菖蒲のつみれ汁 8

 彼の言うことには
「自信もなければ扉など開きゃせんのや、まぁ坊の言う通りや。」
誰もその言葉に耳を傾ける様子はなく、ただただ掠れた声が人々の身体に衝突し吸収されて、消え去ることを見守るだけであった。雀の声などの方がよっぽど響き渡り心地の良い風はその気まずい空気を清々しく洗っていくのである。そこに口を出したのは思いも寄らない人であった。
「みんぎゃあのもんも、そりゃあ、くりゅんせんよなぁ」
酷く訛ったその一言は余りにも滑らかに私の舌の上を滑りこぼれ落ちたのである。キョトンと目を見合わせる彼等を尻目に、私は恥ずかしさの余り体を翻し両膝を折り曲げて抱え込んでしまった。細かく鋭い嗚咽は聞き慣れのしていない彼らの鼓膜を不規則に揺らしたのだった。

 昨日のことはあまり覚えていない。というより思い出したくないという本能が理性に記憶の整理をさせなかった。雀は庭の菖蒲の花を啄んだ。

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