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土曜日だけ


突き刺すような日差しのなか、西武池袋線西所沢駅の改札を出て2分ほど歩く。目当ての場所を通り過ぎてしまったようで、一度振り返ってみると、「Saturday Books」の文字が見えた。

中に入ると、決して広いとは言えない空間の中にいくつかの書棚と古本、中央にはテーブルがあり、男性客2人が談笑していた。炭酸飲料が入っていたであろう容器がなんとも涼しげである。

書棚を見てみると、まずハンナ・アーレントの『人間の条件』が目に入る。他にも村上春樹や森見登美彦の小説、岩波新書、地域復興に関する書籍、ハーバーマスの『公共性の構造転換』など、決して品揃えが豊富とは言えないながらも、興味深い品品が並ぶ。

店主の方にいくつか質問をしてみたところ、店名の通り土曜日のみの営業で、スペースはこのままで定期的に書棚の中身を入れ替えて変化を持たせたいとのこと。また、店主の方は西所沢に限らず埼玉西武の地域おこし的な活動に関わっていらっしゃるそうだ。

本好き、本屋好きの私は、1冊も購入せずに出るわけにはいかないと思い、あれこれと悩んだ結果、かねてから愛読しているエンタメ系ノンフィクション作家高野秀行の、『イスラム飲酒紀行』を手に取った。

高野氏の著作と言えば、なんと言っても旅をする中で出会う人々との会話が魅力的であり、その中心にはいつも「酒」の存在がある。そういった意味では、氏の真骨頂とも言えるような作品かもしれない。

旅、人々との出会い、会話の中心に「酒」がある生活。感染症の蔓延により、これらのものを恋しく思う日々が続いている。いつの日か必ず…。しばらくは良き本との出会いを大切にし、本の中で旅をしよう。酒はまぁ…1人でも飲むか…。

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