ヨハネの黙示録


あれからどれくらいも経ったんだろう。
あなたとは隠しごとで塗り固められ
あなたの知らないわたしと
わたしの知らないあなたの
空白を埋めるような時間はあっという間に過ぎ去り、
あっけなく終わってしまった。

都合の良い記憶で美化されたまま
再会して、家に置いてた汚れたスマホケースに
"わたしたち"の写真が貼ってあった。

わたしたちの時間は誰にも知られず、
わたしは会うたびに泣きそうになるのを堪えた。
記憶のなかでのあなたを思い出して、
目の前のあなたを見て、
抱えるには重すぎるあなたを抱いて、
鼻の奥がつんとする。

それでも相変わらず、わたしのたちは
いろんなものを避けながら泥の中を進んでいく。
他人に理解されない何かを埋めながら。
離れていたのに、また手繰り寄せ合っていた。
「助ける必要はない」
冷酷だな、赤の他人は。

暑かった。
セミが鳴いて、
汗が止まらなくて、
熱気でスカイツリーが揺らいでいた。
役所でなれない手続きを何度もした。
病院の書類に何度もサインをした。
あなたがまた生きられるように。

運命なのか地獄なのか。
「あの人は地獄に行ったよ」
人にはそう笑って言うわたしだけど、
わたしが殺したのかと未だ思う。

わたしが重い腰が上がらなくて
会いに行かなかったから、
あなたは生きる気力を無くしたのかもしれない。


耳にこびりつく
「自慢の娘だ」
焼けた喉から絞り出された発語もままならない声。
待合室で看護師さんとお話しているとき
病室から聞こえた騒音、走り出す看護師さん。
寝たきりのくせにわたしに会おうとして
ベッドから落ちた、あなたの音。
ICUで死にかけているあなたに語りかける
わたしの長らく封印していた言葉。

「お父さん」
わたしもいつか地獄へ行くよ。
お父さんを見殺しにしてしまったし、
それからというもの、
許されないことをたくさんしてしまった。
これはお父さんほどではないけれど。

地獄の果てまで手を繋いでいこうね。
最低なわたしたち親子には、
ゲヘナの業火がよく似合う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?