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ドイツ歌曲の楽しみFreude am Lied*61*

生のコンサートでは“今まさにここで生まれる音楽”を共有していただける喜びがあります。その時間を1曲1曲切り取って“今まさに”のひとかけらでもお届けできたら!とお送りするドイツ歌曲の楽しみ Freude am Lied…

61曲目もツェムリンスキー♬…ひとかけら、届くかな?

アレクサンダー・フォン・ツェムリンスキー Alexander von Zemlinsky (1871-1942)作曲
娘さん、一緒にダンスに行かない?Mädel, kommst du mit zum Tanz?
                 ソプラノ 川田亜希子 ピアノ 松井 理恵

娘さん 一緒にダンスに行かない?
綺麗な花輪をあげるよ
バラの花輪だよ!
 
あら、花輪なんかで何をしろって言うの!
だったら絹の靴を持ってきてちょうだい
靴にリボンに それから指輪も
そうしたら喜んで彼女になってあげるわ
 
娘さん きみは素敵になったよ!
さあ 一緒にダンスに出かけよう
ワルツを踊りにね
 
おお 今や私は素敵すぎるわ
もうあなたの彼女にはなれないわ!
リボンに指輪に靴だって揃っているんだもの 
これに見合う彼氏を探さなきゃ

 オーストリアの詩人レオ・フェルトLeo Feld(1869-1924)による。

 男の子が女の子をダンスに誘っています。“frisch新鮮に”という指示どおり、風が吹き過ぎるように話しかけています。爽やかで勢いのある上行形のメロディーです。ピアノパートはダンスのステップですね。すぐにはなびかない様子を見て、男の子は花輪をだしに使います。細かいリズムと跳ね上がる音型で、女の子にちょっかいを出している雰囲気が聴いて取れます。ただの花輪じゃないよ、薔薇の花輪なんだよ、と“Rosenバラ”と強調しています。するとピアノの左手の鋭いアウフタクトで女の子が踵を返すように反応します。「あら、花輪なんかで何をしろって言うの!」ピアノの右手のスタッカートで、彼女の活き活きした様子が彩られます。そうかと思うと次のフレーズで「絹の靴が欲しいわ」と上目遣いにおねだりします。ピアノパートも穏やかに甘い和音で肩をすくめておねだりする姿を音化しています。そして大胆に拍子を4分の4拍子から8分の6拍子に変えて、リボンと指輪を追加しておねだりします。その言いっぷりといったら、音域はオクターヴを越えて大仰そのもの。続く「そうしたら喜んで彼女になってあげるわ」の行もピアノのスタッカートとその後のスーパーレガートに支えられ、もうやりたい放題。1オクターヴの音域を悠然と歌う様は「あなたにその甲斐性があるのかしらん?」という鼻歌にも、高笑いにもとれます。コケティッシュな間奏が印象的ですね。はたして、男の子は全部買ってあげました!!2番は着飾った女の子を「うーん、たまらなく可愛いっ!」と眺めるフレーズで始まります。有節歌曲の醍醐味、1番では爽やかな風、2番では目がハートになった感嘆のため息…!いまや男の子はダンスに一緒に行ってくれることを信じて疑わない様子。しかし女の子はやはりツンツンとしたまま「おお 今や私はあなたには素敵すぎるわ」とダンスを断ります。ちょっと申し訳なさそうに「もうあなたの彼女にはなれないわ!」と歌うフレーズは一番ではおねだりゾーンでした。これも有節歌曲の面白いところ!続く大仰ゾーンでは身に着けた装飾品をひらひらさせながら踊っているようです。そして最後は本当に鼻歌を歌って「ごめんあそばせ~」と去って行ってしまいます。再び現れるコケティッシュなピアノは最後の和音がキュートに締めてくれています。魅力たっぷりのリートらしいリートです。

✻アレクサンダー・フォン・ツェムリンスキーAlexander von Zemlinsky(1871-1942)✻  
ウィーン生まれの作曲家。両親はユダヤ教。ブラームスがシューマンに見出されたように、ツェムリンスキーはブラームスの有力な後押しに恵まれた。マーラーにも才能を認められ、作曲活動の他、ウィーン、プラハ、ベルリンなどで指揮者として活躍する。またシェーンベルク、エーリヒ・コルンゴルト、そしてマーラーの妻となるアルマ・シントラー等に作曲を教えた優秀な教師でもあった。(ツェムリンスキーとアルマとは恋仲であったが、結局アルマは当時スーパースターであったマーラーを選び1902年に結婚してしまう。)ナチス・ドイツの台頭に伴い1938年にはアメリカに亡命を余儀なくされ、英語の話せないツェムリンスキーは見知らぬ土地で病気がちになり、1942年ニューヨーク州ラーチモントで肺炎のため逝去する。彼の作品は感情に溺れることなく冷静な計算と客観性で組み立てられていて、後期ロマン派を一歩踏み出した知的な作風を示している。

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