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第1章─ 第1節─ ひきこもりの経験

これまで「ひきこもり」についての議論や定義は、国や自治体、専門家、メディアが中心となっておこなってきた。しかし、ひきこもりUX会議が出会ってきた「ひきこもり」の当事者/経験者には、そこでの議論や定義では把握・理解しきれない実態があると感じてきた。
本調査では、「ひきこもり」であるか、また「ひきこもり」経験があるか否かを、これまでの定義※によらず回答者の主観にゆだねている。本節では、ひきこもり経験の有無や、自分を「ひきこもり」だと思う理由、ひきこもり期間の分析結果をもとに、「ひきこもり」の実像を探っていく。

※「様々な要因の結果として社会的参加を回避し、原則的には6か月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態」(厚生労働省
『ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン』(2010年))

┃全回答者のうち86%が「ひきこもり」経験あり

問1は「あなたは、これまでに「ひきこもり」だったことはありますか」という設問であり、その有無を答える形式となっている。すべての回答者のうち86.0%が「ひきこもりだったことがある」と答えた。(図1-1-1)

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問2は、問1で「ある」と答えた方を対象にした設問である。「あなたは、現在「ひきこもり」ですか」という質問に対して、「はい」と答えた割合は65.4%だった。(図1-1-2)

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┃部屋/ 家に閉じこもっている=「ひきこもり」ではない

本調査では、ひきこもり経験があるかどうかを、
本人の主観にゆだねている。問3は、問1に「ある」と回答した方を対象にした「あなたはなぜ自分を「ひきこもり」だと思いましたか」という設問と
なっている。「自分をひきこもり(だった)」と思った理由は「通学/就労していないから」が約4割、次いで「部屋/家に閉じこもりがちだから」が約3
割であった。(図1-1-3)

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下の図は「現在ひきこもり」に限定して問3を分析したものである。この図から分かるように外出頻度よりも、通学・就労状況がひきこもりだと
思う理由となっている割合が高い。(図1-1-4)

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問3「あなたはなぜ自分を「ひきこもり」だと思いましたか」で「その他」を選択した107名のなかには、「複数の選択肢に当てはまるから」と答えた人もいた。また、「(国や精神科医が定めた)定義に当てはまるから」という回答も複数あった。
「自分をひきこもり(だった)」と思う理由を主観的回答にゆだねたことにより、それが1つに絞り切れないことや、自己認識と他者からの定義にギャップがあることが分かった。「その他」を選択し、記述のあった回答から特徴的なものを抜粋する。


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┃ひきこもりの長期化、高年齢化傾向

問4は、ひきこもり経験があると答えた人を対象にした「あなたの「ひきこもり」期間(累計)についておしえてください」という設問である。
ひきこもり期間が延べ7年以上の人が48.6%で最も割合が高かったのが10~15年(16.2%)、20年以上の人も9.2%いた。平均は8.8年だった。(図1-1-5)

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問5は「あなたの「ひきこもり」期間はいつからいつまでですか」という自由記述式の設問である。設問への答え方は「16 歳から2 3 歳まで」というものや、「2 5歳から10年」、「20 01年から20 0 9年」などさまざまであった。また、断続的な「ひきこもり」も数多く回答があった(たとえば「24歳から25歳、30歳から35歳の2回」など)。これらの回答を「ひきこもり」開始年齢と「ひきこもり」期間というデータに割り当て分析した。
回答者の年齢層ごとにひきこもり期間を見ると、年齢が高くなるほど「ひきこもり」期間が長期化していることが分かる。これは「現在ひきこもり」でも同じ傾向であった。(図1-1-6、図1-1-7)

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さらに、問5の回答からひきこもり期間の平均を分析すると、ひきこもり経験がある人の平均(累計期間)は8.8年(標準偏差7.6年、n=1,186)だった。「現在ひきこもり」に限定すると、平均は10.6年(標準偏差7.9年、n=765)であった。
次に、40歳以上の「現在ひきこもり」に注目する。40歳で区切っているのは、長年多くのひきこもり支援施策の対象が39歳までとされ、40歳以上が対象外とされてきたためである。本調査においては、「現在ひきこもり」と答えた人の37.4%が40代以上だった。回答者の年齢層分布からも、ひきこもりは長らく若者の問題とされてきたが、中高年層の課題にシフトしていることが分かる。
「現在ひきこもり」で40歳以上の人のひきこもり累計期間の平均は14.0年※(標準偏差9.5年、n=283)に及んでいた。

※ 2020年3月26日にUX会議が行った『ひきこもり・生きづらさについての
実態調査2019』結果発表記者会見では同内容について14.2年と発表し
ていたがここに訂正する

┃断続的にひきこもっている

問5はひきこもり期間を自由記述で回答する設問であった。なかには「断続的」という言葉を使っている回答も複数あり、ひきこもり経験が1度ではなく、複数回にわたり断続的にひきこもっている人がいるということが分かった。設問ではひきこもりの回数を直接的には聞いていないた
め正確を期すデータではないが、参考に問5への回答から2回以上ひきこもり経験があると認められる回答を分析した。その結果、4分の1以上にあたる26.5%が2回以上のひきこもり経験があり、断続的にひきこもっていることが
分かった。(図1-1-8)

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┃ひきこもりを脱しても続く「生きづらさ」

過去にひきこもりだったことがあり、現在はひきこもりではない人の80.7%が、問8の「あなたは生きづらさを感じたことがありますか」という設問に対して「現在生きづらさを感じる」と答えた。このことから、ひきこもり状態から脱しても本人の感じている生きづらさがなくなるわけではないことが分かる。生きづらさが解消されないまま、無理をして動き出したり就労したりすることで疲弊し、再びひきこもることから、断続的なひきこもりへとつながっていくのではないだろうか。(図1-1-9)

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過去にひきこもり経験があり、「現在生きづらさを感じている」と回答した
人の自由記述から、特徴的なものを紹介する。(末尾のカッコ内は自由記述の引用元)

心身の不調

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いつまたひきこもるか不安

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仕事や職場について

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ひきこもり経験後の居場所

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本節のまとめ

厚生労働省による定義では、外出頻度と家族以外とのコミュニケーションに
よって「ひきこもり」を定めているが、実際には通学・就労状況をはじめ、定義に必ずしも当てはまらないさまざまな理由によって自身を「ひきこもり」と捉えていることが分かる。このことが支援者の想定する被支援者像との間にギャップを生んでいるのではないだろうか。

また今回の調査で、断続的な「ひきこもり」に苦しんでいる実態が垣間見えた。ここから「ひきこもり状態を脱せばそれでよい」と安易に考えるべきでないことが分かる。調査では将来の不安について尋ねる設問があったが、その中には「今はひきこもりではないが、いつ不安定になるかわからないことが不安」という記述が複数見られた。

いかがでしたでしょうか。続きはひきこもりUX会議オンラインショップまたはAmazonからご購入できます。

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