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『未来の想い出』に会いに行く。【東京のりもの散歩~いちょうマークの車窓から2】

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<都営12号線試作車(12-001)>
豊島区立千早フラワー公園で静態保存されている「都営地下鉄12号線(現・都営大江戸線)試作車」1号車(12-001)。模擬ホームを挟んで隣に設置されている2号車(12-002)とともに、静かな時を過ごす。

 東京メトロ要町駅、または西武鉄道椎名町駅から歩いて8分ほど。豊島区立千早フラワー公園は閑静な住宅地にある。
 童話の世界に登場するような城をイメージしているのか、国旗を連想させる装飾をてっぺんにほどこしたミニアスレチックや、鉄棒、ブランコなどの遊具が配置されており、晴れた日曜日の昼下がりなどには、家族連れで大変なにぎわいを見せる。一見すると、ごく普通の区立公園だが、ここでは都営交通にゆかりの深い、ある記念物に接することができるのである。
 公園の片隅にはフェンスで仕切られた区画があり、日中に一般開放されている。そこに足を踏み入れると、駅のプラットホームを模したコンクリートの両側に、どこか懐かしい外観のステンレス製電車が1両ずつ停まっている。「都営地下鉄12号線試作車」である。
 2000年12月12日に全線が開通した都営大江戸線は、1991年の12月10日に練馬~光が丘間で営業を開始した当初、都営12号線と呼ばれていた。00年4月20日に新宿~国立競技場間が開通した際、都営大江戸線という現在の名称になった。試作車1号車(12-001)と2号車(12-002)は都営浅草線の馬込検車場(当時)などでの各種試験の後、交通局から豊島区に無償譲渡され、91年1月に千早フラワー公園に設置されたとのことである。
 お気づきだろうか。千早フラワー公園の試作車は、最初の練馬~光が丘間が開業する1年近く前にはすべての任務を完遂し、現在の場所にやってきた。宿命といえばそれまでだが、開業を待つことなく記念碑的な存在と化したのである。
 やがて訪れる未来のために開発され、未来が現実になるより以前に、役割を卒業する。
 晴れた日曜日の昼下がり。「都営地下鉄12号線試作車」1号車の座席に座り、物思いにふける(2号車は自治会の集会所的な使われ方をされており、通常は施錠されているものの、1号車には誰でも自由に乗車できる)。
 その時、私の脳裏に浮かんだ言葉は「未来の想い出」だった。未来の象徴であったにもかかわらず、数十年の時をへて、既に懐かしい。『未来の想い出』は藤子・F・不二雄のSF漫画の題名である。
 なお、同作品の内容は、公園とも都営大江戸線とも無関係である。あくまでもイメージの話であるので、あしからず。

都政新報(2017年6月13日号) 都政新報社の許可を得て転載