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下岡由枝 作品展@日々

うつわの秋へいよいよ入りました。その季節に相応しい暖かみのあるうつわが集まる個展が先週から銀座・日々で始まっています。
作り手は福岡県の宗像(むなかた)で作陶されている下岡由枝(しもおかよしえ)さん。

今回が東京での初個展となりますが、独特の土のテクスチャと、飽きのこないベースとなる形に丁寧な変化を加えた造形には、数多い普段使いのうつわの作り手の中でも一段と光るセンスが表れていて、これから関東でも人気を呼んでもおかしくない程です。

その下岡さんの作品のテクスチャと造形を楽しむことができるのがポット。今展では多くのポットが揃いました。

ザラッとした手触りの表面、丁寧に一筋ずつ削られた鎬、潔い削りが加えられた把手、水切れのいい注ぎ口、アクセントになる色違いの蓋のつまみ。味わいと見どころが満載で、少しずつ違った個性のあるティーポットたちです。

下岡さんはティーポット以外の蓋物も多く作られてます。その中でも一番造形が凝っていたのが下のポットです。

わずかに非対称となった外し具合、ふっくらとした全体とは相反するようなシャープな線模様。その特徴はひと目で強い印象を与えます。一方で、摘みやすいつまみ、挟みやすく安定した持ち方ができる突起は、使い勝手を両立させています。

他の作品でもそうですが、装飾的造形と使い勝手、硬派さと可愛さ、特徴的でありながら嫌味がない、そういったバランスの難しい二極要素がぎりぎりと言えるほどの絶妙さで併存しています。下岡さんの稀有なセンスがなければ生まれなかったうつわでしょう。

上のはより造形を強調した作品になっています。黒・白・黒のグラデーションや、口に入る蓋の長さは計算され尽くしたかのようです。上部のダイヤ型の部分は取り外すことができます。

末広がりの底部は、シャープさを感じるラインで削られていますが、じっくり見ても「どうなっているのだろう?」と思ってしまうような、不思議に掴みどころがない雰囲気も持っています。オブジェとして置くと独特の存在感があります。

一方で、他の作品と同様に使い勝手も考えられていて、蓋を取れば重心の安定した花入としても使えます。

オブジェとして一番大きかったのがこちらの作品です。崩壊を免れた古い城壁や古塔の躯体のようです。

質感とバランスの良さについては上でも触れましたが、下岡さんの作品は、それぞれに手間暇が惜しげも無くかけられているのも特徴といえます。この壁面も、板を丸めたように見えますが、言われてみると分かるように、タイル状の土片を繋ぎあわせて積み重ねて作られています。そうやって手間をかけることでようやく出来るのが下岡さんの作品の味であり、手作業によって込められる精神的なものが安定感と不思議さのある雰囲気に現れるのかもしれません。

より小さいオブジェが集まった場所です。

今回の下岡さんの個展では、食器も多数出品されています。下岡さんはもともと食器で定評がある方なので、どれも使い勝手がよさそうです。そして、しみじみと分かる飽きのこない魅力も持っていると思いました。

どのうつわも下岡さんらしいアクセントがあったり形だったりします。これは小さめの湯呑で、下のは抹茶碗です。

どれも下岡さんが土と焼きによって生み出すザラッとした質感の魅力があります。食器類は、内側が釉薬でコーティングされています。そして、繰り返しになりますが、下岡さんのうつわは使いやすさが考えられた上で、自然さを保ちながら、印象を強める造形が加えられているのが特徴的です。

下岡さんの作品を初めて手にしたのは5年前の間・Kosumiででした。その時にも上のような乗り物のミニオブジェがありました。下岡さんのことをこのシリーズで知っている人も多いのではないでしょうか。それほどに見たら忘れられない、ある意味下岡さんを代表する他にはない作品たちです。
ちなみに顔のついた曲がったものは「ねこバス」と名付けられている人気者です。

下岡さんの作品は歪みのない正確な形の良さがベースにあります。そこに削りなどで男性的ともいえる印象の強い装飾が加えられたものが多いのですが、それが自然さを損なわないぎりぎりのところで止められています。
その結果でしょう、周りから浮かないような自然さを持ちながら存在感もある雰囲気を湛えます。さらに不思議なことに、強い装飾であっても(そうでなくても)、家で見ると女性的な柔らかく可愛らしいうつわとなります。

硬派であり、不思議さがあり、可愛らしさもある。それは下岡さんの人となりを表す言葉ともいえます。集中してじっくり作品を見て触れるていると、作品を通じて作り手のことを感じることができる、そんな見えないトンネルを行き来するような体験に触れます。

主に西日本で展示をされている下岡さん。東京での個展が今回ようやく開かれました。ザラッとしつつ手触りのいい質感はもとより、造形の良さを画像でまったく表すことができないために載せられなかった作品もあります。どのうつわも使い勝手も間違いないですし、ぜひ実物に触れて味わってみてください。

下岡由枝作品展は9月20日(日)まで開かれています。
下岡さんのブログはこちら。日々での次の展示は9月25日からの吉田佳道展(竹工)です。

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