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デモンの凶弾

【タイトル】
「デモンの凶弾」
殺し屋シリーズ・1部12話

【キャスト総数】
5(男:1 女:4)

【上演時間】
30〜40分

【あらすじ】
陽が照らすうちは文明が廻り、
宵が覆えば悪魔が闊歩する。

いくつもの謀略が巡る街。
裏の世界の要であるカフェ「フラッパー」に、
再び魔の手が伸びようとしていた。

破壊と恐喝、矜持と愛情。

凶弾が鳴り響く中、
悪魔の仕掛けたゲームも終盤へと移る。

【登場人物】
・センチピード(女)
3人組(チーム)で仕事を行う殺し屋。
ゲーム好き。

・ブルズアイ(女)
3人組(チーム)で仕事を行う殺し屋。
色男には目がない。

・ルージュ(女)
情報屋を兼ねるカフェ「フラッパー」店主。
元殺し屋。

・スコーピオン(女)
ブージャムの部下である殺し屋。
荒々しい言動が目立つ。

・オウル(男)
ブージャムの右腕である殺し屋。
飄々として掴みどころがない。

【本編】
 シャークとセンチピードがともに生活の拠点としているホーム。
 客間の椅子に腰掛けているブルズアイ。
 奥側のドアが開き、センチピードが客間に入ってくる。

ブルズアイ:どう? シャークちゃんの具合は。
センチピード:傷は大したことなかったわ。
センチピード:どっちかと言うとプライドの方が重傷なんじゃないかしら。
ブルズアイ:まさか一人で行っちゃうなんてねぇ。
ブルズアイ:水くさいわぁ、もう。
センチピード:でも止めてたでしょ? 相手が悪いわ。
ブルズアイ:まぁね。
センチピード:連中、最近は同業者狩りに拍車がかかってるわね。
センチピード:もう下手に手は出せない存在になってる。
ブルズアイ:業界から足を洗うって子たちも増えてるみたいねぇ。
センチピード:従わない者は処分する……。いつの時代の頭よ。
ブルズアイ:でも割と効果的なのよねぇ。
ブルズアイ:長い物に巻かれた方が上手くいくこともあるし。
センチピード:あなたはそんなタマじゃないわよね。
ブルズアイ:ふふ、ムカデちゃんもでしょ?
センチピード:単純なトップ・ダウンが通用する世界じゃないわよ。
センチピード:傲慢の極みだわ、彼らのやってることは。
ブルズアイ:お姉さんのことはどうするの?
ブルズアイ:考えとしてはボスの側なのよねぇ。
センチピード:……目を覚まさせる。
ブルズアイ:良いわね、それ。
ブルズアイ:シャークちゃんっぽいかも。
センチピード:一緒にしないでよ。
センチピード:……あの子もこのまま終わるタマじゃないでしょうね。
ブルズアイ:そうねぇ。
ブルズアイ:でもみすみす殺されに行くのを止めないのもヤバくない?
センチピード:どうかしらね。
ブルズアイ:え?
センチピード:頭に血が上ってる時のあの子は使い物にならないけど、冴えてる時は……強いわ。
ブルズアイ:まぁ、それはわかるけど。
ブルズアイ:大丈夫かしら?
センチピード:きっと止めても無駄。
センチピード:先生も絡んでるとなるとなおさらね……。
センチピード:マスターの招待客はシャーク一人だけよ。
センチピード:あっちは任せて、私たちは私たちの仕事をしましょう。
ブルズアイ:んー……。
センチピード:珍しいわね、心配?
ブルズアイ:そりゃねぇ。飲み友が減るの嫌だもん。
センチピード:大丈夫、死なないわ。
センチピード:強い目になってた。
センチピード:仲間を信じるのもチームでしょ。
ブルズアイ:うわっ、ムカデちゃん、青くさいこと言うようになったわねぇ!
センチピード:うるっさい。
センチピード:いいからホラ、行くわよ。
ブルズアイ:んー、どこに?
センチピード:私たちの仕事。
センチピード:……連中、このまま素直にあの店を諦めるとは思えないのよね。

 情報屋を兼ねるカフェ「フラッパー」。
 多数の殺し屋たちが八方に銃を向けている。
 乱発される銃弾によって荒らされていく店内。
 壁や窓、備品やデータなど全て破壊しつくされている。

スコーピオン:おい、これだけやりゃ十分だ。
スコーピオン:もういいぞ。

 銃撃が止む。
 壁を背に座り込み、負傷したルージュが鋭い視線を向ける。

ルージュ:ハァ……ハァ……。
オウル:いやぁさすがですね、ルージュさん。
オウル:何人やられたんですか、ウチの部下は。
オウル:もう途中から数えてませんよ。
スコーピオン:チッ、随分と抵抗してくれやがって……。
スコーピオン:とんだカフェ店員だ。
ルージュ:あなたたち……私の店をこんな有様にしといて、生きて帰れると思わないことね。
オウル:ワォ、まだやる気なんですか。
オウル:「ジョリールージュ」の名は伊達じゃありませんねぇ。
ルージュ:これもブージャムの差し金ってわけ?
オウル:正確には僕の意向です。
オウル:ノーディールの場合は全ての判断を任せられていますので。
オウル:あれ、このやりとり前にもしませんでしたっけ。ははは。
ルージュ:従わないなら全て壊す……。
ルージュ:はッ、ケツの青いガキの考えそうなこと。
オウル:口が減りませんねぇ。
オウル:まぁ、それも魅力的なところだ。
スコーピオン:オウル、無駄話はいいからさっさとやれ。
ルージュ:今日は客としてじゃないのね、サソリちゃん。
スコーピオン:ああ、悪いな。
スコーピオン:手ェ組むのを拒んだ時点であんたを消すのは決まってた。
スコーピオン:中立の立場なんだろうが……邪魔なことに変わりはねぇ。
ルージュ:残念……。あなたはまだ話が通じる方かと思ってたけど。
スコーピオン:店じまいだ、情報屋。
ルージュ:……舐めんなよ、ガキども。

 素早く懐から抜いた銃をスコーピオンに向けるルージュ。
 瞬間、ルージュの足を撃ち抜くオウル。

ルージュ:う……あああッ!
スコーピオン:……ふん。
オウル:良いですね、美人は。苦悶の顔さえも絵になる。
オウル:そそられますよ。
スコーピオン:サド野郎が。勝手にしろ。
ルージュ:ぐ……ッ。
オウル:このまま眺めていたいのも山々なんですが僕も忙しいんですよね。
オウル:残念ですが手早くいきましょう。

 ルージュの額に狙いを定めるオウル。

オウル:お仕事ご苦労様でした。ルージュさん。
ルージュ:……地獄に落ちろ。

 銃声が響く。
 予期せぬ発砲音にオウルの手が止まる。
 店の入口に硝煙をまとったブルズアイが立つ。

ブルズアイ:おいたが過ぎるわねぇ、坊や。
オウル:おやおや。こんにちは、ブルズアイさん。
オウル:コーヒーブレークですか?
センチピード:行儀の悪い客もいるものね。
オウル:センチピードさんも。
オウル:はは、嬉しいな。ボスの言う通り美女ぞろいだ。
スコーピオン:……馬鹿が。
ブルズアイ:さぁて、喧嘩なら私らも混ぜてもらってもいい?
オウル:大歓迎ですけど、何かあなたたちにメリットがあるんでしょうか?
ブルズアイ:いつもいつも打算的な女じゃないのよ、私も。
オウル:なるほど。

 センチピードがブルズアイに小さく耳打ちする。

センチピード:ブルズアイ、数が多い。
センチピード:手はず通りに。
ブルズアイ:オッケー。

 合図とともにセンチピードの手から何かが投げ込まれる。

オウル:ん?
スコーピオン:チッ、硝煙だ! オウル!

 一瞬で店内が煙に包まれる。
 慌ただしく場が混乱する中、ブルズアイがルージュのもとへ向かう。

ブルズアイ:ハァイ、こっぴどくやられたわねぇ、ルージュちゃん。
ルージュ:……クソ売女(ばいた)。
ブルズアイ:ほら、さっさとズラかるわよ。肩貸して。
ルージュ:ほっといてよ。
ルージュ:あんたなんかに助けられるくらいなら……!
ブルズアイ:はいはい、強がらなくていいから。時間ないわよ。
ルージュ:く……ッ!

 煙の中からオウルが現れる。

オウル:ははは、思ったより古典的な手を使いますねぇ。
ブルズアイ:わかりやすくていいでしょ。
ブルズアイ:ムカデちゃんのお手製よ。
オウル:また踊ってくれるんですか、ブルズアイさん。嬉しいなぁ。
ブルズアイ:悪いけどごめんだわ。
ブルズアイ:ちょっと頭にきてんのよね。
オウル:へぇ?
ブルズアイ:義妹(いもうと)に手ェ出しといて、ヘラヘラ笑ってんじゃないわよ……クソガキ。

 センチピードの前に現れるスコーピオン。

スコーピオン:煙幕とは小賢(こざか)しい真似してくれるなぁ、オイ。
センチピード:言ったでしょ、止めるって。
スコーピオン:呆れたぜ。あれだけ忠告してやったのに首突っ込みやがって。
スコーピオン:情報屋を助けてヒーロー気取りか、ああ?
センチピード:関係ない。殺し屋が人助けなんてお笑い種(ぐさ)よ。
スコーピオン:じゃあ何で来た。
センチピード:さぁ何ででしょうねッ!

 ナイフを抜いたセンチピードがスコーピオンへ斬りかかる。
 鋭い一撃はいなされる。

スコーピオン:お前、今度は手加減してもらえると思うなよ……!
センチピード:そっちもね!

 白兵戦が続く。

 一方では数発の銃声。
 ブルズアイから間合いを取るオウル。

オウル:……ふぅ、危ない危ない。
オウル:煙で間合いが取りづらいですねぇ。
ブルズアイ:あなたの癇(かん)に障るニヤけ顔を見なくて済むから助かるわぁ。
オウル:おっかないなぁ……。
オウル:本当の姉妹じゃないんでしょ?
オウル:ただの他人じゃないですか。
ブルズアイ:血の繋がりだけじゃないのよ、姉妹ってのは。
オウル:あなたでもそんな感情的になるんですねぇ。
ブルズアイ:減らず口はもう聞き飽きたわ。

 間合いを詰め発砲するブルズアイ。
 紙一重で銃弾をかわすオウル。

オウル:ッとと……早いなぁ。
ブルズアイ:「死人に口なし」だっけ?
オウル:!

 オウルに蹴りを放つブルズアイ。
 ガードするもののバランスを崩し、膝をつく。

オウル:……っ。はは、やりますねぇ。
ブルズアイ:そんなダンスじゃ私の相手は務まらないわよ、坊や。
オウル:勝ち誇るのはちょっと早いんじゃないですか?

 すかさず移動するオウル。
 ブルズアイが発砲するも銃弾はかわされる。

ブルズアイ:……チッ。ちょこまかとうざったいわねぇ。
オウル:いいんですか? 僕にばかり夢中になって。
ブルズアイ:はぁ?
オウル:大事ならちゃんと守った方がいいですよ。
ブルズアイ:ッ! ルージュ!

 ルージュに銃口を向けるオウル。

ルージュ:私のことはいい!
ルージュ:その男を殺(と)りなさい!
ブルズアイ:くッ……!
オウル:ははっ、遅い遅い。

 指先に力が込められる。

オウル:はい、さようなら。

 銃声が響き、床に血が飛び散る。

ブルズアイ:……ッ。
ルージュ:ちょっと……何でよ、あなた……。

 ルージュをかばうように立ったブルズアイの体から血が流れる。

オウル:美しいですねぇ。
オウル:妹の為に体を張れるなんて……。
オウル:口だけじゃないみたいだ。
ルージュ:ね……義姉(ねえ)さんッ!

 血が広がっていく。

 一方、白兵戦を繰り広げるセンチピードとスコーピオン。
 攻撃を繰り出すセンチピードをスコーピオンが圧倒する。

センチピード:くッ……!
スコーピオン:ふん、まるで成長してねぇ。
スコーピオン:この間一本取ったのはまぐれかよ。
センチピード:うる……さいッ!
スコーピオン:時間の無駄だ。
スコーピオン:いつまでも付き合ってもらえると思うなよ。

 大振りになったナイフがかわされ、センチピードの体に拳が入る。

センチピード:う……ぐッ……。

 センチピードの膝が折れ、ナイフが傍らに転がる。

スコーピオン:チッ、うざってぇ煙だな……。
スコーピオン:おい、オウル。終わったのか。
オウル:ええ、チェックメイトです。
スコーピオン:さっさと済ませろ。
スコーピオン:こっちも終わった。
オウル:そうですねぇ。
オウル:じゃ、楽にしてあげましょうか。

 ルージュに銃口を向けるオウル。

ルージュ:……マトは私だけでしょう。
オウル:んー、ボスからのお達しに従うならそういうことになりますね。
ルージュ:二人は見逃しなさい。
オウル:何かメリットあります? それ。
ルージュ:まだ恥の上塗りを続けるつもりなの、あなたたち。
オウル:はぁ?
ルージュ:玩具を振り回すだけの猿を最も嫌ってるのは誰だったかしら。
ルージュ:あなたたち「殺し屋」なの?
ルージュ:それともただの「人殺し」の集団? どっちよ。
オウル:別にどちらでも、お好きな方に取ってください。
オウル:そんなものただの詭弁(きべん)じゃないですか。
ルージュ:……。
ブルズアイ:ルー……ジュ……。
オウル:もっと面白いジョークを期待しました。残念です。

 銃を構えるオウルの背中にスコーピオンが口を開く。

スコーピオン:オウル。
オウル:はい?
スコーピオン:その猿を一番嫌ってんのはボスだろ。
オウル:はぁ、そうですね。
スコーピオン:そいつの言うことも一理ある。
オウル:ありませんよ。
スコーピオン:私らのマトは情報屋だ。
スコーピオン:むやみに殺し回って格を下げんな。
スコーピオン:目的を見失うんじゃねぇよ。
オウル:あのねぇサソリさん。
オウル:殺す理由はあっても、生かしておく理由なんかひとつもありませんってば。
オウル:猿がどうとかなんて知りませんよ。
スコーピオン:ボスなら殺さねぇ。
オウル:……指揮を任されてるの僕だってこと忘れてます?
スコーピオン:私のボスはお前じゃねぇ。

 床に伏せたセンチピードがスコーピオンを見上げる。

センチピード:ね……姉さん?
オウル:やけに突っかかりますねぇ、サソリさん。
オウル:らしくないじゃないですか。
スコーピオン:……。
オウル:ああ、わかった!
オウル:ここでブルズアイさんを殺すとなると、妹さんも殺さないといけなくなりますもんねぇ!
オウル:はいはい、理解しました。
オウル:優しいですもんねぇサソリさんは。
スコーピオン:勝手に人のこと理解した気になってんじゃねぇよ。
オウル:甘いなぁ、甘い甘い。
オウル:サソリの毒は抜かれちゃいましたか?

 場が張り詰める。
 そっと背後のセンチピードに語りかけるスコーピオン。

スコーピオン:……おい。
センチピード:え……。
スコーピオン:動けんだろ、さっさと行っちまえ。
スコーピオン:そんでもう二度と首突っ込むな。
センチピード:い、嫌よ! 何でこんなこと……。
スコーピオン:てめぇの事ばっか考えんじゃねぇよ。
スコーピオン:死ぬぞ、お仲間がよ。
センチピード:……ッ!
スコーピオン:行けッ!
センチピード:……言いたいことたくさんあるんだから。
センチピード:ちゃんと聞いてもらうからね!
スコーピオン:はッ、わかったよ。

 その場から動き出すセンチピード。

センチピード:ルージュ、立って!
センチピード:死ぬ気で走って!
ルージュ:……ッ!

 ブルズアイを支え、離脱するセンチピード。
 ルージュが追従する。

オウル:いやいや、そんな虫のいい話通ると思います?

 3人の背に狙いを定めるオウル。

スコーピオン:悪ィが通させてもらう。

 制すようにオウルに銃口を向けるスコーピオン。

オウル:あーあ、ルージュさんまで逃げちゃいましたよ。
オウル:あの人は殺(と)らないと駄目でしょ?
スコーピオン:そうだな。
スコーピオン:奴は私が責任持って殺(と)ってやるよ。
オウル:はは、面白くもないジョークは結構です、サソリさん。
スコーピオン:お前にジョークのセンスを言われるとはな。
オウル:ボスが許さないもの、何でしたっけ。
スコーピオン:……ボスを裏切るつもりはねぇ。
オウル:まぁ、いいや。
オウル:不毛な問答はやめましょう。

 オウルの銃口の先が変わる。

オウル:部下の不始末はきっちりカタをつけないとね。
スコーピオン:お前の部下になったつもりはねぇっつってんだろ。

 銃声が鳴り響く。

 店を離脱しした3人。
 足の痛みに耐えかねたルージュが倒れるように座り込む。

センチピード:ハァッ……ハァッ……!
センチピード:ブルズアイ、ねぇ! 生きてる!?
ブルズアイ:……。
センチピード:ブルズアイ!
ブルズアイ:……んー、痛ぁいもう。
ブルズアイ:最悪ゥ……死にそう。
センチピード:……大丈夫そうね。
センチピード:ルージュは足、平気?
ルージュ:平気……とは言いがたいけれど、そうも言ってられないでしょ?
ルージュ:その女に比べれば軽傷よ。
ブルズアイ:……ルージュ。
ルージュ:何よ。
ブルズアイ:ごめんねぇ、遅れちゃって。
ルージュ:何で庇ったのよ。
ルージュ:私のことはいいって言ったでしょう。
ブルズアイ:……。
ルージュ:こんなことで許されるだなんて思わないでよ。
ルージュ:トドメ刺してあげようか、クソ売女(ばいた)。
センチピード:ルージュ、ブルズアイは……。

 センチピードの言葉を手で制するブルズアイ。

ブルズアイ:ムカデちゃん。
センチピード:……っ。
ブルズアイ:いいわよ、あなたの気が済むようにやりなさい。
ブルズアイ:銃なら貸してあげる。
ブルズアイ:私はなーんにも後悔なんてしてないし。
ルージュ:何よ……それ。
ブルズアイ:義妹(いもうと)は可愛いものよ。
ブルズアイ:誰だってね。
ルージュ:……うるさいっ!

 素早く銃を掴んだルージュがブルズアイに突きつける。
 構えた指先は震えている。
 真っ直ぐに見据えられたブルズアイの瞳。
 ルージュの口から弱々しく声が漏れる。

ルージュ:……わかってたわよ……。
ブルズアイ:ルージュ?
ルージュ:本当は全部わかってた……。
ルージュ:あなたは悪くないってこと……。

 目に涙がにじむ。

ルージュ:それでも信じたくなかった……。
ルージュ:信じられなくて……あなたを恨む以外できなかった。
ルージュ:わかってたわよ、全部。
ブルズアイ:……。
ルージュ:大嫌いよ……義姉(ねえ)さん。

 手から銃が落ちる。
 うつむき顔を覆うルージュ。

センチピード:やっぱり憎みきれないものよね。家族は……。

 立ち上がるセンチピード。

ブルズアイ:行くの? ムカデちゃん。
センチピード:ええ。私もほっとけない姉がいるから。
センチピード:ルージュ、裏通りのハンスおじいちゃん知ってるわよね。
ルージュ:……闇医者でしょう。知ってるわ。
センチピード:ブルズアイを連れていって。
センチピード:あなたもちゃんと診てもらった方がいい。
ルージュ:……わかったわ。
センチピード:じゃ、よろしくね。
ルージュ:ムカデちゃん。
センチピード:ん?
ルージュ:ありがとう。
ルージュ:また助けられたわね。
センチピード:コーヒー一杯でいいわよ。
ブルズアイ:待ってるわよぉ、ムカデちゃん。
ブルズアイ:終わったら飲もうねぇ。
センチピード:ええ。先に待ってて。

 走り去っていくセンチピード。

 「フラッパー」店内。
 銃撃戦が続いている。

オウル:あーあー、可愛い部下たちをこんなにしてくれちゃって。
オウル:完全な裏切り行為ですよ、サソリさん。悲しいなぁ。
スコーピオン:やらねぇとやられるだけだろうが。殺しちゃいねぇよ。
オウル:これもボスなら許すと思ってるんですか?
スコーピオン:さぁな。その時はケジメ取って死んでやるよ。
オウル:もうやめませんか。マトもとっくに逃げました。
オウル:僕らが争っても時間の無駄じゃないですか、ねぇ?
スコーピオン:お前、その気色悪ィヘラヘラ笑いやめたらどうだ。
オウル:あっ、ひどいなぁ。
オウル:紳士は笑顔が一番輝くものでしょ?
スコーピオン:張り付けた笑顔なんざ胸糞悪ィだけなんだよ。
オウル:……。
スコーピオン:何とか言えよ、オイ……。

 顔を上げたオウルの雰囲気が変わる。

オウル:ガタガタうるせぇな。
オウル:立場わかってんのか、ああ?
スコーピオン:はッ、それが本性だろ。
スコーピオン:わかりやすくていいなぁ、お前。
オウル:生きて帰れると思ってんじゃねぇぞ。
スコーピオン:そっちがな。

 空気が張りつめる。
 静寂を破るように硝煙弾が投げ込まれる。

オウル:あぁ?
スコーピオン:これは……。

 店内が再び煙に包まれていく。
 窓から侵入したセンチピードがスコーピオンに近づく。

センチピード:姉さん!
スコーピオン:馬鹿、お前何で戻ってきた!
センチピード:いいから、今のが最後の硝煙弾よ。早く!
スコーピオン:ふざけんじゃねぇよ、何のつもりだお前……。
センチピード:あの数を一人で戦って無事なわけないでしょ!
センチピード:文句なら後で聞く。今は退くわよ!
スコーピオン:……ったく、頭かてぇところは変わってねぇな。

 突如、煙幕をかき消しながらオウルが現れる。

オウル:小細工が二度も通じるわけねぇだろ、馬鹿が。

 センチピードに狙いを定めるオウル。

スコーピオン:どけッ!
オウル:死ねよ。

 センチピードの体が突き飛ばされる。

 同時に響く2発の銃声。
 弾丸がオウルの肩を貫き、手にしていた銃が床に転がる。

オウル:……この虫けらがァ。
スコーピオン:……。
センチピード:ねえ、さん……。

 スコーピオンの体が揺れ、倒れる。

センチピード:姉さんッ!

 倒れたスコーピオンを支え、必死に呼びかけるセンチピード。
 肩の傷を押さえたオウルが周りの部下に叫ぶ。

オウル:おい、ボサッと突っ立ってんじゃねぇ!
オウル:アマ二人、さっさと殺せ!
センチピード:くッ!

 重体のスコーピオンを支えながらも隙を突いて店から離脱するセンチピード。

オウル:一人は死にぞこないだ。見つけ出してぶち殺しとけ。
オウル:データベースのハッキングは済んだのか?
オウル:じゃあさっさとぶっ壊せ!
オウル:モタモタすんじゃねぇよ!

 オウルの怒号が響く。
 蔓延する煙のなか、店内が慌ただしくなっていく。
 服についた埃を払い、一息つくオウル。

オウル:……全く、足手まといに体を張って何の意味があるんですかね。

 人気がなく静かな街路。
 街灯もなく、暗闇のなかセンチピードがスコーピオンを支え歩いていく。

センチピード:ハァッ……ハァッ……。
スコーピオン:……。
センチピード:もう……少しだから。
センチピード:頑張ってよ姉さん。
スコーピオン:……。
センチピード:姉さん。ねぇ、返事して。
スコーピオン:……昔はよ。
センチピード:え?
スコーピオン:大怪我すんのは……いつもお前の方だったろ。
センチピード:ああ……そうだったわね。
スコーピオン:いつも……私の後ばっか、ついてきやがって。
スコーピオン:まだ早ぇって……散々、言ってんのによ……。
センチピード:うん。
スコーピオン:……もう、一人で歩けんだな……。
センチピード:喋らないで。もう少しだから。
スコーピオン:……。
センチピード:ねぇ、あとちょっとよ。
スコーピオン:生きろ。
スコーピオン:逃げてもいいから、生きろ。
スコーピオン:一人がきついなら、仲間も、頼れ。
スコーピオン:とにかく……お前は、生きろ。
センチピード:わかった、言う通りにするから。
センチピード:姉さんも一緒よ。
センチピード:私、一人じゃ歩けないよ、姉さん。
スコーピオン:……馬ァ鹿。

 センチピードの頭が乱暴に撫でられる。

スコーピオン:しょうがねぇ奴だなぁ……ホントによ。

 スコーピオンの顔を見る。
 暗闇の中、いつかと同じ笑顔が浮かぶ。
 やがてその手が落ちていく。

センチピード:姉さん?
センチピード:ほら、見えてきたよ。もう大丈夫。

 返事はない。

センチピード:姉さん……姉さん。

 穏やかな顔でセンチピードの肩に体を預けるスコーピオン。
 音が全て消えてしまったかのような静寂。

センチピード:……姉さん……ッ。

 同じく街の外れへと続く夜道。
 軽やかな足取りで歩くオウル。
 足跡に肩から流れる血が混じっていく。

オウル:良い夜ですね。月が綺麗だなぁ。
オウル:こんな日は悪魔も美酒に酔いしれる。
オウル:さぁて、ゲームも終盤。ますます面白くなってきましたねぇ。

 満月を見上げる。

オウル:勝負はウィナー・テイク・オール。
オウル:勝った者が全て手に入れる。
オウル:結局そういうものでしょう。ねぇ、ボス。
オウル:僕は自分の勝ちにしかベットしませんよ。
オウル:クク……皆さん馬鹿みたいに踊ってください。
オウル:はは……はははッ!

 闇に消えていく笑い声。
 悪魔が潜む夜が更けていく。

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