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僕・ミーツ・彼女

自分の夢小説を書きました。
ボーイミーツガールものです。

僕・ミーツ・彼女

誰にだって人生に嫌気が差すことがあると思う。
大抵の人が一度くらいは全てを投げ出して解放されたいと思ったことがあるだろう。
その時は僕もちょうどそんな気分だった。
そんな気分になったときは、行きつけの廃ビルの屋上にふらりと訪れる。
破れたフェンスの隙間から、囲われた空間の外に出て、建物の端っこに腰掛けて、宙に足を投げ出してみる。
投げ出した足元から不安が上ってくる。
地面との距離はおよそ20mほど。
ここから飛び降りれば、死は免れないだろう。
想像して僕は震えた。
やはり僕にはここから飛び降りる勇気なんてない。
「帰るか……」
そう呟いて立ち上がったその時だった。
何もこんなところでやらかさなくてもいいだろうに、僕は足を踏み外してしまったのだった。
「……!」
世界がスローモーションで傾いていく。
このまま地面に叩きつけられたら僕の人生は終わりだ。
絶対に嫌だ!
しかしどうすることもできず、僕の体は落下を続けるばかり……と思われたその時だった。
空中に突然、柔らかな床が現れた。
軽い衝撃を伴い、僕はその床に尻もちをついた。
これは……何だ?
混乱していると、頭上から声が降ってきた。
「大丈夫ですか」
聞き覚えのあるようなないような、そんな声だった。
声のした方に目を向けてみると、そこには、大きな大きな、見慣れたクラスメイトの顔(その顔は布で覆われているので、正確には顔は見えなかったのだが)があった。
「乱獅子さん……?」
乱獅子じみるさん。僕のクラスメイト。常に顔に布をつけており、表情を伺えない謎めいた女の子。
僕はどうやら乱獅子さんの手の中にいたようだった。
どういうわけか巨大化して、僕のことを助けてくれたようなのだ。
「大丈夫そうですね、安心しました」
乱獅子さんは僕をそろそろと地面に降ろし、自分の元のサイズに戻る。
それでも僕よりずいぶんと大きい。
「えっと……あの……ありがとう。助かったよ」
「いえいえ」
「ところで聞いてもいいのかわからないけど……」
「なんでしょう」
「その、さっきの大きくなってたやつって……」
乱獅子さんの布がふわりと揺れた。
どうやら笑ったみたいだった。
「今日のことは、わたしとあなたの秘密ですよ」
そう言って乱獅子さんは去っていった。

突然だが吊り橋効果というものをご存知だろうか。
不安や恐怖を強く感じる状況下では恋愛感情を抱きやすくなる現象のことである。
この胸の高鳴りは、先程の九死に一生体験によるものなのか、それとも、乱獅子さんのことが……。
モヤモヤとしたものと未だおさまらない胸のドキドキを抱えながら、僕は帰路についた。

この日を境に、僕とじみるさんは何かと関わることが多くなった。
だけど、それは、別のお話。
僕が乱獅子さんをじみるさんと呼ぶようになるのもまた、別のお話なのだ。

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