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はじめに

本書は、一般社団法人ひきこもりUX会議が2019年秋に実施した「ひきこもり・生きづらさについての実態調査2019」の調査データをもとに、属性やジェンダー、家族構成や経歴、支援や居場所、生きづらさなどについて統計的な分析と考察を試み、自由記述の引用と分析も盛り込んでまとめたものです。
これまでの国や自治体による「ひきこもり」の調査結果や、メディアが伝えてきた「ひきこもりの当事者」像は、残念ながら往々にして「リアル」であるとは言いがたい気がします。一面的で、ときに否定的なイメージや、本人たちの実相や支援現場の実感と乖離した統計データがひとり歩きしたままでは、適切な支援や政策も、本人たちが望むライフデザインも描けません。それぞれのひきこもる心理や事情に、当事者団体である私たちならではの想像力をはたらかせ、敬意をもって聞き取りをすること。それを回答者一人ひとりの目線に立って、ていねいに読み解き、伝えていくこと。あらためてそこから始めたいと思いました。
たとえば私たちが実施した『女性のひきこもり・生きづらさについての実態調査2017』で寄せられた369名の切実な声は多くの人に共有され、これまで可視化されてこなかったひきこもり女性・主婦の当事者の認知拡大や、開催100回以上・参加者数のべ4,000名以上におよぶ「ひきこもりUX女子会」の取り組み等に活かされています。
当事者視点で声をあつめ、世の中に伝え、本人や現場に還元する循環が可能だと感じた私たちは、さらに「ひきこもり」の多様さやリアルな実情を明らかにすることを目的に、「ひきこもり・生きづらさについての実態調査2019」を実施しました。年齢や性別を問わずにおこなった調査には、6歳から85歳、北海道から沖縄まで全都道府県から1,686名もの方が回答してくださいました。回答者の数もさることながら、自由記述には計46万字におよぶ膨大な声が寄せられ、一人ひとりの思いに圧倒されることとなりました。このボリュームと熱量に衝き動かされ、単純集計の報告書だけではなく、より詳細にその姿や状況を伝えるためにさらなる精査と論考、自由記述を加え、ここに『ひきこもり白書』として結実いたしました。

今回の調査は、ひきこもり・生きづらさ当事者の実態を数量的に明らかにするというだけでなく、当事者の思いが積もった質的なデータを同時に分析したという点で大いに意義のあるものだと考えています。その思いから、本書では、当事者・経験者が置かれている状況、苦悩や思い、支援への要望など、自由記述に書かれた生の声をできる限り掲載しました。当事者たちの切実かつ真剣な声をぜひ受け止めていただければと思います。
ひきこもりUX会議は、ひきこもりをはじめ、さまざまな背景に起因する「生きづらさ」のすべてを「Unique eXpeience(ユニーク・エクスペリエンス=固有の体験)」と捉えています。個々人の持つ「UX」は、それを他者と共有し合うことで一人で抱えていたときと違った価値を帯び、本人や誰かの生き方をポジティブに変えてくれたり、こわばっていた思いや考え方をやさしく氷解させてくれるものです。今回寄せられた多くの「UX」を、ひきこもり・生きづらさの当事者・経験者の理解に役立て、当事者の声を反映した支援の構築や、社会のインクルーシブデザインに活用されることを願っています。
なお、当団体が調査事業を手掛ける契機となった「ひきこもりUX女子会全国キャラバン」(2017年度・2018年度)、2017年・2019年の実態調査および本書の制作企画の取り組みは、すべて公益財団法人日本財団の助成事業としておこないました。活動にお力添えをいただいたことに深く感謝申し上げます。

2021年6月
一般社団法人ひきこもりUX会議

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