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日々に遅れて

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詩・散文詩の倉庫03
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2022年7月の記事一覧

新譜

雨の日の海岸道路を THE BEATLESの 新譜を聴きながら走る 長い間 古ぼけた地層に埋もれていた歌が 輪郭のあちこちをこじ起こされて 朝の蝸牛管を伝い始める 重く垂れ込めた雲のような 暗さが充満していた時代 寄宿舎の窓から あてもなく眺めた空 水色の制服を着た少女が 遠くの畦道を歩いていた 長雨で白く煙る島々のように 視界を遮られた世界の 向こう側からやって来たノイズ 躍動する色彩 祝祭のゲシュタルト Love is all, Love is you 胸の焦がれ

探り吹き

小さな羽根飾りが付いた 中折れ帽のヒデキさんは ハーモニカ歴六十年だ 楽譜は読まずにメロディーを 口で探って覚えていくから 僕は探り吹きだ と言って笑う 特別養護老人ホームを慰問して 「ふるさと」や「旅愁」を吹くと 涙ぐむ高齢者もおられるそうだ 「ハナミズキ」「涙そうそう」 「月光」「長い間」「桜坂」 今どきのJ‐POPを吹いたら 若いリスナーにも受けるのでは? 提案してみると うーん・・・ 丸顔メガネが考え込んでいる 探り歩くエリアの外の曲らしい 求める