ハイボール

冷たい白州を飲みながら、大人になったと感じた。
お酒なんてそんなに飲めなかったし、好きでもなかった。
「太らへんお酒はハイボールやねん」と、彼は会うたびハイボールを飲んでいた。
わたしたちは時間が許す限りお酒と共に語り合った。
病めるときも健やかなるときも、彼はハイボールを、わたしはビールを飲んでいた。

初めて彼とハイボールを飲んだとき、宇宙に放り出されたように眩暈がして、ひかる街灯をひとつずつ数えながら一緒に歩いた。
たった一杯のハイボールでわたしは簡単に酔えてしまった。

最近はビールを飲まなくなった。
舌に残る苦みがただただ不快に思えてならない。
美味しくなくなってしまった。
その代わりに、ハイボールを飲むようになった。
彼がそばにいなくなったあと、ふと思い出したようにハイボールを飲み始めた。
もう眩暈もしないし、街灯の数も数えていない。
まっすぐ歩けるようになってしまった。
一緒に歩く彼がいないからかもしれない。
それでも、染みついた味を変えることができない。

ハイボールをいくら飲んでも酔わない彼みたいに、わたしもハイボールを飲めば飲むほど、味に慣れて、のめば飲むほど思い出は色褪せていく。

違う世界で今日もわたしたちはハイボールを飲んでいるんだと思う。

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