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長谷川奈津 陶展@桃居

西麻布の桃居で開かれている長谷川奈津(はせがわなつ)さんの個展へ行ってきました。
2年ぶりの桃居、2年前と同じように上野雄次さんによる花いけがされていました。

花器・片口・湯呑・猪口・皿・鉢、小壺、振出そして茶碗。

長谷川さんのあらゆる種類のうつわが揃っていました。数量も多く充実の個展です。

そして釉薬と土の組み合わせも現在の長谷川さんが手がけるすべてでないでしょうか、10種類ほどパターンがありました。

長谷川さんの個展で最多と呼べるバリエーションの今回ですが、DMには次の言葉を載せていました。

筒型の碗が面白く、
そればかりつくっています。

すくっと立つ美しい立体になってほしい、
と取り組んでいます。

こう書かれたように筒茶碗に力を入れた今展、初日に大・中・小さまざまに大量搬入されたそうです。15碗はあったと思いますが、茶碗というだけあって力作揃いでした。

その中で、DMの写真に使われたのが下の筒茶碗。

個人的にこの碗に一番魅力を感じました。
凹凸のある表面にピンクの発色。筒型の広い胴一面に、独特の色の変化が展開されています。可憐な表情もありながら、おとなしすぎず、どっしりとした安定感もある、不思議な味わいの碗です。

なにより、今回集まった中でこの筒茶碗の高台(底のすぼまった部分)が一番様になっていました。長谷川さんの筒の碗は高台が低いですが、この茶碗は色や質感、そして雰囲気、どれも高台の低さに合っていたと思います。高台に魅力があることで茶碗としても一番の出来だと感じました。

高台自体は釉薬でほとんど隠れ、底の部分だけが見えています。
白基調の釉薬の中に浮かび上がる黒い正円。古代遺跡に通じるような、神話性を湛える造形の妙です。

この茶碗の質感は、長谷川さんのトレードマーク的なもので、大物の花器でも使われています。

花器も釉薬のバリエーションがあり、白い系統のものだけでも何点もの作品がありました。

黒い花器もありましたし、ちょっと変わった景色が浮かんだ花器もありました。
思い出してみても相当な充実ぶりです。

下のは黒い鉄釉でかかった小壺に蓋をした、いわゆる振出として作られた小作品です。

その他、お皿や鉢もこのように数多く揃っています。

これだけあれば一番自分に合うものが見つかることでしょう。長く使える皿・鉢をほしいと思っている人にとっても見逃せない展示です。

数が多いので見応えもありますし、どれを選んでも間違いない長谷川さんの作品ですが、やはり定番のうつわとしては粉引のものでしょうか。今回も数が一番多かったです。

特に、この筒型の湯呑。端正でありながら柔らかな雰囲気を醸し出しているのが長谷川さん自身を表したかのような粉引ですが、今回感じ入ったのは、その手触り。手に持った瞬間、心地良いものに触れたという感覚が手のひらから伝わってきます。
マットすぎず硝子っぽくもならない、しっとりした手触りが絶妙です。今回はいろいろ調整を変えつつ粉引を焼かれたそうですが、この湯呑を焼いた回が一番最後だったそうです。

うつわ表面の質感は、口を付けた時に一番違いを感じ、流れて入ってくる味も変えます。この粉引のしっとり感は、ちょうど人肌のようで、味も一番美味しく感じることができます。
古来名碗とされてきた茶碗の中でも美味しくお茶が飲めるのは、そんな肌合いのものだと聞いたこともあります。今回の筒湯呑は個人的に今回の展示ならではの「買い」なうつわだと思います。

碗以外にも、鉢や飯碗にも粉引のものがありますし、しかもかなり魅力的な焼き上がりになっていると思います。
長谷川さんの今展は6月23日(火)まで。豊かなバリエーションをぜひ見にいって手触りも確かめてみてください。

桃居では人気作家の個展が続きます。次回は6月26日からの尾形アツシ陶展です。


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