見出し画像

ドイツ歌曲の楽しみ Freude am Lied㉑

生のコンサートでは“今まさにここで生まれる音楽”を共有していただける喜びがあります。その時間を1曲1曲切り取って“今まさに”のひとかけらでもお届けできたら!とお送りするドイツ歌曲の楽しみ Freude am Lied…

21曲目もメンデルスゾーン♪ …ひとかけら、届くかな?

メンデルスゾーンMendelssohn : もう一つの五月の歌(魔女の歌)                                  Anderes Maienlied (Hexenlied)Op.8-8
               ソプラノ 川田亜希子 ピアノ 松井 理恵

ツバメが飛び
春が勝利し
私たちに花輪のための花をもたらす
間もなく私たちは
こっそり扉から抜け出し
豪華な舞踏会へと飛び立つ

黒い雄山羊
箒の柄
火かき棒に 糸つむぎ棒
それらが私たちを素早くひっさらう
まるで稲光や風のように
轟々いう空をぬけて ブロッケン山へ

ベルゼブブ*の周りで私たちは一団となって踊り
鉤爪のある彼の両手にキスをする
霊の群れが
私たちの腕をつかみ
踊りの中の炎を揺らす

そしてベルゼブブは約束する
一団となって踊る私たちに
山のようなプレゼントを
「絹の衣装を身にまとって
行くがよい
そして壺一杯の金を掘るのだ」

火の竜が
屋根の上を飛び交い
そしてバターと卵を私たちに与える
近所の人たちは吹き出る火花に目を見張り
炎を前に十字を切る

ツバメが飛び
春が勝利し
花が花輪になろうと花開く…
間もなく私たちは
こっそり扉から抜け出す
いざ! 豪華な舞踏会へ

                   *ベルゼブブとは悪魔の頭目のこと

詩はドイツの詩人ヘルティ (Ludwig Heinrich Christoph Hölty 1748-1776) による。一つ前の作品番号Op. 8-7の曲も「五月の歌(Maienlied)」なので、それに続くこの曲の題名を「もう一つの(anderes)五月の歌(Maienlied)」としたと考えられる。

 
 魔女たちが年に一度、ワルプルギスの夜(4月30日から5月1日にかけての一夜)にブロッケン山に集まって饗宴をする様子を歌った曲です。どろろろ~っとおどろおどろしい響きで始まるピアノ前奏は「くまん蜂の飛行(リムスキー=コルサコフ作曲)」ならぬ「魔女の飛行」。「さあ、歌ってごらんなさい!」と歌い手を挑発します。それは歌い手だけでなく、ピアニストも魔女よ!と言わんばかりです。歌い手の魔女の周りには饗宴の合図である春の風景から、飛行中の風切り音、悪魔の頭目のぐるり、ブロッケン山の頂に現れる火の竜などが次々と早口で映し出されます。息つく間もないまま3番に突入すると、突然台風の目の中のような無風の空域に出くわします。わずか数小節ですが、一瞬を引き伸ばしたような、スローモーションで春の景色の中飛行する魔女の絵が挿し込まれています。その効果の素晴らしいこと!その後は最後の“Juchheisa zum prächtigen Tanze!(豪華な舞踏会へヒャッホー!)”という魔女の高笑いめがけて、歌もピアノもモリモリに盛り上がっていきます、1ページ以上も費やして。メンデルスゾーンの歌曲の中で最もドラマティックで楽しい作品です。
 ブロッケン山はドイツ北部のハルツ山脈の一峯。標高1142mと、それほど高い山ではなく、その姿は森が盛り上がった巨大な丘といった感じです。高緯度にあるため山頂は森林限界を超え、荒涼としたハイマツに覆われています。北海からの冷たい気流によって霧が発生しやすく、頂上で太陽を背に立つ人や物の影が前方の霧の壁に映って見える現象(ブロッケン現象)がよく見られます。それは目の前に現れた巨大な妖怪のように思われて、古来から“ブロッケンの妖怪”と恐れられてきたそうです。
 余談ですが…
私の趣味は音楽とは全く関係のないパラグライダーです。飛び始めて今年でちょうど10年。いつか空中で雲に自分の姿が映るブロッケン現象を目にできたらなぁ…と思っています。ちなみに、パラグライダーの世界で、上手なフライヤーを“妖怪さん”と呼んでいます。その中の女性の一人に“魔女子(まじょこ)さん”と呼ばれている人もいます。上の解説を書いていて、ふと共通のキーワードがあるなぁ…、歌もパラグライダーも上手になりたいなぁ…と思ってみました。


 昨年残念ながら開催を諦めたコンサート。そのプログラム全21曲を、録音&Youtubeにアップ、そしてnoteに記事を載せるというミッション!この「魔女の歌」でコンプリートです。まだまだ大変な状況が続いていますが、希望をもってお知らせいたします!2021年10月7日㈭に日暮里サニーホール・コンサートサロンで一年遅れのコンサートを予定しています。生のコンサートで“今まさにここで生まれる音楽”をお届けできますよう、頑張ります!!応援していただけると有難いです!…今度こそ開催できますように…


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?