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ダウンタウンの喧騒

【タイトル】
「ダウンタウンの喧騒」
殺し屋シリーズ・1部8話

【キャスト総数】
3(男:1 女:2)

【上演時間】
20分

【あらすじ】
昼下がり、一人下町を行くシャークの耳に
馴染みの深い発砲音とがなり立てる声が聞こえてくる。
どこを歩いていても変わらぬ日常。

――目の前にある女が着地してくるまでは。

追い立てる喧騒がこちらへ近づいて来る。
同時に直感した。

これは「不運」の巡り合わせだ。

【登場人物】
・シャーク(女)
3人組(チーム)で仕事を行う殺し屋。
荒っぽい言動が目立つ。

・ベレッタ(女)
業界では「不運(アンラック)」の名で知られる殺し屋。
ゲーム好き。

・ウルフ(男)
業界では「最高峰」と呼ばれる殺し屋。
かつてのシャークの師。

【本編】
 時刻は昼下がりの下町。
 喧騒とは無縁である人気のない路地裏で背中合わせに銃を構える女の2人組。
 1人は浮かない表情を浮かべている。

ベレッタ:(どーも、ベレッタと申します。しがない殺し屋やってるッス。)
ベレッタ:(今日は仕事もなーんにもないオフのはずだったんスけど、ご覧の通り見るからに怖いオッサンたちに追われてるんスよね。)
ベレッタ:(そんで背中合わせに構えてるお姉さんは……シャークさんッスね。)
ベレッタ:(すごいでしょ、この状況、マジで。)
ベレッタ:(ああ、ツいてねぇ……。)
ベレッタ:(どうしてこうなったんだっけ。)
ベレッタ:(よし、ひとまず頭の中を整理しよう。うん。)

 時は巻き戻り数分前。

 人もまばらなストリートをシャークが通話をしながら歩いている。

シャーク:ああ、もう店開けてやがったぜ、ルージュのやつ。
シャーク:まぁブルズアイさえ鉢合わせなきゃ大丈夫だろ。
シャーク:……んだよ、コーヒー飲みたかったんならお前も来りゃよかったじゃねぇか。
シャーク:オンラインで絶対外せないイベントがどうこう言ってただろうが!
シャーク:ったく、お前仕事中も散々ゲームしてんじゃねぇかよ……。

 かすかに聞こえてくる銃声と罵声。

シャーク:……あー、近くでドンパチやってるみてぇだ。ほっとけ。
シャーク:今から帰るけど何か要るモンあるか?
シャーク:……「パルフェ」のドーナツ?
シャーク:いいけどよ、お前また一人で全部食いやがったら殺すからな。
シャーク:おう、じゃーな。

 通話を切るシャーク。
 喧騒がだんだんと近づいてくる。

シャーク:ちっ、うるせぇな。
シャーク:ギャーギャー騒ぎやがって、どこの馬の骨だ……。

 何者かが民家の屋根の縁から跳び、シャークの目の前に着地する。

ベレッタ:よいしょォ! うっし、ナイス着地。
シャーク:あっぶねぇなコラ!
シャーク:どこから飛んできてんだ、てめぇ!
ベレッタ:いッ! す、すみません、その、急いでたモンでして……!

 必死に謝る女性の顔を見て何かに気づくシャーク。

シャーク:……あ? お前……?
ベレッタ:し、失礼しますッ!
シャーク:待て! そのツラ……。
ベレッタ:は、はぁ。
ベレッタ:どこかでお会いしました?
シャーク:「不運(アンラック)」!
ベレッタ:違います。
シャーク:嘘つけ!
ベレッタ:全然、全くもって違います。
ベレッタ:人違いッス。カンベンしてください。
シャーク:見間違うワケねぇだろ。
シャーク:殺されかけてんだぜ、こっちは。
ベレッタ:え……。あ、あぁ!
ベレッタ:シャークさんッスか! 奇遇ッスね。
シャーク:相変わらずふざけた巡り合わせだな、おい。
シャーク:いつかの続きでもやりに来たか?
ベレッタ:いやいや、私今日はオフなんで。
シャーク:奇遇だな、あたしもだよ。
ベレッタ:って、それどころじゃないんスよ!
ベレッタ:じゃシャークさん、失礼します!

 素早く走り去っていくベレッタ。

シャーク:おい待て!
シャーク:聞きたいことがあんだよ、てめぇには!

 すかさず後を追うシャーク。

ベレッタ:また今度にしてくれないッスか?
シャーク:生憎だがてめぇとそこまでフランクな間柄になりたくねぇ!
ベレッタ:じゃあ諦めてください!
シャーク:ふざけんな!
シャーク:待てっつってんだよ!
ベレッタ:参ったなぁ、もう……。

 しばらくの間、逃げ続けるベレッタと後を追うシャーク。
 やがて息を切らしたシャークが追いつく。

シャーク:ハァッ、ハァッ……。
ベレッタ:わっ、すごいッスね。
ベレッタ:完全に撒(ま)くつもりだったのに。
シャーク:ナ、めんじゃねぇよ……。
シャーク:くそっ、逃げ足もケタ違いかよ、てめぇ……。
ベレッタ:逃げ足には自信あるッスよ。
ベレッタ:さて、やっこさんたちは諦めてくれたかな。
シャーク:何なんだよ、あいつらは。
ベレッタ:うーん、どうもえらい恨み買っちゃったみたいで……。
シャーク:はぁ?
ベレッタ:いえね、仕事だったんスよ。
ベレッタ:新興勢力でめっちゃ伸びしろあるマフィアのボスがマトだったんスけど……。
ベレッタ:ほら、ファミリーって言うんですかね、身内の繋がりがすげぇ強くて。
ベレッタ:ボスの仇っつって、組員の人たちが血眼で私を追ってるみたいなんス。
ベレッタ:しょうがないじゃん、こっちも仕事だったんだからさぁ。
シャーク:……一人でマフィア丸ごと相手してんのか?
ベレッタ:ボスだけ殺(と)って、さっさとトンズラしたんスけど、今日幹部の人にばったり会っちゃって……。
ベレッタ:気が付いたら囲まれてたッス。あはは。
シャーク:どんだけツいてねぇんだよ。
ベレッタ:言葉もないッス……。
シャーク:まぁいい。
シャーク:とにかく聞きたいことがあるって言ったよな。
シャーク:てめぇ、先生……その、ウルフとはどういう……。
ベレッタ:ッと、伏せて!

 銃声が響き、壁に銃弾が当たる。

シャーク:……ちっ、追い付かれてるじゃねぇか。
ベレッタ:ッスね。やっぱ気合い入ってるなぁ。
シャーク:言ってる場合かよ。やるんだろ?
ベレッタ:気は進まないッスけどね。
シャーク:さっさと片付けるぞ。

 銃を抜くシャーク。

ベレッタ:シャークさん、手伝ってくれるんスか?
シャーク:代わりに質問にはきっちり答えてもらうからな。
ベレッタ:了解ッス。いやぁ、ありがたいなぁ。
シャーク:おら、行くぞ!

 追手に応戦する2人。
 銃撃戦が繰り広げられる。

ベレッタ:(……とまぁ、こんな感じで現在に至る、と。)
ベレッタ:(まさか、こんな形でシャークさんと組んでドンパチすることになるなんてなぁ。)
ベレッタ:(でも何ていうのかなー……。)
ベレッタ:(この人、前にルージュ姉さんとこのカフェでやり合った時よりも……。)

シャーク:ふん、気合いだけだな。
シャーク:見掛け倒しかよ。
ベレッタ:シャークさん。
シャーク:あ?
ベレッタ:何か、こないだ私とやった時とは別人みたいッスね。
シャーク:どういう意味だよ。
ベレッタ:めちゃくちゃ冴えてるじゃないッスか。
ベレッタ:まぁ、私が偉そうなこと言えた立場じゃねッスけど……。
シャーク:どけッ、後ろだ!

 ベレッタの背後に潜んでいた敵を倒すシャーク。

ベレッタ:あ、ありがとうございます。
シャーク:まだいるぞ。気ィ抜くなよ。

ベレッタ:(ああ、なるほどなぁ。)
ベレッタ:(この人は、あれだ。)
ベレッタ:(守る人がいると強くなるんだ。)
ベレッタ:(あんまり見ないタイプだなぁ。)
ベレッタ:(不思議なもんッスねぇ。ついこの間はタマの取り合いしてたってのに。)

 やがて銃撃が止み追手の姿も見えなくなる。
 シャークが銃を収める。

シャーク:……やっと静かになったな。
ベレッタ:あれれ、よかったんスかシャークさん。
ベレッタ:得物しまっちゃって。
シャーク:あ? 何でだよ。
ベレッタ:このまま私があなたを狙ったらどうするんスか。
シャーク:……今日はオフなんだろ。
ベレッタ:ふふ、ごもっともで。
シャーク:それに殺気も感じねぇ。
シャーク:やる気ないんだろ。
ベレッタ:はい。と言いますか、もうシャークさんたちは私のマトじゃないッス。
シャーク:どういうことだよ。
ベレッタ:ウチのマネージャーの指示でキャンセルになりました。
ベレッタ:どうも依頼者がキナ臭いって言ってましたねぇ。
ベレッタ:何か、めっちゃ同業者狩り進めてるみたいッスよ。
ベレッタ:割に合わないのなんのって。
シャーク:……そりゃ賢明だな。
ベレッタ:何考えてるんスかね。
ベレッタ:そんなことして得になるのかなぁ。
シャーク:さぁな。あたしらには理解の及ばねぇ、ご大層な目的があるんだろうよ。
ベレッタ:いやでも良かったッス。
ベレッタ:前にも言ったッスけど、シャークさんたち相手は荷が重すぎたッスから……。
シャーク:よく言うぜ、化けモンみてぇな腕しといてよ。
シャーク:同業はてめぇに狙われたらゲームオーバーっつって口揃えてるらしいじゃねぇか。
シャーク:ムカデから聞いたぜ。
ベレッタ:みたいッスねぇ……。
シャーク:カタギ殺(や)るより、よほど名が通るからな。
ベレッタ:いやいや、殺(や)ってないッスよ!
シャーク:何だと?
ベレッタ:私、マト以外は殺(と)らないようにしてるんス。
ベレッタ:無駄に恨み買いたくないじゃないッスか。
シャーク:お前……一人も殺(や)ってないのか?
シャーク:さっきの騒ぎの中も?
ベレッタ:はい。急所は外してますよ。
シャーク:……はッ、つくづく化けモンだな。
ベレッタ:でも、それ言うとシャークさんもでしょ?
シャーク:ああ?
ベレッタ:殺してなかったじゃないッスか、一人も。
シャーク:ちっ、よく見てんな。
ベレッタ:優しいんスね! 
ベレッタ:もっとおっかない人かと思ってたッス。
ベレッタ:いっつも眉間にシワ寄ってるし……。
シャーク:ぶっ殺すぞ。
ベレッタ:じょ、冗談ッスよぉ。

 会話をしているシャークとベレッタを陰から狙う敵が一人。
 銃声が響く。

シャーク:ッ!
ベレッタ:やっべ、まだいた……!?

 陰から狙っていた敵が倒れる。
 対角から静かに姿を現す一人の男。

シャーク:あ、あんた……。
ウルフ:気を抜きすぎだ。
ウルフ:敵の数を把握していないうちは銃を下げるな。
シャーク:せ……先生。
ウルフ:全く騒がしい。静かに仕事ができないのか、お前は。
ベレッタ:ダーリーン! 助かったッス!
ベレッタ:気ィ抜いてたワケじゃないッスよ。
ベレッタ:きっとダーリンが来てくれると思って。
ウルフ:済んだのなら帰るぞ。
ベレッタ:うっす!
ベレッタ:あっ、でもいいんスか?
ベレッタ:シャークさんが……。
ウルフ:構わん。

 踵を返すウルフ。それに追従し、その場を後にしようとするベレッタ。

シャーク:ま……待て! 待てよッ!

 ウルフの足が止まる。

シャーク:待ってくれよ、先生……。
シャーク:一言もなしかよ。
シャーク:そりゃねぇんじゃねぇか。
ウルフ:……。
シャーク:あんたにも聞きたいことが山ほどあんだよ。
シャーク:これも巡り合わせだろ。付き合ってもらうぜ。
ウルフ:……こいつの「不運」がうつったかな。
ベレッタ:あ、私ッスか、はは。
シャーク:生きてたんだな。
シャーク:まぁ、死ぬタマじゃねぇとは思ってたけどよ……。
シャーク:今まで何してたんだよ。
シャーク:何でそいつとツルんでんだ?
シャーク:「ブージャムには関わるな」ってのはどういう意味だよ。なぁ!
ウルフ:質問は一つに絞れ。
ベレッタ:そうッスよぉ、落ち着いてください、シャークさん。
ベレッタ:ダーリンは……。
シャーク:ダーリンっての、何なんだよッ!

 シャークの大声が響く。
 つかの間の沈黙。

ウルフ:……やれやれ、うるさくてかなわんな。

 ウルフの足が再び動き出す。

シャーク:おい、待てって言ってんだろ!
シャーク:ちゃんとあたしの目を見ろよ、先生ッ!
ウルフ:歩きながら話す。
ウルフ:誰が聞き耳を立てているかわからん。
シャーク:……くそっ、逃げんじゃねぇぞ!

 ウルフの背中をシャークが追う。
 その様子を眺め、頬を掻くベレッタ。

ベレッタ:あれ。何だろこれ。
ベレッタ:……修羅場ってやつ?

 数分後。
 人気の少ない通りを歩いていく2人に会話はない。
 重苦しい空気を感じながら手持ち無沙汰な様子のベレッタ。

ベレッタ:(うーん……気まずい。)
ベレッタ:(お二人さん全然喋んないし……何なのこれ。)
ベレッタ:(っていうか、前から気になってたッスけど……この二人ってどういう関係なんだろ。)
ベレッタ:(ダーリンってば自分の話全然してくれないんだもんなぁ……。)

 なおも沈黙が続く。

ベレッタ:(あぁ……とにかく何でもいいから喋ってぇ……!)
ベレッタ:(空気の重さに耐えられないッス……。)

 ようやくシャークが口を開く。

シャーク:……なぁ。
ウルフ:何だ。
シャーク:いい加減何か話してくれよ。
シャーク:散歩しに来てんじゃねぇんだぜ。
ウルフ:元来、お前と話をするつもりはなかったんだがな。
シャーク:じゃあ何で助けたんだよ。
ウルフ:ビジネスパートナーを助けただけだ。
シャーク:それって……あいつのことか。
ウルフ:そうだ。
ベレッタ:へへ……どもども。
シャーク:何だって「不運(アンラック)」なんかと手ェ組んでんだよ。
シャーク:必要ねぇだろ、あんたには。
ウルフ:こいつは強さにおいては規格外のものを持っている。
ウルフ:だが殺し屋としての身の振り方を全く知らん。
ウルフ:今日のことでわかっただろう。
ベレッタ:返す言葉もないッス……。
ウルフ:俺は目的の為に、こいつは殺し屋としての基盤を確立させる為に、利害が一致している。
ウルフ:それだけだ。
ベレッタ:そうそう。そういうことッス。
シャーク:……ブージャムを殺(と)るのがそこまでのシノギだってのか。
ウルフ:そうだ。
ウルフ:奴もまた規格外の存在。
ウルフ:手段を選んでいる余裕はない。
シャーク:あんたがそこまでする必要あんのか?
ウルフ:……。
シャーク:らしくねぇぜ先生。
シャーク:合理的じゃねぇよ。
シャーク:金の為ならもっと良いやり方があるだろ。
ウルフ:ふっ、お前に合理性を問われるとはな。
シャーク:茶化すなよ!
ウルフ:これ以上話すことはない。
ウルフ:シャーク、お前は……。
シャーク:先生! 目ェ見て話せって言ってんだろ!
シャーク:昔っからそうだ、あたしのことなんか見えてねぇみたいに……。
ウルフ:……。
シャーク:もうガキ扱いはやめろよ。
ベレッタ:あのォ、シャークさん。
シャーク:あ?
ベレッタ:ダー……ウルフさんは巻き込みたくないんスよ、シャークさんを。
シャーク:何だと……。
ウルフ:余計な口を挟むな。
ベレッタ:だってもーこのままじゃ堂々巡りっしょ!
ベレッタ:いいッスか、ブージャムを殺(と)るってのはそういうことッス!
ベレッタ:優しい人なんスよ、ダー……ウルフさんは!
シャーク:い、意味わかんねぇよ!
シャーク:てめぇには聞いてねぇ!
ベレッタ:全く、わかんないッスかねぇ。
ウルフ:お喋りが過ぎると言われたことはないか。
ベレッタ:うっ……。
ウルフ:こいつのざれ言はともかく、ブージャムは殺(と)らねばならない。
ウルフ:奴の思想と計画は相当に根深い。
ウルフ:そしてそれを実現しうるだけの力がある。
ウルフ:業界全体の情勢を揺るがしかねない。
シャーク:……。
ウルフ:俺たちが殺し屋として在る為に奴は邪魔だ。
シャーク:はッ、やっぱり金は関係ねぇじゃねぇか。
ウルフ:結果としては同じことだ。
シャーク:まぁ理由なんざどうでもいい。
シャーク:そんなでけぇシノギならあたしも一枚噛ませろよ、先生。
シャーク:ブージャムの野郎にはあたしも世話になってんだ。
ウルフ:駄目だ。
シャーク:な、何でだよ。
シャーク:あたしの腕じゃ不満だってのか。
ウルフ:言ったはずだ。「関わるな」と。
シャーク:だから、ちゃんとワケを言えってんだよ!
シャーク:まだガキ扱いする気か、あんた……。
ウルフ:そうじゃない。
ウルフ:お前はもう、一端(いっぱし)の殺し屋だ。
シャーク:……!
ウルフ:だからこそ俺の影を追うのはやめろ。
ウルフ:視野を狭めるな。
ウルフ:お前はお前の仕事をこなせ。

 思いもよらぬ言葉に目を伏せるシャーク。

シャーク:……ずりィよ、先生。
ウルフ:もう師ではないと言っているだろう。

 その場に立ち尽くし、顔を上げられないシャーク。
 ウルフは構わず歩き去っていく。

ベレッタ:いいんスか? 置いてっちゃって。
ウルフ:構わん。
ベレッタ:あーあ、何か後味悪いなぁ。
ウルフ:……仲間がいる。
ベレッタ:え?
ウルフ:ビジネスパートナーとは違う。
ウルフ:信頼に足る仲間がすでにあいつにはいる。
ウルフ:支えになるだろう。

 ウルフの言葉に笑みを浮かべるベレッタ。

ベレッタ:やっぱ優しいッスね。

 顔を上げるシャーク。

シャーク:……おい、先生ッ!

 放たれた大きな声に、先を歩いていた2人が振り返る。

シャーク:あたしは勝手にやるからな! 文句は言わせねぇぞ!
シャーク:ブージャムをぶっ殺すのもあんたの鼻を明かすのも、あたしの自由だろ。

 ベレッタを睨みつける。

シャーク:てめぇも良い気になんじゃねぇぞ「不運(アンラック)」!
シャーク:次にてめぇのツラ見かけた時は弾みで殺しちまうかもしれねぇからよ。覚悟しとけ!

 啖呵を切るシャークに対し、小さく息をつくウルフ。

ウルフ:……やれやれ、身勝手だけは一級品だ。
ベレッタ:ははッ、お手柔らかにお願いします!
ベレッタ:また会いましょ、シャークさん!

 朗らかに手を振るベレッタ。
 2人の姿が小さくなっていく。

 歯を噛み締め、悔しげに踵を返すシャーク。
 同時に懐で携帯に着信が入る。
 乱雑に応答する、

シャーク:ああ!? 何だよムカデ!
シャーク:……ドーナツだぁ!?
シャーク:うるせぇな、それどころじゃなかったんだよ!
シャーク:……はぁ!? 泣いてねぇよクソが!
シャーク:帰ったらマジでぶっ殺すからな、お前!
シャーク:あぁもう、わかったから黙って待ってろ!
シャーク:切るぞ!

 ぶっきらぼうに画面がタップされ通話が終了する。
 なおもシャークの怒りは収まらない。

シャーク:……くっそォォ! 
シャーク:どいつもこいつもナメやがって!

 怒号に驚いた数人の通行人が恐れ、離れていく。
 苛立つ足取りで開けた通りを進むシャーク。


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