ノンステップからフルフラットへ【東京のりもの散歩~いちょうマークの車窓から15】
一昔前の都バスと言えば出入り口に段差のある車両が当たり前であり、高齢者や障害を持った方にとって、バスとは必ずしも利用しやすい乗り物であるとは言い難かった。
交通局として初となる出入り口に段差のないバス、いわゆるノンステップバスが営業運行を開始したのは1997年のことである。2013年度までにすべての路線車のノンステップ化が完了したが、その後もさらなるバリアフリーを目指して挑戦は続いている。東京都が16年12月に策定した「都民ファーストでつくる『新しい東京』~2020年に向けた実行プラン~」には、「車両について後方の通路段差を解消したフルフラットバスの導入を検討する」とある。ノンステップバスは出入り口の段差こそ解消されているものの、後方の床下にエンジンを積んでいるためどうしても車内に段差ができてしまい、お体の不自由なお客様が後方に移動しにくいという難点があった。
ノンステップバスのさらに上を行くバリアフリーとはどのようなものなのか……。その答えの一つがフルフラットバスの導入であった。フルフラットバスの定義として都は「通路の段差解消に加え、傾斜をバリアフリー法及び関連条例で定める建築物の傾斜路の基準20分の1(約2.9度)以下に抑えた大型路線バス」としている。
そして18年12月、巣鴨営業所の1台を皮切りに、フルフラットバスは華々しくデビューした。従来は車両後輪付近の床下にあったエンジンを車両の最後列座席のさらに後ろに配置することにより、段差を解消している。国産ではなく外国製で、これまでの都バスのイメージをくつがえす斬新なデザインとなったこともあり、大々的に報道されたのは記憶に新しい。
フルフラットバスの導入は『2020年に向けた実行プラン』にかかる事業であり、「東京2020大会とその先を見据え、誰もが利用しやすい新たな路線バスのモデルを先導的に構築し、東京から全国へ発信していく」取り組みなのだという。そういえば、長野1998パラリンピック冬季競技大会の際にも、当時は先進的だった都バスのノンステップバス15台が長野に貸し出され、関係者輸送に使用されていた。
社会的に影響の大きな行事を契機としてバリアフリーに注目が集まり、実際に整備されるのは、交通インフラ事業に従事する者としては喜ばしいことである。そして、図らずも都バスに外国製の車が来たことに、個人的には密かにわくわくしている。
※都政新報(2019年9月3日号) 都政新報社の許可を得て転載