました。

髙瀬:創業から現在までのファイナンスの流れについて、可能な範囲でお伺いできますか?

前川:2016年に創業し、プロダクトの運用を開始したのは2019年の1月頃でした。創業から事業開始まで少し時間が空いたのは、私たちのような金融領域のスタートアップではよくあることで、第二種金融商品取引業のライセンスを取得するのに時間がかかったためです。

シードやシリーズAでは、このタイムラグを見越した資金調達を行いました。ライセンス取得に必要な人的要件を満たすための人件費が主な資金使途で、調達した資金は、コンプライアンス担当者や営業人員の採用に充てました。

その後、シリーズB〜B2として、2019年夏から2020年4月にかけて資金調達を行いました。プロダクトが市場にリリースされた後のスケールアップが目的です。この時点での累計調達額は、20億円に達していませんでしたが、2021年の夏前にシリーズCの資金調達を行い、20数億円を調達しました。プロダクトが一定の成果を上げ、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)が見えてきたため、事業拡大に充てる資金を調達しました。

直近では、2023年2月にクローズしたシリーズDで、総額で約36億円の資金調達を行いました。ほとんどはエクイティですが、一部デットもからめた資金調達を行い、その結果、エクイティとデットを合わせると累計で約70億円の資金調達額に達しました。

「フィンテックは高い」という調達時のバイアスに、左右されない状況をつくる


髙瀬:今回のファイナンスの位置付けや狙いについて、教えていただけますか?

前川:シリーズDでは、これまで開発してきたプロダクトで戦い抜くための資金調達を実行しました。今後もいくつかの資本政策を検討しており、現段階で次のマイルストーンを達成するためのグロースに必要な資金を30億円前後と見積もり、調達を行いました。特に、ユーザーである個人投資家の方々に「Funds」へ参加していただくための、広告宣伝費に資金を投入する想定でした。

最終的に約36億円に到達したのは、事業に必要な資金に加えて、事業を存続させるための安全マージンも考慮した結果です。近年、スタートアップの資金調達環境は、数年前と比較して非常に厳しい状況です。特に、レイターステージになるほど、上場株の市場での影響も受けやすく、調達が難しいと感じていました。そのような状況のなかで、次の資金調達が多少難航しても問題ない金額を算出した結果、今回の金額に着地しました。

髙瀬:おっしゃる通り、特に最近は資金調達には厳しい環境です。そのような状況のなかでも、多めに調達できたことは、素晴らしいですね。しかし、順調そうに見える裏側にも、多くのご苦労があったと思います。直近の投資ラウンドにおいて、特に苦労した点や力を注いだ点があれば教えてください。

前川:ありがとうございます。ここはできるだけリアルにお伝えしたいと思います。最初に考えたのは、私たちのような業態では、基本的にエクイティでの調達が必要だという点です。担保になるものがないうえ財務的には赤字のため、デットでの調達は難しいと考えていました。

一方で、フィンテック業界全体としては、過去に高いバリュエーションで調達している企業が多く、フィンテック全般が割高だというバイアスがありました。私たちからオファーさせていただいても、話を聞いてもらえないこともありましたね。私たちの実体をどう正しく伝えるのかが課題でした。

取り組んだのは、特に投資家に対して訴求力の高い実績や事業計画、戦略をしっかりと実現可能な状態に整えたことです。たとえば、転換社債(※1)のようなデット調達を挟み、経営状況をより安定した状態に整える方法も検討しました。

(※1)一定の条件で株式に転換できる権利が付与されている社債のこと。

そのうえで、新規投資家に対しては、しっかりと準備をしてからコミュニケーションをとるように心がけました。レイターステージの企業に投資をする新規投資家は投資対象を厳選的に絞り込んでおり、既存投資家が高く評価しているスタートアップに注目をしている傾向があったため、既存投資家がプロラタ(※2)以上のオーバーサブスクライブニーズ(※3)があることや、出資意向の強さを示すための資料を準備しました。

(※2)複数の金融機関から借入をしている企業が、借入金額に応じて比例的に返済額を決める方法のこと。
(※3)売り出した証券に対して買いが上回ること。

加えて、既存投資家が決めるバリュエーションは、必ずしも新規投資家にとってもフェアではないため、既存投資家の意向を反映させつつも、自分たちの中でその当時の資本市場においてフェアバリューであると説明できるバリュエーションロジックを確立し、新規投資家にとっても経済合理性を感じる株価を模索していきました。

実際、既存投資家に「今回のラウンドにおいて当社の株価はいくらが妥当か」というヒアリングをすると、最終的な株価と比較して±30%程度のレンジが出るほど、既存投資家だけでもバラツキがありましたね。
最終的には、既存投資家、資本市場、そして新規投資家のセンチメント(※4)などを総合的に勘案し、当社案の株価で着地しました。

(※4)市場参加者のマーケットに対する市場心理(強気、弱気など)を元におこなう相場分析のこと。

「手触り感」を高めるため、なるべく多くの投資家とコミュニケーションをとる


髙瀬:出資を受けるまでには、多くの投資家にお会いされたのでしょうか?

前川:はい。なるべく泥臭く、数多く投資家にお会いするスタンスをとっていました。そもそもシリーズDではVCだけでなく、事業会社や国内外の機関投資家からの調達も考えていたため、必然的に多くの方とお話しさせていただくことになると考えていました。

また、投資家によって投資の考え方やリスクのとり方も異なります。同じVCというカテゴリーのなかであっても、各ファンドの投資戦略は異なります。そのため、マーケットの手触り感を戦略に落とし込めるよう、なるべく多くの投資家に話を聞きにいきました。

髙瀬:非常にリアルなお話ですね。多くの投資家にお会いするだけで、大変時間がかかるものだと思います。実際は、どれほどの期間をかけて投資家とお会いし、話を進めるまでに至ったのでしょうか?

前川:今回のラウンドは全体で1年ほどかかり、そのうち準備活動が約半年、本格的な調達活動が半年でした。準備期間の半年間は、調達手法の選定や、どの投資家にあたるかを決めるための期間でした。

当時は、レイターステージを支えるクロスオーバー投資家(※5)の多くが、市場から離れてしまった状況でした。そのため、誰に会うべきか、誰がまだ投資の窓口を開いているか手探り状態で、時間がかかりました。今振り返ると、準備期間は非常に重要で、実際の調達活動に入る前にしっかりと計画を立てることで、後半の半年間の活動がスムーズに進められたと思います。

(※5)通常は上場株に投資しているが、リターンを求めてレイターステージでも投資を行う投資家のこと。

デットファイナンスを成功に導く、2つのポイント


髙瀬:以前、イベントでデットファイナンスにおいて「必殺技」があると伺いました。具体的に教えていただけますでしょうか?

前川:必殺技と言えるほどのものかはわかりませんが、お話しさせていただきます。

まず、金融機関から見て、デットファイナンスを検討する際に最も重要なのは、貸したお金が返ってくるかという「回収の蓋然性」です。融資を受ける側は、ビジネスモデルや財務状況から、どのようにこの回収の蓋然性を訴求するかがポイントになります。

そのうえで、訴求すべきは大きく2つに分けられます。まず1つは、バランスシートの状態です。特に自己資金や純資産の状況が重要で、債務超過ギリギリや赤字幅が大きく、足元のキャッシュが少ない状態では、金融機関からすると回収の見込みが低くなります。そのため、エクイティでの資金調達が完了したタイミングで、デットファイナンスについて打診をするといった、資金調達のスケジュールを意識するとよいと思います。

もう1つは、成長見込みです。金融機関に対して、既存事業がどれだけ成長しているかを示し、成長のカーブが線形成長であることを説明します。私たちの場合、既存事業に加えて、さらに新規事業や新規投資による成長の見込みも合わせて示すことで、デットファイナンスの協力をお願いしました。

髙瀬:ご説明いただいたような手法は、もともと考えていらっしゃったのでしょうか?

前川:はい。実際は、シリーズDのタイミングでは、エクイティファイナンスの前に全てのデットを借り入れました。エクイティファイナンスが終わった後であれば、さらに大きな資金調達もできたかもしれません。しかし、シリーズDでは、デットファイナンスのエビデンスをつくり、その後のエクイティファイナンスにおける強力なアピールポイントをつくることが狙いの1つでした。

1,000万ユーザーを目指し、累計資金調達額3,000億円を実現させる


髙瀬:2024年3月、金融機関共同研究型のベンチャーデットファンド「Funds Startups株式会社」を新しく立ち上げられ、前川さんが代表取締役を務めていらっしゃいます。ファンド立ち上げの狙いや今後の構想について、教えていただけますでしょうか?

前川:立ち上げたファンドは、「ベンチャーデットファンド」として、スタートアップに対する融資をメインで展開しています。提供するのは、金利だけでなく、新株予約権(※6)をセットにしたようなメザニンファイナンス(※7)に近いものも含まれます。対象は、ミドルからレイターステージのスタートアップであり、資金調達環境が厳しいなかでの選択肢の1つになることを目的としています。

(※6)発行した株式会社に対して権利を行使することによって、その会社の株式の交付を受けることができる権利のこと。
(※7)従来金融機関が取り組んできたシニアローンと、普通株式によるエクイティファイナンスの中間的な金融手法のこと。

投資家からすると景気が不安定な時期、エクイティだとリスクが大きくても、デットは事業がしっかりしていれば堅実にリターンを得ることができます。エクイティの環境が不安定な時こそ、デットファイナンスの重要性が増すと考え、このファンドを立ち上げました。

また、ファンド名の「金融機関共同研究型」は、単なるベンチャーデットファンドではなく、金融機関と共同で研究をする場所であることを示しています。ファンド単独で供給できる資金には限りがあります。メインプレイヤーである銀行が、スタートアップに対して資金を供給しやすくなるための研究を通して、お金の流れる量を増やすことが狙いです。

髙瀬:ありがとうございます。最後に、今後の展望についてお伺いできればと思います。

前川:引き続き、私たちの掲げるミッション「未来の不安に、まだない答えを。」の達成に向けたファイナンス戦略の立案と実行に力をいれるつもりです。具体的には、すでにレイターステージに位置するため、次のステップとして、上場を見据えた資金調達戦略の構築を行っています。上場前後の資金調達の違いを理解し、上場前に実行すべきことをやり尽くしつつも、上場後の資金調達オプションを見据えた、ファイナンス戦略を検討しているところです。未上場のうちから上場後の戦略を一貫して考え、実現可能性を高めていければと思っています。

特に、私がCFOとして大事にしているポイントは、大きく2つです。

1つ目は、ミッションを達成するために、いくらの資金が必要なのかを明確にすることです。ファンズは、日本全体に根付いた資産運用サービスづくりに挑戦しており、具体的には、日本の人口動態を踏まえたうえで、1,000万人以上のユーザーが利用するサービスを目指しています。そのうえで、目標達成には約3,000億円の資金が必要と算定しています。

算定した数字は、今後のマーケット環境や戦略により変動する可能性もあるため、常にアップデートし、ファイナンス戦略構築の土台にしたいと考えています。

2つ目は、自社の価値を適切に資本市場の言葉で表現し、株式の価値として算定しなおすことです。資金調達の成功のためには、現在の会社の価値を正しく訴求し、最適なタイミングを逃さないことが重要です。そのためにも、自社の状況について正しく説明できる状態に、常にあり続けたいと思っています。

髙瀬:ありがとうございます。上場に向けて、より成長されていく貴社を、ぜひ今後も見守らせていただきたいと思います。本日は、貴重なお時間をありがとうございました。

前川:こちらこそ、貴重な機会をありがとうございました。


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