吊り橋を渡って交通局へ【東京のりもの散歩~いちょうマークの車窓から25】
新緑の土曜日。新宿からJR中央線と青梅線に2時間近く揺られ、無人駅である鳩ノ巣に到着。トレッキングウェアに身を包んだ人々を見送ると、ホームには静寂が訪れた。「ここも新宿と同じ東京なのだ」と不思議な感覚を覚えつつ駅からの坂道を下り、車の往来に注意して青梅街道を渡る。「はとのす荘」の脇を通って多摩川の方へと向かうと、「いちどに5名以上で乗らないでください」と書かれた吊り橋、鳩ノ巣小橋が見えてくる。
吊り橋の先、鳩ノ巣渓谷遊歩道は大多摩ウォーキングトレイルの一部として整備され、多摩川の風景を楽しみつつ、巨岩・奇岩の上を散策することができる。川面を右手に遊歩道を白丸方面に歩いて行くのだが、整備されているとはいえ、舗装道路とは異なり勾配や段差があるので慎重に進むことが肝要である。この点は、まるで人生のよう。
しばらく歩くと、本日の目的地、白丸調整池ダムが見えてくる。交通局の運営する三つの水力発電所のうち、白丸発電所に隣接するダムである。交通事業者が発電所を運営する例は珍しく、三つの発電所で作られる電力の最大出力合計は、1年間に一般家庭3万5千世帯の使用量に相当するという。発電した電気は入札により決定した都内に電気を供給する電気事業者に売却するほか、都バスの全営業所で使用する電気の一部としても供給されている。
見たかったのは、魚道。魚道とは、ダムでせき止められた川を魚が遡上しやすいよう整備した魚のための迂回路で、日本に存在する約3千のダムのうち、魚道のあるダムは30ほどだという。白丸調整池ダムの魚道は日本最大級であり、4月から11月の土日と夏休み期間、誰でも見学ができるのだ。見学コースは、プレハブの管理棟かららせん階段で下りていく構造になっていて、階段自体も美しい。
魚道は、コの字型の隔壁が特徴的なアイスハーバー型と、縦に並べた隔壁に魚の通る穴をあけた潜孔式を組み合わせたものとなっており、いずれも魚が適度に休憩しながら遡上できる仕組みとなっている。
土木の専門家ではないので私の説明で魚道の概要が伝わったか不安であるが、「交通局が特徴的な施設を有した発電所を運営しており、日程は限定されるが施設の一部を見学できる」事実は伝わったとは思う。興味を持たれた方は、吊り橋を渡って交通局へ。
都政新報(2021年6月8日号) 都政新報社の許可を得て転載
【参考資料】
・ツウになる! ダムの教本(宮島咲 秀和システム 2018)
・白丸ダム魚道 公式配布資料(東京都西多摩建設事務所工事第二課)
・東京都交通局公式サイト(電気事業)
https://www.kotsu.metro.tokyo.jp/other/hatsuden/