スカイスクレイパーの夜明け
【タイトル】
「スカイスクレイパーの夜明け」
殺し屋シリーズ・1部6話
【キャスト総数】
4(男:2 女:2)
【上演時間】
30分
【あらすじ】
夜も更け、闇が深まった頃。
眠らぬ巨帯都市(メガロポリス)には
銃声と罵声がこだまする。
女性の身でありながら
巨帯都市の発展の第一線に立ち、
民衆を導いた現・市長、
ベアトリス・“クイーン”・ディアロ。
彼女は摩天楼(スカイスクレイパー)の中心で
人々を見下ろす。
表舞台を支配する女王の裏には
いつも「殺し屋」の影があった。
【登場人物】
・ブージャム(男)
かつてのバー「デッドエンド」のマスター。
極めて優れた能力を有する殺し屋。
・スコーピオン(女)
ブージャムの部下である殺し屋。
荒々しい言動が目立つ。
・ベアトリス(女)
「ベアトリス・“クイーン”・ディアロ」。
巨帯都市(メガロポリス)を統べる現・市長。
・ウルフ(男)
業界では「最高峰」と呼ばれる殺し屋。
かつてのシャークの師。
【本編】
夜も更け切った都心の中央街。
眠らぬ大都市を見下ろす摩天楼の一角に建つ巨大なビル。
その上層階に位置する市長室。
静寂にノックの音が響き、市長室の主が顔を上げる。
ベアトリス:ああ、どうぞ。
ゆっくりとドアが開く。
男女の一組が市長室へ足を踏み入れる。
ブージャム:こんばんは、市長。
ベアトリス:待ってたよ、ブージャム。
ベアトリス:おや、今日は一人じゃないのか。
ブージャム:ええ、彼女は夜目(よめ)が利くのでね。
ブージャム:腕も確かです。
ベアトリス:君の部下ならさぞかし優秀だろうな。
ベアトリス:よろしく、お嬢さん。
ベアトリス:市長のベアトリスだ。
冷ややかな目線を送るスコーピオン。
スコーピオン:……知ってるよ。
スコーピオン:嫌でも目に付く顔だ。
スコーピオン:メガロポリスの「クイーン」様。
ベアトリス:はは、その名前も随分と皮肉が含まれてきた。
ベアトリス:女王も民に好き勝手をされちゃ形なしだ。
スコーピオン:ま、あんたにも政治にも興味はねぇよ。
スコーピオン:私はボスの付き添いで来ただけだ。
スコーピオン:小難しい話は勝手にやってくれ。
ベアトリス:さびしいな。名前も教えてくれないのかい?
ブージャム:ベアトリス、先にビジネスの話を済ませましょう。
ベアトリス:釣れないね。
ベアトリス:せっかく若い子とお近づきになれる機会なのに。
ブージャム:相変わらずですね。
ベアトリス:愛は不変さ。ゆえに尊いものだ。
穏やかな笑みを浮かべ、デスクから資料を取り出すベアトリス。
ベアトリス:仕事の話だったね。
ベアトリス:ターゲットはこのリストにまとめてある。
ベアトリス:目を通しておいてくれ。
手渡されたリストに目を通すブージャム。
ブージャム:……これはまた、政界の重鎮の名が並んでいますな。
ベアトリス:名前ばかりが先走っている連中さ。
ベアトリス:後処理は上手くやらせるから、その辺りの心配はしなくていい。
ベアトリス:君はいつも通り彼らを消してくれ。
ベアトリス:そう、彼らが見つけたスナークはブージャムだった。
ベアトリス:それだけさ。
ブージャム:ええ、承りました。
ベアトリス:よろしく頼むよ。
街の方で銃声が何発が鳴り響く。
遠くに汚い罵声も聞こえてくる。
パトカーのサイレンの音。
ブージャム:外が騒がしいですな。
スコーピオン:そこの通りでドンパチやってるみてぇだ。
スコーピオン:シロートの喧嘩だろ。くだらねぇ。
ベアトリス:最近はああいう手合いが増え続けていてね。
ベアトリス:産業の発展に比例して武器の流通も加速する。
ベアトリス:彼らは玩具を与えられた大きな子どもだ。
ベアトリス:全く見るに堪えないね。
ブージャム:野放しにしておいてもよろしいので?
ベアトリス:キリがない。
ベアトリス:いくら取り締まっても彼らは害虫のように湧き出てくる。
スコーピオン:随分な言い草だな。
スコーピオン:つま弾きモンはあんたにとっちゃ害虫か。
ベアトリス:ノアの方舟には明確な定員があるんだ、お嬢さん。
スコーピオン:けっ、意味わかんねぇよ。
ブージャム:何を選び、何を切り捨てるか。
ブージャム:上に立つ者には付き物でしょうね。
ベアトリス:世間に迎合し、安いポピュリズムを並べ立てるだけの権力者よりはマシなつもりだよ。
ベアトリス:君も上に立つ者なら理解が深いんじゃないかい?
ブージャム:滅相もない。表舞台に立つあなたに比べれば私など。
ベアトリス:ははは、謙遜のつもりだろうがそうは聞こえないねぇ。
ブージャム:おや、他意はありませんでしたが……。
ベアトリス:光と影は表裏一体だ。
ベアトリス:天秤にかける必要はない。
窓から眼下に広がる街を見下ろすベアトリス。
ベアトリス:だが、この街は大きくなり過ぎた。
ベアトリス:ビルが建ち過ぎて影が濃くなっている。
ベアトリス:とんでもなく濃い影だ。
ベアトリス:わかるだろう、ブージャム。
ベアトリス:もはや私ですら御(ぎょ)し切れないほど、加速度的に膨らみ続けている。
ブージャム:ええ、存じております。
ブージャム:だからこそ我々がいる。
ベアトリス:そう。この影の世界で骨を与え、ケルベロスを飼いならすのはハデスだ。
呆れるように息をつくスコーピオン。
スコーピオン:なぁ、もっと普通に言えねぇのか、あんた。
ベアトリス:これは失礼。悪い癖だね。
ベアトリス:要するに君たち殺し屋の存在は欠かせないんだ。
ベアトリス:今の社会にはね。
スコーピオン:つま弾きモンだろ、私たちは。
ベアトリス:違う違う!
ベアトリス:大事なビジネスパートナーだよ。
スコーピオン:よく言うぜ。
ブージャム:スコーピオン、雇い主には最低限の礼儀を。
スコーピオン:……。
ベアトリス:はははっ、いいよ。
ベアトリス:どちらかと言うと君の方がマイノリティだ、ブージャム。
ベアトリス:スコーピオンか、良いね。
ベアトリス:魅力的な響きだ。
ベアトリス:それにしても部下に説明してないのかい。
ベアトリス:君のビジネスプランのことは。
スコーピオン:ビジネスプラン?
ブージャム:時が来たらするつもりでした。
ベアトリス:そうだったのか。
ベアトリス:これはまた失礼。
スコーピオン:ボス……。
ブージャム:何のことはありません。
ブージャム:ただ、ビジネスプランと呼ぶには今はまだ荒唐無稽の類でしてね。
ベアトリス:そんなことはないだろう。
ベアトリス:私はとても素敵な計画だと思うよ。
スコーピオン:よかったら教えてくれねぇか。
ブージャム:私の望みは殺し屋の合法化です。
ブージャム:確かな秩序と、殺し屋に利権が認められる世界の実現。
つかの間の沈黙。
静かにスコーピオンが口を開く。
スコーピオン:……本気かよ。
ブージャム:我々は人を殺すことでしか生きられません。
ブージャム:ですが世間はそれを許さない。
ブージャム:真っ当な道理ですな。
ベアトリス:だが、その道理は日の当たらぬ場所では通じない。
ベアトリス:特にこの摩天楼に覆われたメガロポリスではね。
スコーピオン:……。
ブージャム:ベアトリス市長は協力的です。
ブージャム:彼女の力添えは欠かせません。
ブージャム:表舞台は市長が……舞台裏は我々が制する。
スコーピオン:オウルは知ってんのか、このこと。
ブージャム:ええ。一言、「面白い」と。
ブージャム:実に彼らしい。
スコーピオン:一つだけいいか?
ブージャム:何でしょう。
スコーピオン:殺し屋なんざ身勝手な連中ばかりだぜ。
スコーピオン:あんたの計画は業界全部巻き込むくらいのでけぇシノギだろ。
スコーピオン:アヤつけてくる奴らはどうすんだよ。
ブージャム:残念ですが消えてもらいます。
スコーピオン:金にならなくてもか。
ブージャム:はい。
ベアトリス:この男ならそれができる。
ベアトリス:それは君が最もわかっているだろう。
スコーピオン:……あんたの考えはわかった。
ブージャム:それは何よりです。
スコーピオン:で、賛同しなかったら私も消すのか?
ブージャム:自分の胸にお聞きになってください。
スコーピオン:……。
ブージャムの表情には穏やかな笑みが浮かぶ。
その瞳を見据えるスコーピオン。
ベアトリス:おいおい、ブージャム。
ベアトリス:何を考えているんだ、こんな可愛らしい子に対して。
ベアトリス:大事な部下なんだろう?
ブージャム:ええ、もちろん。
ベアトリス:レディの繊細な機微(きび)は推して知るべしだ。
ベアトリス:学校で習わなかったかい?
スコーピオン:るっせぇな、あんたは黙ってろ!
ベアトリス:あはは、怒った顔も良いねぇ!
スコーピオン:あんたとは話してねぇ。引っ込んでろ。
ベアトリス:ふふ……言葉の裏に潜む真意こそ価値のある宝石だ。
ベアトリス:目と耳は常に養っておくといい。
ブージャム:全く、敵いませんな……。
スコーピオン:チッ、意味わかんねぇっつってんだよ。
スコーピオンが苛立たしげに悪態をついた時、突然市長室がブラックアウトする。
咄嗟に身構え、周囲を軽快する殺し屋の二人。
ブージャム:!
ベアトリス:おっと……停電かな?
ベアトリス:参ったな、何も見えない……。
スコーピオン:オイ、伏せろッ!
発砲音とともに銃弾が撃ち込まれる。
身を伏せ、銃弾をかわすブージャム。
ベアトリス:銃声か!?
ベアトリス:何が起きてる……。
スコーピオン:ボス! 平気か!?
ブージャム:問題ありません。
ブージャム:どうやら……狙いは私のようだ。
硝子の割れる音。
何者かが室内に侵入する。
黒い影が素早く闇を縫って移動している。
スコーピオン:誰だ、てめぇ!
スコーピオン:止まれッ!
ブージャム:市長、ひとまずこの場を……。
ベアトリス:大丈夫だ、すぐに予備電源が入る。
ベアトリス:……ぐッ!?
予備電源により室内に光が戻る。
そこに映ったのは侵入者により人質に取られたベアトリスの姿。
こめかみに銃が突きつけられている。
スコーピオン:てめぇ……。
ウルフ:動くなよ。
ブージャム:あなたでしたか。
ブージャム:意外と大胆なことをなさる。
ウルフ:無傷か。
ウルフ:唯一の隙を突いたつもりだったんだがな。
ベアトリス:くっ……はは。
ベアトリス:君はあれだな。ウルフだろう?
ベアトリス:知ってるよ。
ベアトリス:それでどうするんだい。
ベアトリス:私を人質に取って、身代金でも請求するか?
ベアトリス:くく、傑作だ。相手は殺し屋だぞ。
ウルフ:黙れ。
ブージャム:もっと合理的な方かと思っていましたが、いやはや……。
ブージャム:マトは私でしょう?
ブージャム:彼女に人質としての価値はありませんよ。
ウルフ:殺されては困るんじゃないのか。
ブージャム:何?
ウルフ:こいつの協力は不可欠なんだろう。
ウルフ:あんたの目指す理想の世界とやらには。
スコーピオン:筒抜けかよ……。
ウルフ:準備がいいものでね。
ブージャム:……。
ベアトリス:準備ね、よく言うよ。
ベアトリス:これだけ派手に登場したんだ、すぐにSPが駆けつけてくる。
ベアトリス:逃げられるはずがないだろう。
ベアトリス:全く無謀だなぁ!
ウルフ:残念だが誰も来ない。
ベアトリス:はぁ?
ウルフ:優秀なビジネスパートナーがいるものでね。
ウルフ:強さだけは申し分ない。
ブージャム:……「不運(アンラック)」と手を組んだ、というのは本当でしたか。
スコーピオン:「不運(アンラック)」!?
スコーピオン:マジかよ、くそっ。
ベアトリス:参ったな。
ベアトリス:おい、ブージャム!
ベアトリス:さっさとやってしまえよ。
ベアトリス:どうせハッタリだ、撃てやしない。
ベアトリス:私を殺したらさすがに世間が黙っちゃいないだろう。
ブージャム:いえ、その男は引き金を引きます。
ベアトリス:何……。
ブージャム:その気になれば何の躊躇もなく、ね。
ウルフ:その通りだ。
ウルフ:少し黙っていろ。
ベアトリス:くっ……。
ブージャム:私を殺しますか。
ブージャム:それが、あなたの仕事でしょう。
ウルフ:ああ、この女の命などどうでもいい。
ウルフ:俺のマトはあんた一人だ。
ブージャム:あなたの勝ちです、ウルフさん。
ゆっくりと手を広げるブージャム。
ブージャム:撃ちなさい。
ウルフ:……。
引き金に手をかけるウルフ。
スコーピオン:……くそっ、くそがッ!
スコーピオン:卑怯な真似しやがって、てめぇ!
ウルフ:卑怯?
スコーピオン:目くらましに女の人質とはなァ!
スコーピオン:最高峰が聞いて呆れるぜ!
スコーピオン:正面からやってもボスに勝てねぇからってよ、こんな幕引きはねぇんじゃねぇか、ウルフさんよ!
ウルフ:やかましい女だ。誰かを思い出す。
スコーピオン:てめぇみたいな腰抜け野郎、虫唾が走るぜ。
スコーピオン:ボスを撃ってみろ。
スコーピオン:私が絶対にてめぇを殺してやるからな。
ウルフ:卑怯、か。笑わせる。
スコーピオン:ああ!?
ウルフ:お前も言っていただろう。
ウルフ:殺し屋は身勝手な生き物だと。
スコーピオン:……!
ウルフ:俺たちはただ、金の為に殺すだけだ。
ウルフ:殺し屋に貴賤(きせん)はない。
ウルフ:手を組むことはあれど誰かの上に立つことも下につくこともない。
ウルフ:元来、そういう世界だろう。
ブージャムを真っ直ぐに見据えるウルフ。
ウルフ:ブージャム、あんたの目指す秩序は幻想だ。
ウルフ:そんな暴挙を許せば、それこそ裏の世界は終わる。
ウルフ:俺たちは闇に紛れて生きていくしかない。
ウルフ:光などは似合わない。
ブージャム:ふっ、あなたなりの正義ということですか。
ウルフ:正義などもとよりどこにもない。
ブージャム:そうですね。
ブージャム:だからこそ必要でしょう。
懐に手をかけるブージャム。
ウルフ:何だ。勝ちを譲ってくれるんじゃなかったのか。
ブージャム:気が変わりました。
ウルフ:ちっ、お喋りに付き合い過ぎたな。
張り詰めた空気が流れる。
静寂を裂くようにウルフが引き金を引く。
身を翻したブージャムが反撃に出る。
ベアトリス:う……ッ!
人質のベアトリスが突き飛ばされ開放される。
2人の銃撃戦が続くなか、身を低くしたベアトリスが内線まで移動する。
ベアトリス:やれやれ……レディの扱いがなってないな、彼は。
スコーピオン:おい、頭を下げてろ。
スコーピオン:流れ弾に当たるぞ。
ベアトリス:おや、心配してくれるのかい。嬉しいね。
スコーピオン:口が減らねぇな。
スコーピオン:……くそっ、何て動きしてんだ、あの二人。
ベアトリス:もはや私は用済みってわけね。
ベアトリス:全く、人の城で好き勝手やってくれる。
内線をかけるベアトリス。
スコーピオン:何してんだよ。
ベアトリス:シッ。
ベアトリス:……ああ、私だ。
ベアトリス:至急SPを全隊、こちらへ寄越してくれ。
SPが慌てた様子で何かを伝えている。
ベアトリス:……女が一人手に負えない?
ベアトリス:ああ、その女は放っておいていい!
ベアトリス:とにかくこちらが優先だ。急げ!
スコーピオン:……役に立つのか?
ベアトリス:さぁ、どうだろうね。
銃撃が止む。
遮蔽物に身を隠したブージャムがウルフに語りかける。
ブージャム:いささか分が悪いのでは?
ブージャム:虎穴に入り過ぎましたな。
ウルフ:こうでもしなければあんたの首は取れん。
ブージャム:やはり、あなたも目的は金ですか。
ウルフ:それ以外に何がある。
ブージャム:大義があるとすれば、どうです。
ウルフ:笑わせるな!
再び銃撃の応酬が続く。
ブージャム:金に目が眩み、銃という玩具を手にした猿は、殺しを覚えたただの獣です。
ブージャム:殺し屋とは呼べない。
ブージャム:暴挙と呼ぶのなら、彼らのような猿を野放しにしておくことだとは思いませんか?
ウルフ:だとしたらどうする。
ウルフ:慈善で殺しでもやる気か?
ブージャム:いいえ、これもビジネスの形です。
ブージャム:我々も資本主義の流れの一つに過ぎない。
ブージャム:社会においては弱者が淘汰される。
ブージャム:自然の摂理でしょう。
ウルフ:何が言いたい。
ブージャム:殺し屋にも変革が必要だということです!
ブージャムの弾丸がウルフの遮蔽物をかすめる。
ウルフ:くっ……。
ブージャム:さらばです。
ウルフ:ブージャムッ!
2人が同時に飛び出し、互いの銃口が向けられる。
その瞬間、部屋に大勢のSPが流れ込む。
ベアトリス:来たか!
ベアトリス:よし、その男を捕らえろ!
ベアトリス:撃っても構わん!
スコーピオン:馬鹿ッ、邪魔させるな!
ウルフ:……チッ。
素早く身を翻し窓際まで移動するウルフ。
ブージャムは追おうとはしない。
ブージャム:またお預けのようですな。
ウルフ:……次は殺す。
窓から離脱するウルフ。
すかさずスコーピオンが窓際へ走る。
スコーピオン:くそっ、待てよ!
ブージャム:無駄です。捨て置きなさい。
スコーピオン:あの野郎……ッ。
ブージャム:いずれ見(まみ)える時がきます。慌てる必要はない。
スコーピオン:……。
慌ただしくSPがひしめく中、肩をすくめながらベアトリスが口を開く。
ベアトリス:あーあー。派手にやってくれたものだ。
ベアトリス:備品もタダじゃないというのに……。
ベアトリス:全くスリリングな夜だったよ、ブージャム。
ブージャム:申し訳ありませんでした。
ブージャム:ベアトリス、今後は……。
ベアトリス:ああ。警備は厳重にするよ。
ベアトリス:最高峰の殺し屋と、「不運(アンラック)」に狙われたのでは、命がいくつあっても足りない。
ブージャム:それがいいでしょう。
ブージャム:騒ぎが大きくなる前に我々も失礼します。
ベアトリス:今後もよろしく頼むよ。
ベアトリス:お嬢さんも、またね。
スコーピオン:……ふん。
市長室を後にする2人。
ふと窓から外を眺めたベアトリスが目を細める。
ベアトリス:おやおや……。
ベアトリス:この惨状に似つかわしくない、綺麗な夜明けだ。
一方、朝焼けの差さない薄暗い路地を歩く殺し屋の2人。
前方を歩く背中にスコーピオンが語りかける。
スコーピオン:……ボス。
ブージャム:何でしょうか。
スコーピオン:私はあんたに付いていく。
ブージャム:……それはありがたい。
スコーピオン:あの女じゃ駄目だ。
スコーピオン:このクソッタレな世の中を変えられんのはあんたしかいねぇよ。
ブージャム:……。
スコーピオン:なぁ、あんたの言うその世界はよ……。
何かを思い出すスコーピオン。
スコーピオン:……私たちみたいなろくでなしも認めてもらえるかな。
ブージャム:ええ、必ず。
スコーピオン:そう、か。
ブージャムに並び、やがて前を歩いていくスコーピオン。
その歩みに迷いは見られない。
路地を抜けた先、朝焼けの光が2人を照らす。
携帯の着信に応えるブージャム。
ブージャム:もしもし、どうしましたか?
ブージャム:ええ、今から戻るところです。
ブージャム:……なるほど、わかりました。
ブージャム:それならば一度、合流しましょう。
ブージャム:あなたはそのままナイトホークスで待機を。
ブージャム:すぐに戻ります。それでは。
通話を切り携帯電話をしまう。
ブージャム:……やれやれ。
ブージャム:トラブル続きですな。
夜から朝へと姿を変えた巨帯都市。
人々の営みが緩やかに聞こえ始める。
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