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ドイツ歌曲の楽しみFreude am Lied*62*

生のコンサートでは“今まさにここで生まれる音楽”を共有していただける喜びがあります。その時間を1曲1曲切り取って“今まさに”のひとかけらでもお届けできたら!とお送りするドイツ歌曲の楽しみ Freude am Lied…

62曲目もツェムリンスキー♬…ひとかけら、届くかな?

アレクサンダー・フォン・ツェムリンスキー Alexander von Zemlinsky (1871-1942)作曲
明けの明星 Der Morgenstern
                 ソプラノ 川田亜希子 ピアノ 松井 理恵

暗い夜 空には
明けの明星が金色に輝いている
すると一人の娘がそれに気付く
そしてかわいい娘は優しくそっと呼びかける
おお おまえをこの手にとることができたなら
天の縁で一番美しい星よ!
私はおまえを宝石にして愛しいあの人の
指輪にはめ込むでしょう
彼が暗い夜 私のところに来るとき
その輝きが彼に微笑みかけるように
彼がここから去って行くときに
夜道が明るくなるように

  オーストリアの詩人ツースナーVincenz Zusner(1803-1874)による。

 満足気なため息のような、ゆったりした揺らぎの前奏に誘われ歌声部が始まります。“Morgenstern明けの明星”、“goldner金色”という言葉に、ゴージャスな和音がピンで留めるように充てられいる印象的な始まりです。夜明けの澄んだ空気を深呼吸するように美しい風景が歌われます。続く間奏は前奏の揺らぎが縮小されて、視点を一人の少女に移すもの。それまでと打って変わってピアノは8分音符主体の刻みで進んでいきます。歌声部の小節の始めの8分休符が少女の軽やかさを表しています。続く間奏は単旋律のシンプルな動き。1小節ですがフェルマータがついていて、たっぷりと少女の独白へのプロローグとなっています。前奏の揺らぎのモチーフが広々響くのは、少女が遠く金星に話しかける距離感。「天の縁で一番美しい星よ!」の呼びかけも、歌声部の4度音程の繰り返しと、ピアノの左手の5度音程の繰り返しで、テヌートで歌われ、少女の金星への憧れの強さが聴いて取れます。そしてここからが、可愛いところ。少女が金星を宝石にしたい理由が語られていきます。その説明ぶりはピアノパートの右手にでてくる8分音符2つの揺らぎの連続で彩られます。彼女のもとに通う恋人の「行き」の道のりと、「帰り」の道のりの心配が歌われています。そして揺らぎが3連符に変化し、“wenn scheidend er von hinnen zieht 彼がここから去って行くときに”に流れ込むと、langsamで急ブレーキをかけて、恋人との別れ際の感情が切々とテヌートで歌われます。詩はここで終わるのですが、ツェムリンスキーは5,6行目の「おお おまえをこの手にとることができたなら 天の縁で一番美しい星よ!」を再び登場させます。2倍に音価を引き伸ばし、たっぷりと歌われるのは少女の独白のエピローグ…。恋人の道中を思いやる優しい娘の歌でした。


✻アレクサンダー・フォン・ツェムリンスキーAlexander von Zemlinsky(1871-1942)✻  
ウィーン生まれの作曲家。両親はユダヤ教。ブラームスがシューマンに見出されたように、ツェムリンスキーはブラームスの有力な後押しに恵まれた。マーラーにも才能を認められ、作曲活動の他、ウィーン、プラハ、ベルリンなどで指揮者として活躍する。またシェーンベルク、エーリヒ・コルンゴルト、そしてマーラーの妻となるアルマ・シントラー等に作曲を教えた優秀な教師でもあった。(ツェムリンスキーとアルマとは恋仲であったが、結局アルマは当時スーパースターであったマーラーを選び1902年に結婚してしまう。)ナチス・ドイツの台頭に伴い1938年にはアメリカに亡命を余儀なくされ、英語の話せないツェムリンスキーは見知らぬ土地で病気がちになり、1942年ニューヨーク州ラーチモントで肺炎のため逝去する。彼の作品は感情に溺れることなく冷静な計算と客観性で組み立てられていて、後期ロマン派を一歩踏み出した知的な作風を示している。
 

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