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『宝石の国』覚え書き

キャラクターたちを彼女らとか彼らとかどう呼んだら良いのかわからないので、“宝石たち“と呼ぶことにする。

宝石たちには生や死が無い。無機物に極小の微生物が宿り動きがあるし喋るけれど。
宝石たちには順って性や生殖が無い。腰付や細長い脚や肢体の線や表情はセクシーだけれどセクシャルでは無い(そこに萌える人がいるのは認めるが)。セクシーな線の中身はとても硬そうに確かに視える。人間のようにブヨブヨとした脂肪はこれぽちも感じさせ無い。胸も無い。無性を感じさせるフォルムで、一見すると女性のようだけれど、宝石たちが自分たちを呼ぶときはぼくや彼か俺である。
宝石たちには堆積した時間がある。積もり積もった長い時が、凝縮されたり形取った独自の結晶化された耀きや記憶がただそこには在る。死がなく老成や腐敗が無い。時間に研磨され消えていくのみである。鉱物生命体は無にかえる。無。

宝石たちの居る世界は謎に満ちていて、箱庭や舞台として綴じられているその綻びを、フォスフォフィライトは少しづつ開けていこうとする。それは、かつて閉じられた骨・肉・魂の三位の分離の世界を再度統合し拡張する試みである。宝石たちにとってそれは真の何かの回復のための行為であるのかはわからない。しかし、読者や視聴者にとっては記憶の奥の微かに憶えている一瞬の瞬きを、再度紙面や画面を通して顧みる試みでもある。人生や命は短い。けれど、宝石たちの耀きはそれを超えてしまうし、そこに絶え間ない魔性と生物とは異なる時間の流れがある。

宝石たちを研磨したり砕いたりするメカニカルな律動、それらの矢のような閃光を愛おしむ欲望や憎しみ。遠い時間と近い時間。月。人。夜の白い輪郭線としての反転。人工ダイヤモンドと真珠。人間不在の地点からの耀ける骨としてのサウンド。祈。

「私達と有り様は異なれど 貝殻も宝石のひとつ」
市川春子『宝石の国』第二巻、より

右雨烏卯 uuuu『宝石の国』
https://cucuruss.bandcamp.com/album/--2

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