マガジンのカバー画像

日々に遅れて

39
詩・散文詩の倉庫03
運営しているクリエイター

2023年12月の記事一覧

光る髭

レース越しにうっすらと 円い鏡の見える出窓は 雲の螺旋階段ではなかった 月から吊り下げられた ゼラニウムの鉢でも コスモスの咲く庭でもなかった ただ私を送り出す人が 立つためにある出窓 朝の舗道を歩く それぞれの 靴跡は剥がされて 風の波紋を漂っては 消えて行く方向へ 顎先は誘われて 剃り残しの髭の二つ三つに 鈍く光るものを触知して ふと佇む 灰色の敷石のうえ 花はもう 散り果てている 代わりに芥が 花を模写して舞い踊る それは小さな 螺旋階段であり 街路樹に降り注ぐ

おまえが何も 言わないから 私は冬が来ると 冷えた頬に 爪を立てて 忘れかけていた 名前を呼ぶけれど 声はひとつひとつ 空に攫われて やがて真っ白な 結晶になって 舞い降りて来る 部屋の中で 椅子に腰掛けて 空気の襞を じっと見つめる 視野を漂う 血管の細切れの幻 脊柱の後ろを 蟻が這うような 感覚を 引き剥がして 氷の壁に 投げつける たそがれる 窓に張り付いていた 遠いむかしの おまえの声の 残響が だんだん 干からびて 縮んでいって 雪の夜空に 攫われて行くのを 手

なわ跳び

冬晴れの児童公園 野良猫が生垣から顔を出して じっとこちらを窺っている  /かけとび  あやとび/  /ステップとび 去年はできなくて癇癪を起こしていた ふふ、まあ頑張れよ と思っていたのに 今では二年生女子の中でも上手い方らしい  こうさとび/  /にじゅうとび  はやぶさ!/ なんとなく 本当になんとなく 焦ってくる中年後期の男 (ぼくができなくてもいい筈なのに‥‥)  /普通の/なわ跳びなら/  ぼくも/こないだから/やってるよ  /(フィットネスの

幸福論

冬の朝 目覚ましアラームが鳴る のそのそ布団から這い出る あ 今日は日曜日だった また布団にもぐり込む ああ 至上の幸福それは二度寝 これを毎日体験したい アラームにスヌーズを設定する 月曜日の朝 目覚ましアラームが鳴る のそのそ布団から這い出る あ 真の起床は20分後 また布団にもぐり込む ああ 至上の幸福それは二度寝 (( カラスが鳴いてるぞ 何が悲しゅうて窓のすぐ外の電柱に止まる? カラスなぜ鳴くの? そういや黒カラスとジミー・ペイジのライブCD持ってたかな