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「地勢」の話

 これはペンシルパズルI Advent Calendar 2022の四日目の記事です。

 お世話になっております。utimeです。

0. はじめに

 今年はLINE謎を作ってみたりコンテストを開催してみたりと、パズル活動が充実した1年間でした。どちらを記事にしようか迷いましたが、決められなかったので今年も自作パズルの解説記事にします。

目次:
1. 自作Tapa解説
2. 「地勢」の話
3. 終わりに

1. 自作Tapa解説

 早速問題をどうぞ。

 以下解答です。ご注意ください。




 例によって理詰めがあるわけですが、まずはその理詰めに必要な補題から示していきます。

補題1:
 
球面上の、端点を持たない連結グラフの頂点と辺(頂点を含まない)を連結になるように選び赤く着色した時、少なくともある2面が存在してその面に含まれる着色された頂点と辺が連結であることを示せ。

 例えば下の画像では、V0V1V6とV2V3V4が連結になってます。どのようなグラフをどのように着色してもそうなるのでしょうか?

球面上というのはグラフ外部も面とみなすという意味

補題1の証明:
 
まず、各辺の上に1つずつ頂点をとることで、次の補題に帰着できる。

補題2:
 
球面上の、端点を持たない連結グラフの頂点を連結になるように選び赤く着色した時、少なくともある2面が存在してその面に含まれる着色された頂点が連結であることを示せ。




 こちらでいう「連結」はグラフ的な意味で、辺と赤い頂点だけを通れば赤い頂点同士互いに行き来できることを指します。似たような見た目の問題に見えますが、こちらは条件を整理すれば自然と解けます。


補題2の証明:
 
各面について、その面に含まれる赤い頂点のうち連結である成分の個数を「連結度」と呼ぶことにする。
 f(V)で頂点Vの出次数(伸びている辺の数)を表すこととする。最初に頂点V1を赤くしたとき、各面の連結度の総和はf(V1)となる。

連結度の総和は3

 赤く塗られた頂点が連結である状態から、赤く塗られた頂点が連結になるように頂点を1つ選び(Viとする)赤くすると、Viと別の赤い頂点を結ぶ辺が少なくとも1つはあり、これを辺とする面については連結度が増えないため、連結度の総和は最大f(Vi)-2増える。

左ではV0の出次数が4なので、V0を赤く塗った瞬間に連結度の総和が2増えて5になる

 したがって、グラフの頂点をV1...Vnとすると連結度の総和の最大値は
2+Σ(i=1…n) (f(Vi)-2)
である。
 一方辺の本数はΣ(i=1…n) f(Vi)/2であるため、オイラーの多面体定理より面の個数は
2-頂点数+辺数
=2-n+Σ(i=1…n) f(Vi)/2
である。
 面数の2倍は
4-2n+Σ(i=1…n) f(Vi)
であり、連結度の総和の最大値より2大きい。
 今更だが、連結度が0である面が存在する場合は、その面に含まれる頂点を取り除き、赤い頂点が含まれる連結成分について着目すればより小さいグラフに帰着できるので、すべての面の連結度は1以上であるとしてよい。したがって鳩ノ巣原理より少なくとも2つの面が存在し連結度が1である、すなわち赤い頂点が連結であることが示された。

 無事示すことができたので、パズルの話に戻ります。

 先ほどのパズルを次のようなグラフだと考えます。

 頂点と辺を赤く塗る操作を、マスを黒く塗る操作と対応させると、補題より、連結である面が少なくとも2つ存在することが分かります。
 はてなやヒントが2個のマスがある面は連結ではないので、連結である面はC4R4のマスがある面とグラフの外部であることが分かります。よって外周の黒マスは連結であり、白マスがアースできる(外部に逃げられる)箇所は1か所のみとなるので、白マスはすべて連結であることがわかりました。

 そして補題2より連結である面がちょうど2つになるためには、出自数3以上の頂点はすべて黒い必要があるので、ここまで確定します。

 あとは、C4R4のマスから、すべての白マスをつなげて外部に逃がすルートを見つけ出せればクリアとなります。

 こんな感じのルートが正解になります。

2. 「地勢」の話

 ヒントの配置が規則的であることを地勢と呼ぶ風潮があるようです(ないかもしれない)。今回の場合はヒントマスが偶数行偶数列目にあること、もう少し正確に言えばそのうちヒント数字の個数が平均2くらいであること、が地勢に該当します。
表出の規則自体はガラケーの時代からあった概念ではありますが。

 地勢自体はただの表出縛りで、実際そういうパズルもあるかとは思いますが、今回みたいに大域制約を帯びる場合があります。今回でいえば、黒連結白連結条件を秘めていました。大域制約が生まれる地勢、あるいはその制約まで含めて地勢と呼ぶ風潮もあるそうです(こちらの使い方のほうが一般的っぽい)。この概念さえ黒電話の時代からあったものではありそうですが。

 今までちょっと新しい感じの大域制約を考えるときに結構難儀してまいりまして、バリアントルールみたいなもので表現することが多かった私ではありましたが、この地勢を使えば既存のルールのまま盛り込みやすそうというのが今更ながら今年の新たな気付きとなりました。

 地勢による大域制約の嬉しさとしては

・バリアントではない
 なんかきれい。とっつきやすい。完全に既存ルールの中で成立させた方が驚きがある。既存ルールに乗っかれる分、「初見のルールだったし...」みたいな言い訳を許さない。

・そこに大域制約があることが目に見える
 ただ表出を縛っただけで大域制約が絡まない可能性もあるのですが、大域制約があるとしたらココ、という意図が解き手にも伝わりやすく、どのような理詰めがあるのか真向勝負がしやすく狙った通りの楽しみ方をしてもらいやすい。

 逆に大域制約を見た目的に分かりやすく盛り込めないと、どのような理詰めか以前に、あるかどうかも分からない理詰めがどこにあるのか手当たり次第に探すステップが生まれてしまったり、理詰めがあるのかよりわかりにくいので初手から仮置き試行錯誤戦略をとられやすかったりします、多分。

 もちろん理詰めの存在を悟られないよう盤面にきれいに盛り込み切ることにも、あるかわからない理詰めを探してみるか否かという駆け引きにも、理詰めがどこにあるのか探すステップにも、理詰め問を試行錯誤で解けることにも、面白さがあると思うのですが、意外な大域制約とその証明パートにオリジナリティが多くそこが売りな問題を作りがちな身なので、理詰めがどこにあるか分かりやすい地勢はそこを際立たせるにはかなり有効な概念だと思いました。

3. 終わりに

よくある質問
Q. 最初から補題2だけあればよかったのでは?

A. 完全にそうです。補題1でめっちゃ悩んだので(多分JMO3番級の難しさはある)皆さんにも考えてもらいたかっただけです。悪いやっちゃ。

Q. Tapa、普通に引いて解けました。
A. 解いていただきありがとうございます。なんなら想定解です。昔は理詰めを見つけないとほぼほぼ解けないというかなり好戦的なパズルを作っていましたが、ハバネロに掲載するわけでもないので、それよりはシンプルさや多くの人に解いてもらえることに振ってます。触っていくうちになんとなく傾向をつかめるパズルもいいですよね。

Q. 地勢の定義がたくさんあったけど、結局地勢の定義ってなんなの?
A. これです。

 こんなところでしょうか。我こそはという地勢パズルを作った方はお知らせください。レッツ地勢ライフ!

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