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8月の東京国立博物館(本館)

上野の東京国立博物館、通称トーハク(東博)の本館は日本文化に沿って文物が紹介されています。

日本文化の代表とされる茶の湯(茶道)に関する物として、千利休が陶工・長次郎に作らせた楽茶碗がありますが、今の期間は長次郎作とされる東博蔵の「尼寺」が展示されています。

見込(内側)の底部は、釉薬が定着しなかったのか、あるいは茶渋が長年蓄積したのか、土色になっていました。漆で継いだようなキズも見えます。

こちらは長次郎に始まる樂家の2代目・常慶による香炉。

樂家代々の中でも常慶の白釉は特徴的で、香炉釉とも呼ばれます。その釉が使われた代表的な作品として有名な香炉です。
また、東博の敷地内(もともと徳川将軍家の北の菩提寺だった寛永寺の寺内)から1994年にこの香炉とほぼ同じ形の香炉が出土し、出土品が頭部を欠いているのに対して、こちらは完品であることから資料としても貴重で歴史的な美術品です。

こちらは近江・信楽で作られたとされる「袋形水指」。千利休らが信楽の種壺などを水指として見立てて用いたのと違い、これは当初から水指として作られたそうで、たしかにこの造形は江戸初期の茶の湯で使われるのを意図して作られた感じがします。
焼き締めの器胎に対して、赤絵の華やかな蓋が付いているのも珍しく、その発想にも破天荒さが表れています。

こちらは本館2階の茶の湯にフォーカスした部屋です。現在は独立ケースに天目茶碗が飾られています。

金属光沢が流れ落ちる模様が稲穂のようであることから禾目天目(のぎめてんもく)、あるいは兎の毛のようであることから兎毫盞(とごうさん)と呼ばれる種類の茶碗です。これはその模様がきれいに出ている逸品だと思います。

こちらは「楼閣山水蒔絵料紙硯箱」。5代将軍綱吉の頃から作られた豪華で技巧的な様式を指す「常憲院時代物」の典型例とのことです。

ライトで照らされていた部分をアップして撮ってみました。数センチ四方の中に、どうやって作られたのか分からないほどの細かい装飾が施されています。

このブログで表示されるサイズが限定されているので一部を拡大してみました。これくらいの手の込みようが箱全体にかけられていると思うと、作り手の人生全体が込められていると思えて圧倒されます。

こちらは重要文化財「金銅火焔宝珠形舎利容器」。鎌倉時代の作ですが、仏具を組み合わせた形態は、近代的コンポジションの手法を思わせ、造形美だけなく当時の人の美術センスと情熱についての思考を刺激されます。

こちらは器からは離れますが、超絶技巧の流れで載せました。19世紀の江戸時代に作られた刀の小柄(こづか)で、水草図をあしらっています。この全体の長さは5、6cm程度だったと思います。

その狭い面に手業でこれだけ金属加工をしているのは世界にもなかなかないか、技術が極まり、かつ職人が政権からの注文で製作できた江戸中期から明治にかけての日本くらいでないでしょうか。

この日の夕方は夏休みの終わりを告げるような風情があり、後から振り返るとちょうど朝夕に肌寒さを感じるようになった日でもあり、夏と秋の分水嶺でした。

秋は一年でもうつわのイベントが一番多い時期です。9月になると作家さんの個展などが目白押し、楽しみでもあり巡るイベントを選ぶのが悩ましくもある季節になります。

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