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【スタートアップの裏側 〜今だから語れる、あの時の経営・ファイナンス〜 by バンカブル#1】PR Table共同代表に聞く。コロナ禍を乗り越え、急成長を成し遂げたファイナンス戦略。

スタートアップにとって、成長スピードは企業価値を上げる重要なカギの一つ。そこで、急成長スタートアップ企業の経営陣の方々に、ここでしか聞けない資金調達の裏側についてお話を伺う「スタートアップ資金調達の裏話 by バンカブル」を始めます。記念すべき第1回目のゲストは、株式会社PR Tableの共同代表取締役である、大堀 航さんです。

PR Tableは、「働く人の笑顔が“連鎖する”世界をつくる」をビジョンに掲げており、法人向け採用マーケティング支援や、就職・転職活動に役立つキャリア学習サイト「talentbook(タレントブック)」を提供する、HR techカンパニーです。2014年の創業以来、成長を続け、2024年1月31日にシリーズDラウンドで3.5億円の資金調達を実施。累計資金調達額(資本性ローン含む)は、17億円となりました。これまでのファイナンスの流れや、直近の資金調達の舞台裏に迫ります。

インタビュアーは、これまで多くのスタートアップ企業に向け、運転資金を圧迫しない広告費の4分割・後払い(BNPL)サービス「AD YELL(アドエール)」を提供してきた、株式会社バンカブルの代表取締役社長、髙瀬 大輔が務めます。

本記事の内容は、Spotifyでもお聴きいただけます。【スタートアップの裏側 〜今だから語れる、あの時の経営・ファイナンス〜@株式会社バンカブル】気になる方はぜひチェックしてみてください。


プロフィール

大堀 航/株式会社PR Table 共同代表取締役
2008年、大手総合PR会社のオズマピーアールに入社し、IT企業を中心に広報戦略立案・実行業務に従事。2012年、レアジョブに入社し、広報責任者として2014年6月に東証マザーズ上場に貢献。2014年12月、弟の大堀海とPR Tableを創業する。有名ベンチャーキャピタルより累計17億円強の資金調達を完了。採用マーケティング支援サービス「talentbook」を通じて、これまで累計1,200社以上の大企業・成長企業の情報発信を支援している。

髙瀬 大輔/株式会社バンカブル 代表取締役社長
事業会社のマーケターを経験後、デジタルホールディングス傘下のオプトへ入社。同グループのインハウス支援コンサルティング会社ハートラス(旧エスワンオーインタラクティブ)代表を経て、2021年4月よりバンカブルの代表取締役社長に就任。“新たな金融のカタチを創り出す”をミッションに掲げ、広告費の分割・後払いサービス「AD YELL(アドエール)」、在庫/仕入費の分割・後払いサービス「STOCK YELL(ストックエール)」を展開中。


創業10年で、累計17億円の資金調達

高瀬:はじめに、御社の事業内容について簡単にお聞かせください。

大堀:株式会社PR Tableは、就活や転職に役立つキャリア学習サイト「talentbook」を運営しています。

日本には、1,000万人の転職希望者がいるといわれているなか、そのうちの87%は1年経っても転職しないという課題があります。理由を聞いてみると、「自分に合ったキャリアがわからない」という声が多く、特にミレニアル世代やZ世代でその傾向が強い傾向にあります。talentbookは、さまざまな企業で実際に働く人たちが、なかにいるからこそ分かるリアルな職場環境やキャリアについて発信するプラットフォームになっています。

個人向けにはtalentbookを活用しながら、企業さまの採用ブランディング、採用マーケティング支援を提供しています。

高瀬:2014年の創業から10期目で、シリーズDまで急成長されています。創業から今までのファイナンスの流れについて、お答えできる範囲で、伺えますでしょうか?

大堀:PR Tableは、これまで5回のファイナンスを経ています。

最初は2016年で、創業から2期目のことでした。今はtalentbookというサービスですが、当時は「PR Table」という名前で展開しており、とにかく多くの企業に営業をかけているタイミングでした。

世の中的には、スタートアップブームが始まった時期で、今、上場されている企業がガンガン資金調達を行っており、私たちにとっても出資を募るのにいいタイミングだったと思います。そこから着実に顧客を増やしながら、累計17億円の資金調達をしています。

コロナ禍に訪れたピンチも、事業戦略の転換で突破

高瀬:資金調達環境でいえば、おっしゃる通り、2016年ごろは活況な時期だったかと思います。しかし、ここ2年ほどは冷え込んでおり、最近また盛り上がってきたという流れになっています。環境の変化のなかで、創業から今までに経験した難局や山場について教えてください。

大堀:特に難局だったと思うのは、コロナ禍の2020年から21年にかけてでした。契約解除が増え、なかなか売上のトップラインが上がらなくなり、苦労しましたね。それでも、契約を続けてくれる大手の企業さまが残ってくれたことで、なんとか持ちこたえられました。

状況打開の糸口を見つけるべく、お客さまの分析をすると、DX人材のような高い専門性をもつ人材の採用は止まっていないことがわかりました。そこで、採用が動いている業界に集中した事業戦略、サービス設計に切り替え、2022年から23年頃にようやく売上を伸ばせるようになりました。

高瀬:御社は一度サービス名称を変えていらっしゃいます。そのタイミングで、何があったのでしょうか?

大堀:サービスブランドの変更をしたのは2020年6月でした。今振り返ると、それまではターゲットも企業規模も明確には決めておらず、アプローチする部署もクリアではありませんでした。広報部、人事部や事業部と、手当たり次第に営業をかけていた状況だったんです。ただ、蓋を開けてみると、導入企業数は伸び止まり、途中での契約解除も多く、適切なPMF(※)ができていなかったのかなと思います。

ブランド変更をきっかけに、曖昧だったサービスのポジショニングをHR領域に定めました。また、一定規模以上の企業さまが継続する傾向にあったので、メインターゲットを大手企業に定めました。

高瀬:ファイナンス観点でも、リカバリーのための打ち手は考えていらっしゃったのでしょうか?

大堀:もちろんです。これまで事業計画では、単純に「社数×単価」で計算をしており、「単価安め」「社数多め」を想定していました。それを、大手企業に対象を絞ったことで、「社数少なめ」「単価高め」の計画に切り替えました。

単価を上げるためには、サブスクリプションサービス1本足ではなく、いろいろな商品を持っていなければなりません。そこで、広告運用や動画制作、イベント企画・運営といった商品を増やし、採用をトータルで支援できる体制に変更しました。

加えて、当時私たちが支援していた企業さまにはビッグネームが多かったこともあり、そこを武器に資金調達を行いました。大手企業を集客できるうえに、顧客単価の上がる兆しが見え始めている、という点を押し出し、出資を集めました。

高瀬:事業戦略を変更してから売上が拡大するまで、時間はかかったのでしょうか?

大堀:かかりましたね。1年半から2年ほどかかったのではないでしょうか。

高瀬:2年は長いですね。変革を進めるなかで、会社の行く末に不安を感じるメンバーの方もいらっしゃったかと思います。2年間、マネジメント観点で気をつけていた点はありますか?

大堀:変革と並行して、ミッション、ビジョンの再策定も行っており、組織や評価制度づくりに徹底して取り組んでいました。それまでの組織では、特に細かい役職はなく、創業者以外は「メンバー」と一括りでした。しかし、組織づくりに着手してからは機能別にマネージャーや部長といったポジションをつくり、戦略の伝達から評価までを担当してもらう体制をつくったのです。

現在のビジネスモデルでは、メンバーの数が売上につながっていますが、メンバーの数を増やすには、働きやすい環境や評価制度、育成の仕組み、キャリアパスを提示できなければなりません。その準備が2年間でできたおかげで、2023年に40名近くの採用ができたのかなと思っています。

(※)PMF(Product Market Fit)とは、製品(サービスや商品)が特定の市場において適合している状態を指す言葉。

最新の資金調達テーマは「計画の蓋然性」

高瀬:直近の資金調達は2024年の1月で、その前は2022年1月頃でした。投資環境的には冷え込んでいる時期だったのかなと思います。ラウンドを移行するにあたって、考えていたことや準備したことがあれば教えてください。

大堀:今回のファイナンスでは、IPO以降も見据えて連携できそうな企業さまに入ってもらうことを意識していました。現在、事業連携を進めている企業さまにも出資いただいており、これからさらにエンタープライズへアプローチするうえで、心強いプレイヤーと組めたのかなと考えています。とはいえ、多くの事業会社さまに投資いただくのは難しいので、結果的には、VC(ベンチャーキャピタル)主体の布陣になっています。

加えて、今回のファイナンスで大きなテーマだったのは、「計画の蓋然性​​」でした。いかにユニットエコノミクスの精度が高く、狙っている市場で確実にシェアを拡大できるかがファイナンスの焦点だったと考えています。既存顧客のリストをもとに、これからどのように市場拡大をしていくのか、数字を踏まえながらプレゼンをする場面が多くありました。

高瀬:逆に、今回のファイナンスで苦労したポイントはありますか?

大堀:基本的には今回に限らず、全てのファイナンスで苦労しています。特に今回は会社がレイターステージへと差し掛かるところで、これまでと同じやり方ではうまくいかないと認識していました。そこで、先行してCFO候補の方にジョインいただき、その方と一緒に準備を進めました。

高瀬:よく採用できましたね。レイターステージに移行する前から、計画的な採用活動を行っていたのでしょうか?

大堀:そうですね。2022年の段階で「CFOを採用して、来期の資金調達に臨む」と考えていました。

高瀬:どうやって出会ったのでしょうか?

大堀:ご縁ですね。実は、PR TableがステージAの段階で出資いただいた企業の担当者の方でした。そのタイミングをきっかけにお付き合いが続き、いろいろな条件が合致した結果、3年越しに一緒に仕事ができることになったのです。私たちの事業を昔から知ってくれており、信頼関係もあることが採用の決め手になりました。

高瀬:CFOレベルの方が採用できることは、非常にレアケースだと思います。素晴らしいですね!やはり、必要なタイミングで焦って探しても急には見つからないもので、先に巻き込んでおくことが重要なのかもしれませんね。

大堀:そうですね。昨年は、CFOに限らず、リファラルで要職の採用ができたケースが特に多く、温めていた関係が花開いたのかなと捉えています。

緩くなりがちな「資金の使いどころ」を絞ることが、次のラウンドへ進む鍵

高瀬:PR Tableさまは資金調達に成功し、これからさらに成長を遂げられるのかと思います。スタートアップ企業の経営者の方々へ、ファイナンスに関するアドバイスをいただけますでしょうか?

大堀:失敗した経験も踏まえて言いますと、レイターステージを目指す場合は蓋然性にどうアプローチしていくのかが重要だと思っています。これまで資金調達できている場合、どうしてもお金の使いどころが緩くなってしまいがちです。そこをもう一度ギュッと締めるよう意識してもらえるとよいのではないでしょうか。「絞る」「選択と集中」は特に重要だと思います。

また、ファイナンスも結局は「ご縁」です。私たちに投資をしてくださっているVCの方々の多くは、既存株主の方々から紹介をいただきました。一つひとつのご縁を大切にすることを、忘れないようにしてほしいです。

高瀬:いずれも原理原則の話ですが、やりきれるかどうかが重要だとあらためて感じました。PR Tableさまの場合は、やりきれるからこそラウンドを重ねて来られているのだと思います。最後に、今後の展望についてお伺いできればと思います。

大堀:PR Tableのビジョンは「働く人の笑顔が"連鎖する"世界をつくる」です。その実現のために、私たちはtalentbookというプラットフォームをつくっています。このプラットフォームが、キャリアを考える方のサードプレイスや心の拠り所になるといいなと思っています。そのためにも、多くの企業さまに高頻度で使っていただき、個人の方の利用も増やし、唯一無二のHRプラットフォームをつくりあげていければと考えています。

高瀬:ありがとうございます。ユニークで明確な強みがあり、世の中から選ばれるサービスだとあらためて感じました。個人的にも、世のため人のためになるサービスだと思いますので、応援をしております。以上でインタビューを終了します。本日はあらためて、貴重なお時間をありがとうございました。

大堀:こちらこそ、貴重な機会をありがとうございました。


株式会社バンカブルは、「新たな金融のカタチを創り出す」をミッションに掲げ、従来の金融の仕組みやルールにとらわれず、柔軟かつスピーディーに適切な「お金」を提供できる"仕組み"を創出する企業です。キャッシュフローの負担を軽減し、成長を志す事業者さまがより高い成長曲線を描くことを後押しするサービスの詳細は、こちらをご覧ください。

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・仕入費の4分割・後払い(BNPL)サービス:STOCK YELL
・媒体費の支払いサイト延長サービス:AD YELL PRO


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