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【スタートアップの裏側 〜今だから語れる、あの時の経営・ファイナンス〜 by バンカブル#2】サービスローンチから2年で、累計資金調達額23.5億円。T2D3を上回る、Sales Markerのファイナンス戦略と経営哲学とは。

資金調達を行い急成長を目指される、スタートアップ企業の経営陣の方々に、ここでしか聞けない資金調達の裏側についてお話を伺う「スタートアップの裏側」。毎回、急成長するスタートアップ企業の経営者の方々をゲストにお迎えし、お話を伺います。第2回のゲストは、株式会社Sales Markerの代表取締役CEOである、小笠原 羽恭さんです。

同社は、日本初のインテントセールスSaaS「Sales Marker」を提供。2021年のリリースから、わずか4カ月間でARR1億円に到達し、その8カ月後にはARR3億円、さらにその6カ月後にはARR9億円と、「T2D3*」を越えるスピードで成長をしています。いかにして、急速成長を実現しているのか。これまでのファイナンスの流れや、直近の資金調達の舞台裏に迫ります。

インタビュアーは、これまで多くのスタートアップ企業に向け、運転資金を圧迫しない広告費の4分割・後払い(BNPL)サービス「AD YELL(アドエール)」を提供してきた、株式会社バンカブルの代表取締役社長、髙瀬 大輔が務めます。

本記事の内容は、SpotifyApple Podcastでもお聴きいただけます。【スタートアップの裏側 〜今だから語れる、あの時の経営・ファイナンス〜@株式会社バンカブル】ぜひチェックしてみてください。

*T2D3とは、Triple Triple Double Double Doubleの頭文字をとった略称で、SaaSスタートアップ企業の理想的な成長スピードを表す指標の1つ。サービスをスタートしてからの売上が、前年を基準に毎年3倍、3倍、2倍、2倍、2倍と上昇し、5年で72倍まで拡大することを表す。クラウド領域で著名なVC「Battery Ventures」のNeeraj Agrawal氏が提唱した。


プロフィール

小笠原 羽恭/株式会社Sales Marker 代表取締役 CEO
新卒で野村総合研究所に入社し、基幹システムの開発、PM、先端技術R&D、ブロックチェーン証券PFの構築、新規事業開発に従事。その後コンサルティングファームに移り、経営コンサルタントとして新規事業戦略の立案、営業戦略立案、AIを活用したDXなどのプロジェクトに従事し、2021年株式会社Sales Marker(旧:CrossBorder株式会社)を創業。2022年国内初のインテントセールスSaaS「Sales Marker」の提供を開始。2023年Forbes 30 Under 30 Asia List選出、一般社団法人生成AI活用普及協会(GUGA)協議員就任。

髙瀬 大輔/株式会社バンカブル 代表取締役社長
事業会社のマーケターを経験後、デジタルホールディングス傘下のオプトへ入社。同グループのインハウス支援コンサルティング会社ハートラス(旧エスワンオーインタラクティブ)代表を経て、2021年4月よりバンカブルの代表取締役社長に就任。“新たな金融のカタチを創り出す”をミッションに掲げ、広告費の4分割・後払いサービス「AD YELL(アドエール)」、在庫/仕入費の4分割・後払いサービス「STOCK YELL(ストックエール)」を展開中。


サービスローンチから約2年で、累計23.5億円の資金調達

髙瀬:はじめに、御社の事業内容について簡単に伺わせてください。

小笠原:「インテントセールス」を実現する、日本初のサービスを提供しています。インテントセールスとは営業手法の一種で、企業のニーズを検索行動から明らかにし、そのニーズに合わせたコミュニケーションをとる手法です。やみくもに営業活動を行うより、効率的な商談や受注の拡大が可能です。

現在は400社以上の企業さまに導入いただいており、日本の大手企業や海外のグローバル企業も含まれます。

髙瀬:今やインテントセールスという言葉を聞かない日がないほど、営業シーンでは重要なキーワードになってきています。Sales Markerさまは業績も好調で、2022年のSaaS提供開始にもかかわらず、ARR20億円超(2024年7月現在)と、急角度での事業成長を実現されています。成長の要因について、伺えますか?

小笠原:複数ありますが、とくに大きいと感じているのは大きく2つです。

まず1つ目は、注力課題自体の質が良かったことです。

これまでの営業活動では、商談数を増やすためには「行動量を増やす」が、主流の考え方でした。事前に相手企業のニーズが把握できていればさらに効率的に営業活動ができる、と分かっていながら、無理だと諦めている現状がありました。そのような状況のなか、我々が最適なソリューションを提供し始めたことで、多くの企業さまからの導入につながったと思っています。

2つ目は、2023年5月に経済メディア「PIVOT」に出演し、大きく認知拡大ができたことです。

PIVOTでは、動画のなかで実際に「Sales Marker」を使ったインテントセールスのデモンストレーションを行いました。また、導入事例に関する動画も公開し、両方とも大きな反響がありました。とくに事例動画は、公開から5日間で300件ほどのお問い合わせにつながり、90件の商談が生まれたのです。当時は、月100件ほどの商談しかなく、ひと月ぶんの商談件数が一気に増えた状態でした。

また、動画をきっかけに「インテントセールス」というキーワードの検索数も増え続けており、市場が形成されつつあると実感しています。

髙瀬:創業から今までのファイナンスの流れについて、可能な範囲で伺えますか?

小笠原:サービスローンチをした2022年3月ごろ、シードラウンドで5,000万円の資金調達をしました。その後は、2023年2月の5.5億円を皮切りに、シリーズAラウンドのファイナンスを進め、セカンドクローズ、サードクローズを経て、2024年7月までで累計資金調達23.5億円となっております。

急激な組織規模拡大に伴う問題は、先回りで対処

髙瀬:今回のファイナンスの位置付けや狙いについて、伺えますか?

小笠原:シリーズAは、一般的にPMFがほぼ見えており、スケールを見越したファイナンスの段階だととらえています。我々も、同様にプロダクトの拡散を目指し、資金調達を重ねているところです。

とくに意識していたのは、いかに早く、多くの人にインテントセールスについて知っていただくかです。多くの営業担当者が抱える課題を解決できる、新しいフレームワークであることを知っていただき、今まさに困っている営業現場に、スピーディーに届けることを目指していました。

髙瀬:順調そうに見える裏側にも、多くのご苦労があったと思います。直近の投資ラウンドにおいて、とくに苦労した点や力を注いだ点があれば教えてください。

小笠原:ファイナンスを実施した2023年4月以降は、正社員の採用を始め、約1年間で100名程度までメンバーの数を増やしました。組織を急速に拡大させるなかで、大きく2つの問題が生まれました。

まず1つ目は、日々のアップデートにメンバーのキャッチアップが追いつかなくなってきたことです。プロダクト、事業戦略、組織など、日々アップデートされますが、変更自体に気がついていなかったり、腹落ちできていないメンバーが増えてしまいました。

2つ目は、階層が増えたことにより、指示や連絡の浸透スピードが遅くなったことです。マネージャーたちに伝えたことがメンバーに伝わっていない、といったことが起こるようになりました。

髙瀬:2つの問題について、どのように乗り越えたのでしょうか?

小笠原:1つ目の問題は、全社参加ミーティングの開催頻度を増やしたことで解決しました。そもそも問題が起こっていた原因は、毎日のようにアップデートを繰り返している経営陣の思考過程を、社内に共有するペースが遅すぎたことでした。共有頻度を、元々の月1ペースから週1ペースにしたことで、メンバーからの「知らなかった」「変わっていたんですね」の声は少なくなりました。

2つ目の問題は、創業メンバー4名が研修を受け、マネジメントのノウハウをインストールするかたちで対処しました。研修先に選んだのは、急成長するスタートアップ企業のマネジメントに関する本を出している企業でした。学んだ内容をマネージャー陣に伝えたことで、組織がうまく回るようになった実感があります。

問題が大きくなってから解決策を模索するのではなく、比較的早い段階から対策を講じていたことも、大きなトラブルを避けるうえで重要なポイントでした。「100人の壁」「300人の壁」といった言葉をよく聞きますが、実際に壁にぶつかる前から、原因を言語化しておけば、壁ではなく、「階段」としてとらえられます。今振り返れば、「起業家」から「経営者」へと転換できたタイミングだったと思います。

投資家と月1でディスカッションし、視座を高める

髙瀬:Sales Markerさまは、累計資金調達23.5億円とのことで、多くの投資家の方々から応援されています。小笠原さんから見て、投資家の方々に求めるポイントがあれば、教えていただけますか。

小笠原:「自分の視座を引き上げていただけるか」は、もっとも重視しているポイントです。それしか考えていないかもしれません。

「ディスカッションを通じて、新しい気づきがいくつ生まれたか」「見えていなかった景色が見通せるようになったか」は常に気にしながら、投資家の方々と会話をさせていただいています。我々が今後直面するであろう課題やリスクについて、ご指摘いただくほど、スピーディーな事業成長を実現しやすくなると考えているからです。

髙瀬:非常に重要な視点ですね。投資家の方々とは定期的にディスカッションをされているのでしょうか?

小笠原:毎月定期的に議論をさせていただいております。

定例会議の場は、投資家の方々からアドバイスをいただくのと同時に、我々の方からも必要な情報をシェアするための時間でもあります。そのような意味では、毎月ファイナンスのためのピッチをやっていることと同じです。

スタートアップ企業のなかには、VCに出資してもらったあと、とくにコミュニケーションをとらない企業もありますが、個人的には非常にもったいないと思っています。経営者の視座をアップデートすることは、会社を大きくするうえで最重要だと考えており、そのための機会は積極的に活用すべきです。事業成長は、投資家の方々にとっても利益になるため、win-winの関係を築けると思っています。

「スピード」は、理想を実現させるために欠かせない要素

髙瀬:Sales Markerさまにとってファイナンスは、資金や知見を手に入れ、事業成長をさらに加速させる手段であると感じました。変な言い方ですが、なぜそこまでして事業成長を急ぐ必要があるとお考えでしょうか?

小笠原:面白い質問ですね。私は、実現可能性を高めるためだと考えています。

起業前、成長しているSaaS企業を調べるなか、共通点として「VCからの出資を受けている」という点に気がつきました。理由を考えるに、出資を受けながらスピーディーな事業推進を実現しなければ、変化に淘汰されてしまうのだと思い至りました。変化が激しい世の中においては、昨日必要だったものが今日には不要になる、という可能性があります。事業づくりに長い時間をかけるほどに、プロダクトやサービスの必要性はどんどん失われていくと思います。

だからこそ、私はファイナンスの力を借りながら、最速で世の中を変えたいと考えています。「SaaS」という概念をつくった、セールスフォース最高経営責任者のマーク・ベニオフ氏も、「成長」がもっとも重要だと語っています。

髙瀬:ありがとうございます。私も、まさにスピードはスタートアップ企業にとって重要な要素だと考えています。各社が目指す理想を実現するには、資金調達も含め、スピードを上げるあらゆる手立ての実行が必要だとあらためて思いました。最後に、今後の展望についてお伺いできればと思います。

小笠原:最終的には、起業、PMF、採用、セールス、マーケティングなど、ビジネスにおけるあらゆる領域で「Sales Markerのおかげで、自分の野望を実現できました」と言われる存在になりたいです。

その最初の一歩として、まずはセールス領域における課題解決に貢献をし、その後は徐々に関わる領域を広げる予定です。その結果、我々のパーパス「全ての人と企業が、既存の枠を越えて挑戦できる世界を創る。」の実現に近づけると思います。

とはいえ、我々の力だけだと、限定的な領域にとどまってしまうと思っています。そこで、協業も積極的に行い、周りの企業の力も借りながら、理想の実現を目指す予定です。すでに50社ほどの企業とパートナー関係にありますが、今後はさらに拡大するつもりです。

髙瀬:ありがとうございます。圧倒的なスピードで成長をしながらも、当初から掲げるパーパスに沿って、素晴らしいプロダクトを提供されていらっしゃると、あらためて感じました。ますますの成長を心より応援しております。以上でインタビューを終了いたします。本日はあらためて、貴重なお時間をありがとうございました。

小笠原:こちらこそ、貴重な機会をありがとうございました。


株式会社バンカブルは、「新たな金融のカタチを創り出す」をミッションに掲げ、従来の金融の仕組みやルールにとらわれず、柔軟かつスピーディーに適切な「お金」を提供できる"仕組み"を創出する企業です。キャッシュフローの負担を軽減し、成長を志す事業者さまがより高い成長曲線を描くことを後押しするサービスの詳細は、こちらをご覧ください。

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