この気持ちに合う歌が見つからない

寝る前に調べ物をしようと思って、ワイヤレスイヤホンを耳につける。適当にSpotifyで好きなアーティストのプレイリストを再生する。今夜はaikoだ。

今までしっかりと話したことのない知り合いと電話する約束ができたので、Facebookの投稿を一通り見てどんな人間か事前に知っておこうと思った。つまらない質問をしてどこかでしたことのあるような話をさせるのは申し訳ない。

そう思ってFacebookのトップページを開いたら、去年の夏ごろに進路相談に乗ってくれた先輩がオンラインになっていた。「そういえば、この先輩とも通話してみたいな」と思い、その人のページを開いた。

そこからはどう気持ちが変化したのかあまり覚えていない。ただ、その先輩の連なるデザインコンペの受賞報告を食いつくように見ていた。投稿日時から当時の先輩の年齢を逆算し、今の自分より若くないことを確認しては安堵していた。


小学校のころ、漫画家になりたかった。ジャンプの受賞者の年齢が19とか20だったから、12歳で漫画家を目指している自分が応募すれば神童と崇められるのではないかと期待していた。結局漫画を完成させることは一度もなくて、あの時見ていた受賞者が19,20あたりの歳だった理由は今はよくわかる。

20歳の誕生日を目前にして、何も積み上げてこなかった、何も成し遂げてこなかった事実と向き合うのがあまりにも恐ろしい。Wikipediaでaikoの来歴を見れば、高校生で曲作りを始めているし、20歳でグランプリを獲得している。自分はピアノは弾けないし、歌もダンスも絶望的に下手だ。唯一続けているといえる勉強の知識も、クイズ番組の早押しの序盤で活躍するくらいである。CM明けに答えが発表されるような難問には太刀打ちできない。

大人というカテゴリに投獄される前に、何か形に残したい。「10代の熱さ」と称されたい。「あの歳でこんな作品を作れるなんてやはり天才だ」という賞賛はショーケースに飾られたままだ。もうすぐ鍵穴も埋められるらしい。


もうすぐ先輩と同い年だ。私は、そもそも先輩が参加しているコンペを知らない。Facebookページを見れば、あの人もあの人も「いいね!」していた。何で知ってるんだろう。ああ、自分ってとろいなあ。


気付けば、イヤホンは外れていた。ああ、音楽をかけないと。せっかく買った最新型なんだから。大好きな歌手がCMに出ていたイヤホン。ああ、そういえばその歌手も、小学校から合唱団に入ってたんだっけ。

どんなに暗い音楽も軽く聞こえる。別に悲しい気分に沈みたいわけではないんだよ。この曲じゃないなあ。こんな気持ち、歌になってるのかな。俺も歌作れたらよかったな。

耳に入れたイヤホンからは、ノイズキャンセリングの微かな雑音だけが聞こえる。

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