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浜野まゆみ展@日々

2月27日から3月4日まで銀座の日々で開かれていた浜野まゆみさんの個展に行ってきました。

うつわの世界にも何人かの売れっ子がいますが、浜野さんは、まさに今飛ぶ鳥を落とす勢いの大人気作家です。
今回の個展でも初日の開店から多くのお客さんが詰めかけ、最初の30分で半分ほどは売れてしまっていました。

2009年から5年近くお休みをされ、昨年桃居で行われた個展で本格的にカムバックされた浜野さん。その時の搬入の時には「こんなに売れるでしょうか・・・」と不安を隠せない様子だったそうですが、結果的に大成功といえる復活展となりました。

今回の展示も、3日目には下の写真のようにかなりスペースが空くほど、そして最終日には売約済みだけが残っている状態に近くなるほど、大勢の方が来て買われていきました。

常に人に囲まれ、ご自分の作品の説明を丁寧に楽しそうに話されていた浜野さん。そのお話の中でも、中心だった話題は「糸切」という作品の成形の仕方でした。これは古い限られた時代の伊万里焼で使われていた手法で、浜野さんがすっかりはまっている方法です。どれだけはまっているかは、パノラマ座談会に詳しいです。

陶芸界で糸切というと、茶器の製作で轆轤から底を切り取ること、あるいはその跡のことを指す事が多いですが、古伊万里の糸切は、薄い磁土の板を作り、板同士を貼り合わせて作るという成形方法を指します。貼り合わせた後に余分な部分を糸で切っていくので糸切と呼ばれたといいます。
つまり、一般の陶芸用語でいう「たたら」と似たやり方です。しかし糸切では型を使い複雑な形を作ります。轆轤で円形にひいた器形を型に当て嵌める「型打ち」も型を使いますが、板を貼り合わせていく糸切は、それよりも遥かに手間のかかる技法です。

高台もやはり板状のを底に付けて作ります。轆轤での削り出しでないため、高台も複雑な形にすることができます。
今回の個展では、その高台に注目して作品を拝見しました。

この六角皿の高台はこうなっています。

皿の形に合わせた六角形になっています。

そしてお気づきでしょうか?この高台のもう一つの特徴。

それは、高台が中心に向かって斜めに傾いているのです。これも糸切の特徴だそうです。もしかすると糸切でもまっすぐなものがあるかもしれませんが、浜野さんが好きな時代の古伊万里の糸切のものはこうなっているそうです。

こちらの高台はこうです。

やはり斜めになっています。紋様もあって手が込んでいますね。

この小鉢の高台も・・・

では、人気だったこちらのお皿。

これは、轆轤で挽いたうつわですが、高台はどうでしょうか。

これも斜めになってます。
ふつう轆轤で胴をひいた碗は、轆轤で高台を削り出しますが、浜野さんのこのお皿は斜めに削り出したのでしょうか?
それとも高台だけ糸切で付けたのでしょうか?もともとは直角に付いていた高台の角を釉薬が埋めて斜めに見えるのでしょうか?個人的には斜めに高台脇を削っているのだと推測します。浜野さんに次お会いしたら聞いてみたいポイントです。

ところで、そもそもなぜ糸切は傾いた高台を付けているのでしょうか。実は、糸切は手間がかかるゆえに産地の有田では断絶してしまっていたそうです。そのためなぜ斜めなのかは、歴史的な経緯なのか技術的な問題のためか、あるいは実用上の利点のためなのか、それは推測していくしかありません。

そんな時、実際に糸切の作品を復活させたといっても過言ではない浜野さんなら、確信する理由をお持ちかもしれません。少し伺いましたが、そして個人的にも思うところですが、おそらく一番の理由は・・・

それはぜひ浜野さんの作品に触れて感じたり、観察して考えてみたりしてみてください。

同じ種類の浜野さんの作品でも、一点一点、細かいところが異なっています。じっくり触れて見てを繰り返した上で、これがほしいと思って選んだうつわこそ日常で使いたいうつわ。その細かい違いにこだわってお気に入りを選んでみましょう。それが手間暇かかった浜野さんのうつわであれば、なおさら一生のものになるはずです。


日々の次回の展示は3月13日からの「加藤委作品展」です。



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