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シャンゼリゼに着く朝に寄せて

 7月1日から始まったツール・ド・フランスは今日が最終日。 シャンゼリゼ通りを走るお馴染みのコース。何もなければ集団スプリントになるだろう。

 自分は初めて見たのがちょうど一年前の東京五輪ロードレースで、本格的に昨夏のブエルタ・ア・エスパーニャから見始めた身なので初めてのツール追いかけでもあった。
 正直なことを言うと、5月のジロの方が面白いと思っていた。 
理由はいくつかあって、推しのチームがスプリント勝負で勝利を重ねるチームなんだけど、ツールではスプリントが少なかったから。デンマークの最初の3日はTT、スプリント、スプリントだったけど、そのあとは逃げがそのまま勝ってしまうことも多く。第19ステージもスプリント勝負かと思ったんだけど… ジロを途中で抜けてまで来たロットスーダルのエーススプリンターであるユアンの立場どうなるんだ…と思ったり。 でも数少ないスプリント勝負のフィニッシュは、勝つべく人が勝ってる印象もある。
 あとは総合争い。 ジロも20ステージの展開によっては最低になる可能性も十分あったんだけど、それまで数秒の争いをトップの2人が繰り広げていたから。ジロでも途中で去ってしまった総合系ライダーもいて、ツールには張り切ってきたんだろうなと思う。 ツールではユンボことチームユンボヴィスマに上手いようにやられてしったけれど。
 今年のジロで総合優勝したのはオージーのジャイ・ヒンドレー。 2020年のジロで最終日のTTで負けて総合優勝ジャージ(マリアローザ)を失った彼だけど、その「忘れ物」をきっちりと取り返した。TTで負けたことをきっかけに、TT練習を重ねたことが功を奏したとのこと。

 今回のツールで、「忘れ物」を取り返すべく総合優勝を一番狙っていたのは間違いなくプリモシュ・ログリッチであり、チームユンボヴィスマだったのは明らか。 ツールの前哨戦とも呼ばれる「クリテリウム・ドーフィネ」ではチーム力を見せて完勝していたから。 ユンボが並々ならぬ覚悟を持って今年のツールに来るんだなあ、というのは初心者の自分でもわかった。

 しかし勝利の女神というものは気まぐれなもので。

 第5ステージには、北の地獄ことパリ~ルーベでおなじみの石畳を走るコースが取り入れられた。 あろうことかここでログリッチは落車して肩を脱臼。総合優勝争いからは脱落してしまう。 今年のユンボはログリッチともう一人、デンマーク人のヨナス・ヴィンゲゴーをエースとしていた。 実際このあとはヴィンゲゴーがエースとして走ることになった。
 今年のツールはデンマークのコペンハーゲンスタート。 現地ではチームプレゼンテーションで熱い観客に迎えられて涙ぐんでいた彼だけど、山岳決戦も制してマイヨジョーヌを獲得し、昨日のTTも無事走り切ってほぼ総合優勝を確定させた。日増しに凛々しい顔つきになったのは気のせいだろうか。
  このまま無事に終わればチーム・ユンボヴィスマとしては初のツール総合優勝。 ジロもブエルタも優勝経験があるけれど、ツールは今までなく、前身の頃からの悲願だったという。
  
 ユンボが総合優勝して嬉しいという反面、自分は少し寂しいなと感じる。 
ユンボのチーム力は凄いし、ヴィンゲゴーは昨年のツールでも総合2位だし、まったく文句はない結果なんだけど、ここにログリッチがいれば…と思ってしまうのだ。
 第5ステージで落車したあとは、他のチームメイトのために献身的に引いていたけれど、のちに怪我の回復に専念するためリタイアしている。

 自分はリアタイしていないのだけど、彼がツールの総合優勝を追い求める理由は、2020年のツール・ド・フランスにある。 それまでマイヨジョーヌをキープし、第20ステージのTTのあとも守りきれるだろう、と思われていた矢先に逆転されるという衝撃的な敗北だった。 本人は誰よりも悔しいだろうに、笑顔で勝者を称えにいった。 その相手が今回の総合優勝大本命と言われていたタデイ・ポガチャル。

 グランツールに「忘れ物」があるライダーは多いだろうけど、贔屓とか推しとか関係なく勝ってほしい、と願う相手が彼だった。 だから、ユンボとしてはまったく文句ない結果だろうけどログリッチがいないことをとても寂しく感じるのだ。

 最近は若くしてプロ入りする選手も多い中、元スキージャンパーだった彼は遅咲きの部類に入る。 まだまだ現役を続けるだろうけど、30代の彼にはあと何回チャンスがあるのか、とも考えてしまう。 
 ちなみに彼はツールどころか同じで行われるパリ~ニース(こちらも総合優勝ジャージは黄色で、マイヨジョーヌと呼ばれる)でも総合優勝がなかなかできなかった。だからフランスのレースで呪われていると言われたことがある。(2021年も最終日に落車で総合優勝を逃している)今年も一瞬ひやりとする場面はあったけど、それを回避して今年の大会では総合優勝を果たした。 
 いつか彼が本家のマイヨジョーヌに袖を通す姿が見たい。

ちなみに五輪の男子ロードレースが行われたのが昨年の7月24日。すべてはここから始まった…
 

  当時「ツールドフランス第22ステージ」と呼ばれた理由あまりわからなかったけど、今ならわかるかも。 シャンゼリゼから直接飛んできたライダーも多かったから。 
 あれから1年、ブエルタ、世界選手権、クラシック、ジロと沢山レースを見てきたけど、駅伝ファンの自分にとってはとても楽しい1年だった。
 グランツールの1つ1つの勝利にはストーリーがある。
今回のツールでもたくさんあった。 その中でも心に残っているのは第16ステージのユーゴ・ウルの勝利、 誰かに捧げる勝利にはグッと来てしまう人間なんだけど、彼のその相手は10年前に亡くなった弟。30代のベテランで、やっとつかんだツール初勝利というのがいい。

 シャンゼリゼで男子のツールが終わる日、同じ日にまた新たなレースが幕を開ける。
女子版のツールであるツール・ド・フランス・ファム
こちらも楽しみだ。

 
 
 

 


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