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ロスジェネは世代の孤島?いわゆる就職氷河期世代が浮かばれない理由

 直前の武蔵小杉についての記事にも言及したように、今の四十代を主とする世代は就職に難儀して生活が困窮している人が他の世代と比べ多いことから「就職氷河期世代」や「ロスジェネ(the lost generation)」と呼ばれています。

 ただ、「就職氷河期」という見方には疑問があり、そのようなものは現実には存在しなかったと思います。
 彼ら――私を含む――の新卒は凡そ1995年~2000年で、それから20年も25年も経つ今は当時より景気が悪くて雇用も悪化しています。求人倍率と失業率の改善は見られるものの、満員電車のような狭い所に多くの人を無理繰り押し込めているような感じが強く、その分賃金は悪化しています。更には社内の痴漢行為がますます増え、今時の労働環境は氷河すらない地球の温暖化による海水面の上昇の状況。氷河は滑らないように気をつければ歩いて渡れるけれど、それがないと渡れないし溺れてしまう。船があってもウィルスで使い物にならない。
 しかし、私などの新卒の頃はもっと雇用の器が多くあって賃金水準もまだ高止まりにあったので少なくとも新卒の就職はかなり良い状況にありました。

 なのに、この国の情報の送り手の方々はなぜ「就職氷河期」というものが存在したかのように云い、私などの世代を「就職氷河期世代」と呼ぶのでしょうか?

 ないものがあったかのように云う、それは認識ではなく願望ということです。

 その願望とは、今の四十代、当時の二十代を主とする後にロスジェネとも呼ばれるようになる世代を或る理由から排除し、ほぼ一生に亘り不遇に陥れたいという願望です。
 ロスジェネは新卒の頃の就職は良かったので、それを逆転させて職と生活に困るようにさせたい。
 そのためには新卒での就職という既得権益を奪い去り、経済が悪化してゆく中での転職を余儀なくさせるしかない。
 ロスジェネが結婚適齢期にあった頃は小泉政権。その構造改革には良い面も少なからずありましたが「岩盤規制を崩す」ことなどによる「既得権の打破」が後の政治の基調となったことはプロレタリアート革命よりもたちの悪い、ロスジェネに対するルサンチマンを動機とするものです。

 一体何が今の時代の支配層をしてロスジェネに対するルサンチマンを抱かせるのでしょうか?

 因みに、「既得権益」と「既得権」の似ているようでかなり異なる言葉の意味の違いにも注意することを要します。「権」を打破しても「益」を打破しないというのは「権益」を打破すると自分達の「益」も打破されてしまうからでしょう。自分達が得る「益」は残したい、でもそのための「権」はなくす。――それがどんなことなのか。

 今2020年の時点での支配層は六十歳と仮定すると小泉構造改革の時代には四十歳でした。既に私などは当時の彼らの齢を超えています。
 彼らの新卒は中曽根政権による行政改革の始まる1980年頃。中曽根行政改革にも良い面が少なからずありますが実際になされたことよりも過大な時代の気運が形成されたということでは負の遺産もあります。過大な時代の気運とは話が初めの意義よりもどんどん大きくなって現実を離れてゆくこと。
 近代の日本は何らかの動機から、庶民が偉くて官僚に典型を見るような知性のある人々を蔑む民尊官卑の気風があります。そのような近代日本の気風と中曽根行政改革や小泉構造改革は化合し易いのです。
 頭が悪くて何の改善を図ることがなくてもその道一筋でやっておれば経験という価値が身に着き、やがては「ベテラン」と呼ばれるようになる。今時の企業がやたらと職務経験を問うのはそういうことです――本当にその道を一筋に歩むならそもそも職務経験が問われるような転職をすることがない筈なのですが、なぜか彼らは転職を奨励します。――。
 そのような下らない思想から生み出されるのが掃いて捨てる程の「職人芸」や「匠の技」、更に柄の悪いのは「労働者の汗の結晶」。何で「最低限の品質しかありません。」或いは「最低限にも達していませんが何とか御容赦いただけませんでしょうか?」と云えないのでしょう。うちの社長がどれだけそのように頭を下げて回って自分達が食べてゆけているのか分からないのでしょうか?
 そこまで最低限或いは最低限以下ではないにせよ、同じような心から出て来たのが数年前の日産自動車や富士重工業の完成検査における不正でしょう。経営者が、例えばカルロスゴーンのような本物の職人上がりの者がどんなに誠意を以て品質の維持や改善、「コストカット」など無駄をなくすことを云っても現場の労働者が聞く耳を持たない。
 「搾取される側」とされている人々、即ち労働者こそが搾取を生み出して助長している。労使対立という通念からは見えて来ないことです。

 ロスジェネは明確な知識によるものにせよ何か分からないけれどうすうすと感じるだけにせよ、そのような現代社会の本質が見えている人が多い。
 それが何で見えているのかは謎も多いのでここには述べません。色々と歴史的影響があるのだろうと思われます。
 ここに考えるのは逆にロスジェネ以外には何で見えないかについて。

 冒頭の写真の山本太郎氏、れいわ新選組という小政党を率いて数年前から話題になっています。
 私の一つ上の1974年(昭和49年)の生まれで、ロスジェネのど真中。彼は俳優として活躍していたので少なくとも実利の面での'lost'はありませんが何か思う処があって政治家という何の保証もない立場に転じました。
 私は彼が初めて選挙に当選した2013年――もう7年になるのですか。――は、全然論外の存在と見ていました。政治報道の用語に言う「泡沫候補」、そして当選しても彼を当選させる東京都民は「阿呆違いまんねん、パーーでんねん。」だと思っていました。
 政治は全国に確かな組織を持つ政党がしてなんぼと思うので、どこに住むにしても民主党しか考えられないと思うでした。
 それから6年後の昨年に、6年いうたら小学生が入って出る年ですわ、その山本太郎が地元に程近い多摩中央駅前に参議院選挙の演説に来た時に、120°ほど思いが変わりました。一部に期待されているような彼が総理大臣になるというのは「惜しいですね。」という感じですが、政治家として何らかの重要な役割を期待するようになった――「何らかの重要な」て、その陰謀的な言い回し何や?――。

 それが何でかというと、山本太郎氏の政治観はルサンチマンに動かされてはいないということ。
 その意を超訳すると、今までの政治が何で駄目なのかではなく、これからの政治は何をするべしかという観点で考えていると見えること。
 勿論、今までの政治の駄目なこと、悪いことは色々とあります。それを分析することは必ずしも意味のないことではないでしょう。しかし「何で失敗したか」という見方からは「どうすれば成功するか」という見方を生み出せる可能性は余程に慎重に虚心坦懐にしなければ低いし、即ち改善の効率が悪いし、失敗の主の言い訳や居直りを助長する虞があります。「あなた方はこうだから失敗した。」という指摘を素直に受け止められる人は少ないからです。受け止められる人も、十度に二度できるかどうかでしょう。そもそも、失敗を重ねる人の多くは自分の思っていることやしていることを失敗だと思ってはおらず、自分だって人並みにやっている、何の文句を云われる筋合いがあるかと思っています。それが先述の「労働者根性」です。労働者は労働者であるだけで偉いと思っているので、社会的地位が人間の尊厳を決めるという発想そのものです。そうならば、必然に女子は蔑まれることになります。

 山本太郎は少なくとも今までの時代のそのような無駄を幾らかでも取ってくれると望めるのです。

 山本太郎だけではなく観月ありさとか様々いますが、今のロスジェネが新卒の時代から着々と力を着けていたらこの国がどんだけー!改善されて無駄のない世の中になってしまうか分からない、なので、その芽を若い内に摘み取っておけということで新卒就職の既得権益が剥ぎ取られて行ったのが正しい歴史認識です。その決め台詞の一つは「皆――:全ての世代――もこんな不況の時代に苦労している。なのでやむを得ないことだ。」。
 その主導役がロスジェネの親ではないが社会での指導役となる今の六十歳辺り。1960年(昭和35年頃)の生まれで、1964年の東京オリンピックはまだ物心が着かないので見ていない、なので自分達の目の黒い内にもう一度やってほしいという世代。団塊世代もかなりの迷惑ですが、団塊世代だけではない。彼らが10歳の時に東京オリンピックを見て目をきらきらと輝かせた安倍晋三君を山車にして2020年に開催が予定されている東京オリンピックを後押しした。それも一種のルサンチマンで、要は自分が見れなかったことが動機。
 彼らの新卒就職は1980年頃ですが、当時は景気が上向き始める直前という微妙な時代で、石油危機による不況の影響がまだ拭えていない頃。結果としては「これからは上向く。」という期待で就職がかなり楽になったが不安は小さくなかった。「まだ持っているがこれからは分からない。」というロスジェネの当時の不安感とは丁度逆な感じ。
 その「まだ持っているがこれからは分からない、なので自分達が何とかしよう。」という芽を摘み取り、もう持たなくさせているのが今の六十歳の辺りの指導層。彼らが若い頃に日本が上向いたのは戦前戦中生まれの人々の力であり彼らの力によるものではない。現実には他力のみで成り立って来たにもかかわらず、石油危機という大きな出来事を知っているというだけで自分達は現実を厳しく認識して育っていると思い込んでいる。それで何をするかといえば化粧紙を買い占めるようなこと。最近の覆面の買占めにも通じるようなものがある。日本を取り戻すというけれどまるで中国人。

 石油危機を知っているぜという変な自負心はほぼほぼ対岸の火事でしかない阪神淡路大震災――彼らが35歳辺りの頃。――や東日本大震災――彼らが50歳辺りの頃。――を「知っている」という全く事実に反する意識に発展しています。計画停電の何が重い体験なのでしょう?ロスジェネは自宅の停電を何度となく経験しています。

 もはや貴族だの資本家だのという歴史の公式では分からない、2020年に「アラ還――:還暦の六十歳の辺りの年頃――」という前代未聞の怪物達が今の日本や世界を支配しています。ならば、トランプ大統領のような団塊世代らしくなり損ねた老人が大統領になるのも仕方がないといえるでしょう。 

 

 

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