映写室での心霊体験談

当時は、掛け持ちのアルバイトを抱えながら生活をしていました。

一人暮らしは何かとお金がかかるし、貯金もしたい。

リラクゼーションでは週3日、映画館では週4日の勤務を約5年間続けていました。

365日の間に休みは2~3日だけ、文字通り働き通しの生活。

これだけを見れば、大変で疲れるのでは?と心配されてしまいますが、その当時は全くの疲れ知らずでした。

というのは嘘です。

リラクゼーションの仕事は体力を使うというのもありますが、
人の疲れた身体をさわるので、精神を削りとられるような感覚になることもしばしばありました。

出勤から、昼休憩をそこそこにラストまで、
びっちり予約を埋められてしまうことも、週に一度くらいのペースであり、その時の疲れは尋常ではないですね。

それだからこそ、掛け持ちのアルバイトが必要だったのです。

と大袈裟に書いてみましたが、

始めの予約が13:00~だった場合は、13:00出勤の時もあり、
予約が途切れた時は、20:00に上がれたりすることもあるので、
大変な時は大変だけれども、予約がない時間は、
チラシを持って、のんびりチラシ配りをすることもありました。

なによりも、自分を頼って
「予約を取れて良かったー」
と駆け込んでくれた時は、何とも言えない嬉しさが込み上げてきます。

施術後、身体の強ばりがとれたのを目に見えて感じた時の達成感は、何とも得難いものです。

映画館での映写室の仕事は、本当に楽しく遣り甲斐のあるものでした。

映写室の朝は早いです。

シーズンによって変わりますが、
基本的には6:00・7:00~16:00。

それ以降は、学生アルバイトが16:00~24:00・25:00・26:00勤務で、公開前の映画のフィルムに問題がないか、本編を試写するのも主に学生アルバイトでした。

ああ羨ましい。

ということもあり、16:00以降はまるっきり休みで自由時間なんですよね。

映写室では、ストレスも疲れもなく働き、
その後は、日が落ちていない時間を満喫できる。

私にとって、映画館で働いている時間は、
趣味のような感覚でした。

今でこそ 、スケジュール管理がされ、デジタル化した映写機ですが、十数年前まではフィルム映写機だったんですよ。

フィルムの編集、映写機の定期メンテナンス、映写機からスクリーンへの投影。

本編に付けるトレーラー、所謂予告や特報の構成を考えるのも、経験あるアルバイトに託されていました。

子供向け作品にはこのトレーラー、
本編にこの俳優が出演しているからこのトレーラーをつけよう。
アニメ作品には、ふざけているのかというくらい、アニメのトレーラーで構成したこともあります笑

というような映画上映に関わる、始まりから終わりまで(配給元へフィルムを返却するまで)が映写室の仕事です。

映画好きでなくとも、想像するだけどもワクワクしませんか?

映写室の仕事は常に時間に囚われています。

出勤して一番にすることは、
ストップウォッチの時間を時報で秒単位まで合わせることから始めます。

出勤後、
1人がその日の上映スケジュールを3人分に割り当て、
他の人はその間に10スクリーン分の10機の映写機の立ち上げと稼働チェックをしていきます。

ダブルチェック形式で、フィルムを映写機にかけるひと、映写機をスタートする人は別の人、というルールでした。

(書いていて懐かしくなってきた)

そして、映写室は必然的に必要最低限の照明しかありません。

働いていた映画館の一番の目玉は 、600席を超えるほどに集客できる、巨大なスクリーン1です。

──そしてその大きさゆえに、映写機も孤立した部屋にありました。

その部屋は通路を通り、階段を上った恐ろしく静かなところにポツンとあります。

その階段の始まりと最上段のところには、防音が施されている重い扉があるのですが、

常にストッパーによって開けたままにしています。

階段を上っているとき、そして部屋に入って暫く滞在していときは 、今にも扉が閉まるんじゃないかと恐々していました。

創造力が豊かなんです笑

とはいえ、私も初めからそういう妄想があったわけではありません。

霊感体質の綺麗な同僚アルバイトさんが、
所謂ソウいう話をしてくるんです。

私たちは常にストップウォッチ 、無線 、マグライト、スケジュール表を持ち歩いて移動しています。

上映時間が近づくと、5分前には該当スクリーンに向かい各チェックをする。
時間になったらプロジェクターのスタートボタンを押して、CMを流す。

問題なく流れたのを確認後、無線でやり取りを交わす。

その間に終焉間近の該当スクリーンへ向かい、映写機の拭き掃除をして、次のフィルムをかける。

掃除は大切なんですよ。

埃でフィルムは傷ついてしまうし、時々その埃がスクリーン投影されしまこともあるんです。

見たことありませんか?

映像の端っこにピロピロ泳いでいる埃を…

映写機を一度ストップさせなければならない事態も起こるので、常に気を遣っています。

CMを流している間は、映写室の照明は明るくしていても問題はない。

ただ、トレーラーが始まる時間には映写室の灯りを全て消さなければならないのです。

投影する為の映写機のランプの灯りと、チェックする為のマグライトの灯りのみ。

それが孤立したスクリーン1の場合、なんだか孤独な気持ちになります。

そのまま本編開始まで 、トレーラーを見守っても良いのですが、その間にすることがあれば、次の作業へ向かうこともあります。

で、その時に同僚が、「男の人を見た」と言ったのです。

部屋を暗くしてトレーラーを見守っていたら、
なんか気配を感じるなあとチラッと横を見たら、男の人が直ぐ横に立っていた。

とヘラヘラしながら報告してきたのです。

正直にいうと、ふざけんなと思いましたよね。

暗がりは怖いけど 、それでも映写窓から映像と 、サウンドタワーからは音も楽しめる。
聴く為の音量ならば、好みの大音量で予告を楽しめる。

しかも大きな大迫力のスクリーン1ならば一人占め気分も味わえる。

OP挿入歌、エンディングの曲も終焉の5分前に行けば楽しめてしまう。

ミュージカル映画など特に最高でした。

それなのに 、よりによって幽霊を見たと申すのか!!
と。

勘違いされがちですが、
本編が始まってしまえば、定期ラウンド以外はほぼ他の作業に入ります。

それもあり、アラームをかけておかないとうっかり時間を忘れるということもあるので、時間は常に気にしていました。

その話を聞くまでは、そこまで気にしていなかったのに、幽霊を意識し始めたら、そこに行くのが怖くなってしまいました。

なるべく滞在時間を短くするようにしたり、
それでも好きなエンドロールがある作品は、怖さを押して早目に行って大音量で聴いたり。

そんなことを続けていました。

その同僚は普通に言ってくるんですよ。

どうやらこの映写室には男の人がいるみたいで、主にスクリーン1にいるが、
時々PCのある椅子に座っていることもあるそう。

その度に報告をされましたが、

実際に私は遭遇はしていませんでした。

でも幽霊を見たのは、その同僚だけではないんですよね。

深夜、学生アルバイトが試写をしている時に、一人きりのはずのスクリーン内に、出入口の通路側にずっと影が立っていた。

帰る時に、とっくに閉店しているホールにお婆さんが座っていたとか。

内容は忘れたけれど、そういう諸々があったそうです。

それで、
私はというと2度ほどありました。

終焉後、フィルムをかける前に埃とりの掃除から始めます。

フィルムタワー 、映写機、サウンドタワー。

フィルムタワーにはフィルムを乗せる為の大きなお皿、ディッシュが3つあります
トップ 、ミドル、ボトムとあり、送る側と巻き取り側。

昔のことなのでうろ覚えですが、

フィルムかけは、
フォルムを送る側のお皿の真ん中に、なんとかアームという装置を置き、
そこにフィルムを通して、あちこちのローラーを通して映写機へ、コマを合わせて、なんちゃらかんちゃらして、
最後にフィルムタワーの巻き取り側へ装着という流れになっている。

なんとかアームを取り外して、各ローラー等を拭き掃除をしていた時のことです。

突然ウィーンウィーンとディッシュが高速回転したのです。

勝手に高速回転して、手も触れないうちに勝手に止まりました。

映写機が動くメカニズムは、トラブル対応に備え、ある程度知識があるので、それはあり得ない出来事だととっさにわかりました。

本当にあり得ないんです。

なんとかアームも外しているし、ディッシュ掃除の為に、ディッシュのストッパーも外していた 。
機械なので、誤作動の可能性は勿論ある。

けれど、その状態ではまず誤作動は起こり得ないんです。

エネルギー源も何もかもない状態と言えば良いのかな。

それが勝手に回るものだから、しばし固まってしまいました。

「これは今、男の人が部屋にいるというアピールなのだろうか」

上映時間が迫っているので、固まっている場合ではなく、作業を続行して、この事は誰にも言いませんでした。

このあと映写機をスタートさせる子を怖がらせてしまうし、自分の中でも「なかった」ことにしたかったんですよね。

この出来事は「ディッシュが勝手に回った」というただそれだけのことなんですが、

幽霊の存在を改めて意識した出来事でもありました。

そしてあと一つ

映写機のデジタル化の流れがついにこの映画館にもきて、
まず手始めに3台のデジタル映写機が導入されました。
だからといって、直ぐにフィルム映写機が撤去されることもなく、併用というかたちです。

なぜならまだまだフィルムが主体の時代で、配給元でもまだ浸透されていないところもある。

そのこともあり、
フィルム映写機の隣にデジタル映写機を設置する形となりました。

スペースは狭くなりましたね。

フィルムタワー、2台の映写機、サウンドタワー。

ある日、スクリーン1の予告を無事にスタートさせ、無線で報告後階段を下りました。

通路を通り、

横目にスクリーン3を見て、女の人が仁王立ちして、映写窓から映像チェックしている姿が見えました。

まあ何とも思わず「チェックしているな」と通りすぎ、別の映写機へフィルムをかけに向かう。

無事に作業を終え、本編チェックの為に再びスクリーン1へ向かう。

本編スタートを終えて、無線報告後、階段を下りて再びスクリーン3を通り過ぎようとしたときに違和感に気付きました。

さきほど女の人が映写窓から映像チェックをしていましたが、
そこはデジタル映写機が置いてあり、そもそもが立てる場所ではないんですよね。

そこから映像チェックするのなら、レンズに触れないように屈んで窮屈そうにするしかなく、

その反対側のところからならば、真っ直ぐ立って映像チェックができる。

けれどそこに立つということは、

デジタル映写機の影に入るので、先ほど通った私の視点からは女の人が見えるはずがないんですよね。

ということは私は違う世界を見たということになるのか?

という何とも不思議な体験でした。

念のためにその日勤務していた同僚に、20分前くらいにスクリーン3にいた?と聞きましたが、行っていないと返答をもらいました。