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爽やかな初夏の朝 コーヒーショップの窓の外では スズメ達が噴水に集まって 小さな翼をシャンプーしている 音大行きのバス乗り場では 客はバスの屋上にハシゴで登り ピアノを楽譜初見で弾かないと 乗せて行ってもらえないそうだ ラヴェル先生が入試用に作曲した 『プレリュード』を上手く弾けない人は スズメの冠婚葬祭のための祝い歌や レクイエムを補習させられている 遠い昔 私も高校の体育館で ザ・ローリング・ストーンズの曲の イントロをトチったことがあるから 何処かで補習を受ければよかっ
九月がやって来た 本格的な秋はもうすぐだ コーヒーショップの窓からは 欅と椋木と銀杏の樹が見える みんな今はまだ緑色だけど もうしばらくすれば 黄色くなったり紅くなったり セピア色になったりする 終いには落ち葉になって 風に舞ったり地面を這ったり だけど長い冬が終わる頃には また新芽が顔を出してくる 大自然のサイクルってやつだ 噴水の向こう側の 山桃の並木の間に見えている オフィスビルの外壁も 秋に鮮やかに色変わりした後 だんだん色褪せて干乾びて 街路に剥がれ落ちてゆき 冬に
夕焼け小焼けのコーヒーショップ 実を言うとそれほど コーヒーが好きなわけじゃない わけが分からないまま この世界に投げ出された私の 「在る」と「居る」を持て余して どうしていいのかさっぱり分からず コーヒーでも飲むほかないのだ 趣味や嗜好や気晴らしなんてものは だいたいそういうことだ 「なんならこんなコーヒーなんか、 赤トンボにでもくれてやらあ~~っ!」 ヘンな人がいると思われてはマズイ 小声で叫んで顔を上げると 視野がこれまでとはまるで異なり 全方向に360度広が
コーヒーショップの隅の席で 女性が面接を受けている この店のウェイトレス志望らしい 女性のスーツの襟首から 小さなされこうべが顔を出して 面接官の様子を覗っている すると面接官のズボンの裾から 灰色の粉がさらさらとこぼれ落ち 床にヒエログリフの牛を描いた されこうべはスッと顔を引っ込めて 女性の体をモゾモゾと移動 スカートの裾から逆さに顔を出すと ヒエログリフの牛を見ながら言った 「採用です」 「ありがとうございました」 面接官が深々と頭を下げると ヒエログリフの牛が
コーヒーを飲みながら 窓の外をぼんやり眺めていると 巨大な金バエの王様が 家臣とウジ虫の軍隊を引き連れて 大通りを行進しているような気配がする あるいは推定138億年振りに 太乙金華が隣りの噴飯宇宙から タンスの奥のヘソの緒経由でワープして 帰還祝賀パレードをしているのか? 私のモジャモジャ頭に巣を作って 卵を温めているカラスに聞いてみると 全長三百メートルの黄金の百足が 大通りを這って行くところだと言う それはスゴいやらキモいやら 席を立って見に行こうとすると 「動くな!