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ドイツ歌曲の楽しみ Freude am Lied㊻

生のコンサートでは“今まさにここで生まれる音楽”を共有していただける喜びがあります。その時間を1曲1曲切り取って“今まさに”のひとかけらでもお届けできたら!とお送りするドイツ歌曲の楽しみ Freude am Lied…

46曲目もリヒャルト・シュトラウス♬…ひとかけら、届くかな?

リヒャルト・シュトラウス Richard Strauss(1864-1949)作曲
僕たち踊りだしたい気持ちだ Wir beide wollen springen

                 ソプラノ 川田亜希子 ピアノ 松井 理恵

風が野原を吹き抜けていった
くちびるとくちびるの間を
つないだ手と手の間を吹き抜けていった
それはまるで一つの歌のようだった
きみと僕とを一つに吹き寄せた
そして風が静かにやむと…
僕たち踊りだしたい気持ちだ

ドイツの作家オットー・ユリウス・ビーアバウムOtto Julius Bierbaum(1865-1910)の詩による。

「春一番」の風を歌にしたような曲です。風は「一つの風“ein Wind”」とあるように一吹きです。ピアノの最初のアルペジオにはっきり聴こえますね。続くピアノの風の描写はそれに伴う大小のダストデビル(塵旋風)です。吹きっぱなしでなく、吹き戻しが三拍目の弾んだ下降形に見られます。歌声部は風神さまのように頬を膨らませて息を吹き付けるように歌われます。物凄いエネルギーです。風はキスをしていた恋人の間を吹き抜けて、巡り巡って今度は二人をぎゅうっと「一つに吹き寄せた“zusammgeweht”」のです。甘い沈黙の後、喜びが湧きおこってきます。じっとしていてもついつい身体がワクワクリズムをとって小躍りしたくなるあの感覚です!ピアノのキャピっと弾ける堅い下降形のアルペジオが印象的で、直ぐに続く弾む和音は「踊りだしたい!“wollen springen”」の歌詞にピッタリ寄り添っています。「僕たち二人とも“wir beide”」が繰り返され、歌声部も最高音Aisが響き興奮が頂点に達します。後奏では、くるくると円を描いて踊る二人が勢い余って野原に倒れ込む様子が描かれています。

1分にも満たない、まるで一瞬で終わってしまう注射のような短い曲です。…私事ですが…この曲は大学の学部の卒業試験で歌ったものなのです。試験曲はもう1曲あって、ベッリーニの『夢遊病の女la sonnambula』から「親愛なる皆さん~私には最高の日ですCare compagne~Come per me sereno」という長いオペラアリアでした。色々とカットをしても歌曲にあてられる時間は1分!そこでこのシュトラウスの歌曲を選んだのです。歌い終わった後、聴いてくれた友人が、アリアより歌曲の方が良かった!と誉めて(!?)くれたのを良く覚えています。大学の成績は「優・良・可」の上に「秀」があるのですが、歌で唯一「秀」をいただいたのがこの時の試験でした。そうです、学部4年間で、最後の最後にハナマルをもらえたんです!本当に嬉しかった!! 昔々のお話しですが今振り返っても気持ちが明るくなる良い思い出です。人生で一つでもこうした思い出があるって、幸せなことだなぁと有難い気持ちになります✨


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