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飽き性

飽きた。

唐突にそれは降ってきた。
それはまるでスコールのように突然に、
遠くで真っ黒な空が雷鳴が轟いていたように確実に。
わたしは折りたたみ傘を持っていた。
ずっとこの時を待っていたかのように。


騙されたふりをして
器の大きなふりをして
全て受け止めていたはずだった。
突然それが無理になる。
あなたの嘘も、隠し事も、
あの子の軽口も、これ見よがしのわがままも、
あの人の色恋も、
終いには大好きだったルームフラグレンスにも
ぜんぶ、飽きてしまった。

受けとめる気力は失せた。
わたしの煮詰まってどろどろとした気持ちを
「メンヘラだ」と笑うのだけは絶対に許せない。
口の端がすこし、痙攣する。

大好きな人たちを大切にする。
そういう思いは人一倍強かった。
大好きな人たちが急に嫌いになる。
そういう思いは誰よりも突然にくる。

思いやりによる小さな綻びのしわ寄せは己に返ってくる。
思いやり尽くした分だけ、
わたしはわたしを傷つけているらしい。
気付いたときには、取り返しのつかないほど
血だらけだった。

止血の方法は知らない。
お金も高価なものも美味しいものも、
この失血は止められない。
死ぬのだ、と思う。
さっきまでの穏やかな優しいわたしは
突然血を噴き出して死んでいく。

わたしの死のうとする原動力は
「いまならなんだって出来る」
というワクワク感と、ぽっかりとした絶望感だ。
それらが等しく平衡になるとき、
ベランダを登り、座る。
とん、と蹴れば死ねる。
その瞬間を想像しながらタバコを燻らせるのが好きだった。
わたしは救われる。
死は救済だと12歳の時に思いついた。
我ながらなんという気付きだろう!と興奮したのを覚えている。
そのときは文字通り、自分を傷つけながら、救済の死を考え尽くしていた。

飽きてしまった、わたしの愛した全てへ。
わたしは気付きたくなかった、
そして傷つきたくなかった。

その一言が言えない、言いたくない。
惨めな言葉だ
傷つきたくない、なんて。
だからわたしは失った愛情が排水口に流れていくのを目で追いながら
「なんか、飽きちゃったんだよね」と笑って誤魔化すようにしていた。

「飽きちゃったんだよね、なんか、もういいかなって☺️」

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