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「とりあえず入れておく」をやめる:小田急電車の引込線から考える習慣の改善。

 数年前に小田急電鉄の代々木上原駅〜登戸駅の複々線が完成して電車の運行が大きく変わりました。
 線路の数が二倍になる訳で、輸送力の増強という点から大いに注目されています。
 しかし小田急の進歩は複々線という分かり易いこともそうですがもっと大きな、少し難しい事柄があります。
 それは引込線の廃止です。

 引込線とは駅に終着の列車を一旦は駅の場内を出して入れておくための寸先にある線路です。
 特に例えば向ヶ丘遊園行普通や本厚木行準急などの途中駅止の列車は終着の乗場と始発の乗場を小田原方面と東京方面という既定の方面別の乗場に随い分けるために引込線を使うことが永らく行われていましたし今も向ヶ丘遊園駅、町田駅、本厚木駅と新松田駅は引込線を使う当駅止の列車があります。冒頭の写真は新松田行急行の終着の時の場面です。

 ーーと説明すると、いかにもそれはそうだ、そうするものだという気がしませんか?
 新松田駅に着いた列車が方面を替えて新宿行になるためには、即ち銀将が金に成るためには、小田原行の出る乗場から出るのは分かりにくいではないかという。

 しかし小田急の他の多くの鉄道は途中駅止の列車をそのようにしてはいません。むしろ小田急が普通はそうするものではないということをしており、近年の小田急はそれをなるべくなくしてゆこうとしています。
 複々線の出来た時から、小田急には新しく伊勢原行の普通と準急や秦野行の普通が設けられています。
 伊勢原行や秦野行は四十年ほどなかったものですがそれ以前は少数がありました。当時の秦野駅は大秦野駅という名で、隣の東海大学前駅は大根(おおね)駅といい、よくだいこん駅と呼ばれていました。
 その伊勢原駅と秦野駅は引込線がなく、当駅止の列車は小田原方面の1番線に入ってそこで折返して東京方面の線に発車します。
 それが鉄道の一般に行われる運用の仕方です。小田急はそれを複々線が出来るまでは絶対にしませんでした。

 折返式は、列車が方面(進行方向)を替えるためには暫く逆走をして分岐線を通って目的の方面の線に入ることを要します。
 どこの鉄道業者もそれを普通に行っていますが小田急はそれは危ないので駄目だというのです。
 逆走といえば近年に特に高齢の運転者による自動車の逆走の多発が問題になっていますが鉄道の折返運転における逆走はそのような制度に随い行われるものであり自動車の逆走とは異なりますし、電車の逆走が駄目なら単線も駄目だということになります。首都圏にも西武多摩川線や京王高尾線、JR御殿場線などの単線の区間があります。

 上の写真は山北駅で単線待避(すれ違い避け)をするJR御殿場線。
 下の写真は京王高尾線の高尾〜高尾山口の単線区間。

 私は海と山はどちらかというと山に行くことが多く、JR御殿場線で丹沢に行ったり京王電車で高尾山に行ったりしています。スポーツとしての登山にはあまり興味がないというかむしろ懐疑的ですが、それらのような低くて安全に出来ている山に修行のために登ることが好きです。何しろ私は標高低い系の下町気質なので、山手の更に山手の多摩地方でもより標高の低い川崎市に選び住むとか。

 京王は車庫のある高幡不動行を除いては全ての途中駅止の列車が1番線での折返式ですし、阪急も車庫のある雲雀丘花屋敷行を除いては全てが折返式です。小田急の車庫のある駅は成城学園前駅、相模大野駅と海老名駅ですが伊勢原行や秦野行が設けられてからは終電時に入庫するだけの列車を除いては車庫での引返による列車はほとんどなくなりました。

 引込線とはいわば、「とりあえず入れておく」という考え方です。
 入れておけば他の列車などの妨げにならずにどうにか出来る。

 列車は入れたら直ぐに出すことが前提なのでそれで入れたものが入り放しになることはありませんが、入れて出すための時間を確保するためには終着時と始発時の停車時間を短く設定せざるを得ず、そうなると列車の遅延を復旧することが難しくなりまたは客扱の余地(客が乗降をする時間)が少なくなるので客にとっても不便で列車の乗車率も低くなってしまいます。殊に普通列車は乗車率が低めで客が急行などに集中しがちなのでなるべく普通列車に乗れるようにしないと分散乗車が実現されません。特に小田急は複々線により普通もかなり早くなっており、折返駅だけではなく途中停車駅も停車時間を長めに取ることが乗車率の分散や遅延の復旧力になります。

 今の小田急はそれを或る程度は実現して来ています。

 沿線の人気が高くて客の多い小田急なので、小田急のすることは広く人々に影響を及ぼします。

 暮らしや職において、電車の引込線のように「とりあえず入れておく」ことにしている物事はないでしょうか?

 特に少なくないと思われるのは冷蔵庫。
 台所の棚なども、本人はいつかは使うつもりで入れておいても傍から見ると意味不明な物がごろごろと煮詰まって焦げ着いていたり。
 押入に果ては手洗所や浴室までも。

 物を入れるためや置くための所は多少は必要です。
 しかしそれらが引込線のように貫通扉を6両なら10枚も10両なら18枚も開閉しないと乗務員の移動ができないような状態になるなら、入れたり置いたりする所を作らない、即ち折返運転にすることも一案ですし、車庫のように点検整備を常にすることが前提のしっかりとした収納場所を作ることも一案です。
 例えば服の衣紋掛を部屋の鴨居に吊るす人がよくいるそうですが鴨居は服を吊るすためのものではありません。鴨居が服という列車の引込線になっている訳で、(かつての)Odakyu way of lifeになってしまいます。

 しかしそれが便利(いわゆる使い勝手の良さ。)で効率的(即ち面倒くさくない。)だと思う人はなかなかOdakyu styleの不便さや不効率に気づきにくい。
 小田急以外は分岐点の切替による逆走を伴う折返運転を皆昔から普通にしています。

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