見出し画像

運転席で笑顔を放つ【東京のりもの散歩~いちょうマークの車窓から18】

画像1

「都電おもいで広場」の休場期間が延長になりました。詳しくは下記のリンクをご覧ください。
都電荒川線のニュース【お知らせ】2020年4月9日 東京都交通局 新型コロナウイルス感染症への対応に伴う施設の臨時休場について

 都電荒川線の荒川車庫前で降りると、荒川電車営業所に隣接する「都電おもいで広場」が見えてくる。開場しているのは、年末年始を除く土曜・日曜、祝日のみだが、ここでは、昭和時代に活躍した2両の車両を間近に見て、車内に入ることもできる。
 展示されているのは、7504号車と5501号車。7504号車は、昭和37年に製造された車両で、平成13年に引退するまでの数年間は朝の通学時間帯に限定した運用をしたことから、「学園号」として親しまれた。車体には、ワンマン運転用に更新されたことを示す青帯がデザインされている。こう書いてみて気がついたが、昭和時代ではなく、平成初期にもかかっていた。時の流れは、あまりにも早い。
 5501号車は、PCCカーと呼ばれている。1920年代に発足したアメリカの路面電車委員会(Presidents' Conference Committe)が開発した技術の特許に基づいて日本で製造され、昭和29年から42年まで運行した。純正PCCカーと呼ばれるものは日本で5501号車のみで、同じ5500形車両でもそれ以外のものは和製PCCカーと呼ばれている。当時の最新技術で作られていただけあって防振防音には優れていたものの、通常は手で行う運転操作が自動車のように両足で行う構造になっているなど、運転士泣かせだったようである。5501号車について調べ始めると、唯一無二の車両なだけあって大変面白いので、興味のある方は調べてみてほしい。車体には、ツーマン車両を示すえんじ色、いわゆる赤帯が描かれている。車内には、懐かしい風景のジオラマ、都電に関する書籍などが配置され、東京のど真ん中を都電が走っていた頃の映像も上映されていた。都電最大サイズの車両の空間が、資料館として生かされていると感じた。
 5501号車の運転席では「とあらん」(都電荒川線のマスコットキャラクター)が微笑んでいる。PCCカーとも銀座とも関わりのないキャラクターだが、見ていて癒やされる。都電おもいで広場の魅力を伝えようと意気込んで足を運んでみたものの、その後、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から、3月いっぱいは臨時休場することが決定した。これを書いている時点で、4月以降の再開は未定である。運転席で笑顔を放つ「とあらん」に気軽に会いに行けるよう、事態の穏やかな収束を、今は祈るしかない。

※都政新報 2020年4月7日付 都政新報社の許可を得て掲載