見出し画像

デッドエンドの彼方

【タイトル】
「デッドエンドの彼方」
殺し屋シリーズ・1部14話(最終話)

【キャスト総数】
5(男:1 女:4)

【上演時間】
30〜分

【あらすじ】

炎が全てを燃やし尽くしたあの夜。
誰の耳にも届かぬ戦いは夜明けとともに幕を閉じた。

街は何も変わらずに廻り続ける。
彼女の慟哭も、胸に聳えた壁の大きさも素知らぬように。

しかし「行き止まり」には先があった。
壁を越えた先に何があるかは、
誰にもわからない。

両隣には二人の仲間。
仲間たちが彼女の背中を押す。

止まらぬ鮫は街を行く。
これは一発の銃声から始まった物語。

【登場人物】
・シャーク(女)
3人組(チーム)で仕事を行う殺し屋。
荒っぽい言動が目立つ。

・センチピード(女)
3人組(チーム)で仕事を行う殺し屋。
ゲーム好き。

・ブルズアイ(女)
3人組(チーム)で仕事を行う殺し屋。
色男には目がない。

・イヴァン(男)
総合武器商社社長。
シャークたちによく仕事を頼んでいる。

・ベアトリス(女)
「ベアトリス・“クイーン”・ディアロ」。
巨帯都市(メガロポリス)を統べる現・市長。

【本編】
センチピード:(出会いは最悪だったわね。)
センチピード:(口は悪い、人の話は聞かない、仕事は雑。)
センチピード:(今でこそ少しはマシになったけど、あの時は同業とは思いたくなかったわ。)
センチピード:(虚勢を張るだけのチンピラと何ら変わらない。)
センチピード:(私たち、別々の仕事で同じマトを狙ってたの。)
センチピード:(とんだ偶然もあるものね。)

 過去の情景が蘇る。
 お互いが仕事の最中であるシャークとセンチピード。
 2人がいがみ合いながら身を隠している。

シャーク:見逃してやるからとっとと帰れ。
センチピード:そっくりそのまま返すわ。
センチピード:邪魔しないでもらえる?
シャーク:良い度胸だなァ、オイ。
シャーク:最近会ったツラの中じゃ骨がありそうだ。
シャーク:何モンだよてめぇ。
センチピード:不用意に素性は明かすものじゃないわよ。
センチピード:あなたもそう思わない? シャークちゃん。
シャーク:な、何であたしの名前……。
センチピード:情報は銃に勝る武器になることもあるの。
センチピード:近頃随分と名を上げてるみたいじゃない。
シャーク:知るかよ。味気ねぇシノギばっかで退屈してるところだ。
センチピード:足元すくわれないようにね。

 先へ進んでいくセンチピード。

シャーク:おい、待てよ!
シャーク:邪魔すんなら殺すぞ。
センチピード:金にならない殺しなんてするの?
シャーク:んだとてめぇ……。

センチピード:(まるで弱さを隠す為に牙をむく。そんな感じだった。)
センチピード:(今思うと先生に追いつきたくて必死だったんでしょうね。)
センチピード:(危なっかしくて余裕もない。)
センチピード:(……ああでも、変わらないものもひとつだけあった。)

シャーク:……チッ、余計なことしやがって。何なんだよてめぇは。
センチピード:ご挨拶ね。死にたがりなの、あなた?
シャーク:あの程度物の数じゃねぇだろうが。
シャーク:硝煙なんざ野暮な真似しやがる。
センチピード:全員相手にするつもりだったわけ?
センチピード:全く、穏便にいきたかったのに。
センチピード:無駄に騒ぎを大きくしてくれて良い迷惑だわ。
センチピード:もっと合理的に仕事しなさいよ。
シャーク:うぜぇな、関係ねぇだろ。ほっとけ!
センチピード:関わるつもりないけど、あなたがついてくるんじゃない。
シャーク:あたしもこっちに用があんだよ!
センチピード:ハイハイ、わかったってば。
センチピード:さてルートは、と……。

 ルートマッピングを終えたスマホの画面を覗き込むセンチピード。
 背後の影から現れた敵が銃を構える。

シャーク:ッ! どけ馬鹿、後ろだ!
センチピード:!

 すかさずシャークが発砲。
 狙っていた敵を仕留める。

シャーク:ったく、迂闊だな。
シャーク:スマホばっか見てんじゃねぇよ。
センチピード:……よく気付いたわね。
シャーク:目が利くんでな。

 歩き出すシャーク。
 並ぶようにセンチピードも先へ進む。

センチピード:ねぇ。
シャーク:何だよ。
センチピード:この際、先に殺(と)った方の手柄ってことでどう? 後腐れなく。
シャーク:……ふん、別にいいぜ。
センチピード:うらみっこなしよ、シャークちゃん。
シャーク:舐めた口利いてんじゃねぇぞ、この……。
センチピード:センチピードよ。さ、ゲームスタート。
シャーク:チッ、てめぇこそ足元すくわれねぇように気をつけろ。ムカデ女が。

センチピード:(背を預けると途端に強くなるのよね。)
センチピード:(それだけは今も昔も変わらない。)
ブルズアイ:(あはは、シャークちゃんのそういうとこ好きだわぁ。)
ブルズアイ:(それから組み始めたんだっけ? あなたたち。)
ブルズアイ:(私と最初に会ったのは「デッドエンド」だったわよねぇ。)
ブルズアイ:(そう言えばあの時も喧嘩してたわね。)
ブルズアイ:(私は確かカウンターで一人で飲んでて……。)

 過去の情景が蘇る。

 バー「デッドエンド」。
 一人、カウンターでグラスを傾けるブルズアイ。

ブルズアイ:結局カタギの男が首を突っ込んでいい世界じゃなかったってことよねぇ。
ブルズアイ:その男、尻尾まいて逃げてそれっきりよ。
ブルズアイ:ひとつ学んだわぁ。
ブルズアイ:仕事ができるのと男の価値はイコールじゃないわね。
ブルズアイ:ハァ、マジで見る目ないんだからあの子……。

 物憂げに頬杖をつくブルズアイ。
 近くの席から口論する声が聞こえてくる。

センチピード:だから馬鹿の一つ覚えみたいに突っ込むのやめてって言ってるでしょ。
シャーク:あのまま籠城しても埒が明かなかっただろうが。
シャーク:イモ引いてんじゃねぇぞ。
センチピード:素人じゃないんだからもっと頭使いなさいよ。
センチピード:何、心配してほしいの?
シャーク:ぶっ殺すぞ。
シャーク:てめぇこそ暇さえありゃゲームしてんじゃねぇよ!
シャーク:舐めてんのはそっちだろ!
センチピード:別に迷惑かけてないじゃない。
センチピード:あ、ごめんクエスト始まる。
シャーク:ふざけんな、こっち向けコラァ!

 口論をする2人の元へ近づいていくブルズアイ。

ブルズアイ:ハァイ、楽しそうねぇあなたたち。
シャーク:あ? 何だてめぇ、見世モンじゃねぇぞ!
ブルズアイ:えーこわぁっ。
ブルズアイ:もーカッカしてないでさぁ。
ブルズアイ:良かったら一緒に飲まない?
ブルズアイ:同業で女の子の二人組って珍しくてさぁ。
ブルズアイ:女子会しよ、女子会。
シャーク:その前に質問に答えろ。
シャーク:何モンだって聞いてんだぜ、あたしは。
センチピード:ブルズアイ。
ブルズアイ:せいかぁい。よろしくね。
シャーク:知ってんのかよ。
センチピード:逆に知らない方がおかしいわよ。
センチピード:「ルージュとブルズアイ」、有名人よ。
シャーク:知らねぇよ。
センチピード:あなた本当に殺し屋?
ブルズアイ:まぁまぁ私のことなんてどうでもいいじゃない。
ブルズアイ:2人ともお姉さんが好きなもの奢ってあげるわよ。
ブルズアイ:ほらぁ遠慮しないで。
センチピード:何だか思ったより気さくなのね……。
ブルズアイ:何がいーい?
シャーク:カルアミルク。
ブルズアイ:かぁわいいー!
シャーク:殺すぞてめぇ!
センチピード:ねぇ、そっちこそ相棒は一緒じゃないの?
ブルズアイ:あぁそれ、よく聞いてくれたわぁ。
ブルズアイ:もうねぇ、散々なのよマジで。
ブルズアイ:ちょっと聞いてくれるぅ? 実はさぁ……。

センチピード:(……「ちょっと」どころじゃなかったわね、あなたの話。)
ブルズアイ:(ごめんねぇ、盛り上がっちゃって。)
センチピード:(シャークの酒癖の悪さもあの時初めて知ったわ。)
ブルズアイ:(ウルフちゃんの話ばっかりしてたわねぇ。)
センチピード:(素直じゃないんだから。)
ブルズアイ:(そこも可愛いところじゃない。)
センチピード:(……素直になられても気持ち悪いけどね。)

シャーク:(あいつらと出会った時の夢を見た。)
シャーク:(撃たれた足と火傷の痛みで気を失うように眠りに落ちた後だ。)
シャーク:(どんなに昔を懐かしんでも今は変わらねぇ。)
シャーク:(何ひとつ変わらねぇんだ。)

 「デッドエンド」での戦いの後。
 路地裏に建つ小さな闇医者の診療所。

 負傷したシャークがベッドに腰掛けている。
 傍らに立つセンチピードとブルズアイ。

センチピード:目、覚めたのね。
シャーク:……ああ。
ブルズアイ:大丈夫? シャークちゃん。
シャーク:問題ねぇ。あんたこそ平気なのかよ。
シャーク:派手にやったみてぇじゃねぇか。
ブルズアイ:平気平気。見た目より大したことないわ。
シャーク:……そうか。
センチピード:シャーク。

 目を伏せるシャーク。
 ぽつりと言葉がこぼれる。

シャーク:ムカデ……。お前、姉貴が……。
センチピード:……。
シャーク:悪ィ。あたしも加勢しておけば……。

 小さく息をつくセンチピード。

センチピード:ホントあなたって。
シャーク:?
センチピード:素直じゃないわね。
シャーク:な……何だよ。
センチピード:強がらなくていいから。
センチピード:よくやったわ、あなたは。
シャーク:……。
センチピード:私たちの前くらいは素直になりなさい。

 伏せた目から涙が落ちていく。

シャーク:……何も……何もできなかった。
シャーク:あたしは……ちくしょう……ッ。
センチピード:……馬鹿ね。

 センチピードの頭に優しく手が置かれる。

ブルズアイ:素直じゃないのはお互い様でしょ、ムカデちゃん。
センチピード:私は別に……。
ブルズアイ:ほら。

 センチピードとシャークをそっと抱き寄せるブルズアイ。

センチピード:ちょ、ちょっと……。
ブルズアイ:あなたがいなかったら私もルージュも死んでたわ。
センチピード:……。
ブルズアイ:感謝してる。

 ブルズアイの腕の中、二人の目から涙が頬を伝わっていく。

ブルズアイ:……ありがとう。

センチピード:(殺し屋に失ったものを数える資格はない。)
センチピード:(それ以上に奪ってきたものの重さが計り知れないから。)
ブルズアイ:(そうね。だからこそ分け合えば少し軽くなるでしょう?)
ブルズアイ:(立ち止まった時は待ってあげるし背中も押してあげるわ。)
センチピード:(ええ。チームだもの、私たち。)

シャーク:(今は変えられねぇが、先のことはわからねぇ。)
シャーク:(腐るのも這い上がるのもあたし次第だ。)
シャーク:(だがあたしは一人じゃねぇ。)
シャーク:(月日が流れてもそれは変わらねぇんだ。)

 ――時は流れ。
 武器商社であるイヴァンの事務所。

 屋外では銃声が鳴り響いている。
 警戒しつつ窓際から外の様子をうかがうイヴァン。
 応接用のソファに腰掛け、カップを傾けているのは市長であるベアトリス。

ベアトリス:そこで私はこう言ってやったのさ。
ベアトリス:「耳ざわりの良い言葉を並べ立て大衆を甘い蜜の巣に誘ったところで、あなたがコツコツと積み上げてきた猜疑心(さいぎしん)の歪(ひずみ)は膨れ上がる一方だ。保身に頭を巡らすよりもまずはその二枚舌をしまってはいかがでしょう?」ってね。
ベアトリス:いやぁ痛快だった。あの時の彼の表情、今思い出しても笑えるよ。
ベアトリス:写真に撮って額縁に飾りたいくらいだ。
イヴァン:そうかい。そりゃあ傑作だな。いい趣味してるぜ。
ベアトリス:だろう? 全く、大した覚悟もなく肩書きだけを誇示する輩が多くて困る。
ベアトリス:私も暇じゃないんだ。
イヴァン:うちでコーヒーブレークする余裕はあるんだな、市長さんよ。
ベアトリス:相変わらず君の淹れるコーヒーは絶品だよ、イヴァン。
ベアトリス:こんな物騒な商売は辞めてカフェでも開いたらどうだい。
イヴァン:ったく、お前こそ変わらねぇな。
イヴァン:その鼻につく喋り方と態度。敵が多そうだ。
ベアトリス:はは、君がそれを言うかい。
ベアトリス:最近は事務所の修繕費用が経費を圧迫してるそうじゃないか。
イヴァン:うるせぇな、必要経費だ。
イヴァン:何でうちの内部事情まで知ってやがる。
ベアトリス:ふふ、市長だよ、私は。
イヴァン:おっかねぇことで……。

 楽しそうにカップを傾けるベアトリス。

イヴァン:それで本当のところ何の用で来たんだ?
イヴァン:コーヒーの為だけにこんな辺鄙(へんぴ)な所まで来るめぇよ。
イヴァン:SPも付けてねぇところを見るに、表立った話じゃねぇだろ。
ベアトリス:さすがご明察だ。
ベアトリス:まぁ、昔馴染みの顔が見たくなったのは本当だよ。
イヴァン:口説いても無駄だぜ。
イヴァン:こう見えて妻一筋だからな、俺は。
ベアトリス:それは残念。君のたくましい腕に抱かれてみるのも悪くないんだがね。
イヴァン:大したタマだぜ、お前……。
ベアトリス:さておき、用としては君の飼っている3人組のお嬢さん方に会いにきたんだ。
イヴァン:あいつらに? 別に飼っちゃいねぇよ。
イヴァン:暇そうにしてるもんだから仕事を頼んでやってるだけだ。
ベアトリス:ほう、それなら都合が良い。前々から気にはなっていたんだ。
ベアトリス:何でも美女ぞろいだとか。ふふ、楽しみだ。
イヴァン:そろってじゃじゃ馬だぞ。
イヴァン:まぁ、少し待ってろ。今表でドンパチしてるからよ。
ベアトリス:また費用がかさむんじゃないのかい?
イヴァン:ほっとけ。

 銃声が止む。

ベアトリス:……おや、音が止んだね。
イヴァン:ああ、終わったみてぇだな。

 やがて3人組が事務所に入ってくる。

センチピード:私の勝ちね。じゃ、「パルフェ」のドーナツよろしく。
シャーク:待て、てめぇ! 最後のはあたしが殺(と)っただろうが!
センチピード:はぁ? 目の良さだけが取り柄じゃなかったっけ、あなた。
センチピード:どう見ても私でしょ。
シャーク:んなわけねぇだろ!
シャーク:おいブルズアイ、見てたよな?
ブルズアイ:ごめぇん、わかんない。
ブルズアイ:っていうか一番は私なんだし、奢ってよぉ、ドーナツ。
シャーク:ふざけんな、あんたは参加してねぇだろ!
ブルズアイ:えー、ずるーい。

 手を上げ、3人を迎えるイヴァン。

イヴァン:おう、ご苦労だったなお前ら。
シャーク:旦那ァ、日に日にカチコミの数増えてんじゃねぇか。
シャーク:あたしらがいなかったらどうすんだよ。
イヴァン:余計な気は回さなくていい、何とかなる。
センチピード:今日の分もきっちり上乗せ、よろしくね。
イヴァン:わかってるよ。それよりお前らに客だ。
シャーク:ああ? 客?

 朗らかに手を広げるベアトリス。

ベアトリス:やぁ、初めましてお嬢さん方!
ベアトリス:お会いできて光栄だ。
シャーク:……誰だこいつ。
ブルズアイ:カタギよねぇ。どっかで見たことある顔だわぁ。
センチピード:多分メディアね。
センチピード:市長よ、市長。メガロポリスの「クイーン」。
ベアトリス:おや、ご存じとは嬉しいな。
ベアトリス:どこの馬の骨ともわからない男に覚えられるよりよほど胸が躍る。
ベアトリス:いかにも、市長のベアトリスだ。よろしくね。
センチピード:……変な人。
シャーク:で、市長殿がこんな不景気な所まで何の用だよ。
イヴァン:オイ、口にゃ気を付けろ?
ベアトリス:端的に言うと君たちに会いにきたんだ。
シャーク:人違いじゃねぇのか?
シャーク:お偉いさんと関わり合いになれる身分じゃねぇぞ、あたしらは。
ベアトリス:そんなことはない。
ベアトリス:私はね、君たち「殺し屋」こそ、今の社会には必要不可欠な存在であると考えている。
ブルズアイ:あら、問題発言じゃない今の?
センチピード:そうね。あまり良い噂は聞かないわよ、市長。
ベアトリス:ふふ、言い方は悪いかもしれないが「毒を以て毒を制す」だ。
ベアトリス:私が長である限り、街の平定と発展の為には手段は選ばないと決めている。
ベアトリス:そうやってここまで上ってきたんだ。
ベアトリス:綺麗事などは犬に食わせているよ。
シャーク:はッ、あんたみてぇのがトップとは世も末だな。
ベアトリス:話が逸れたね。本題に入ろうか。
ベアトリス:君たち、私の元で働くつもりはないかい?
ベアトリス:無論だけどペイに関しては弾むよ。
シャーク:またこの手の話かよ……。
センチピード:市長が直々に殺し屋をスカウトとはね。
センチピード:政界の闇を目の当たりにしてる気分だわ。
ブルズアイ:お目が高いじゃない。悪い気はしないわねぇ。
ベアトリス:個人的な話だが最近優秀なビジネスパートナーを失ってしまってね。
ベアトリス:全く、失くすには非常に惜しい人材だった。
ベアトリス:ゆえに腕利きを募っているところなんだ。
ベアトリス:美人とあらばこの上ない。
ブルズアイ:ハァ、あなたが良い男だったらねぇ……。
ブルズアイ:ときめいてあげたんだけど。
ベアトリス:どうだい? 悪い話ではないと思うが……。
シャーク:お断りだ。

 きっぱりと突っぱねるシャークに対し目を丸くするベアトリス。

ベアトリス:……参ったなぁ、即答とは。
シャーク:悪ィが他を当たってくれ。
シャーク:お偉いさんの下につくなんざ、まっぴらだ。
ブルズアイ:リーダーがそう言うんじゃねぇ。
ブルズアイ:それにほら、私らにはイヴァンちゃんがいるし。
イヴァン:お前らな、俺もお偉いさんだからな?
イヴァン:わかってんのか。社長だぞ俺は。
センチピード:右に同じ。権力者の泥仕合(どろじあい)に関わる気はないわ。
センチピード:ちなみに私はあなたをリーダーとは思ってないからね。
シャーク:あ?
ベアトリス:あはは、なるほど。実に明快だ。
ベアトリス:残念極まるが、不思議と悪い気はしない。
ベアトリス:それくらい自分本位でなければ務まらないだろう。
ベアトリス:全く羨ましいよ、イヴァン。
ベアトリス:魅力的な子たちじゃないか。
イヴァン:別に持っていってもいいぞ。
ブルズアイ:あっ、ひどぉいイヴァンちゃん!
ブルズアイ:私というものがありながら!
イヴァン:うるせぇな、俺は愛妻家で通ってんだよ!
イヴァン:ビッチはお呼びじゃねぇ!
ブルズアイ:釣れないこと言わないでさぁ、今夜どう?
イヴァン:疲れてんだよ、俺は。ここんとこ寝不足なんだ。
イヴァン:マッサージなら頼んでやってもいいぞ。
ブルズアイ:あ、得意よぉ私。
ブルズアイ:気持ちよくしてあげる。
イヴァン:……やっぱいいわ。

 表で銃声が聞こえる。
 窓際で外を確認するシャーク。

シャーク:オイ、旦那ァ。また残党が湧いてきてるぜ。
イヴァン:げぇッ、マジかよ!
イヴァン:頼むぜお前ら。さっさと掃除してきてくれ。
センチピード:羽振りがいいわね。さすが社長だわ。
イヴァン:わかってるってんだよ。
イヴァン:あと、ついでに「情報屋」に行ってこい。
イヴァン:何人か消してほしい奴がいる。データの準備がしてあるはずだ。
シャーク:ああ、了解だ。行くぞ。
センチピード:「不運(アンラック)」、来てるかしら。
センチピード:最近スコア上げてて生意気なのよ、あの子……。
ブルズアイ:入り浸ってるみたいよぉ。ルージュと仲良いみたいだしね。
ブルズアイ:お姉ちゃんにも愛想よくしてほしいわぁ……。

 事務所を後にする3人。

イヴァン:ふぅ、能天気な奴らだ。
ベアトリス:そうかい? 皆とても良い顔をしている。
ベアトリス:乗り越えてきたものの大きさがうかがえるね。
イヴァン:見てきたような口振りだな。
ベアトリス:年の功というやつかな。
イヴァン:んな歳でもねぇだろうが。
ベアトリス:ふふ……諦めるには惜しいな。
ベアトリス:また口説いてみるとしよう。
イヴァン:好きにしてくれ。もう俺を通すなよ。
ベアトリス:釣れないねぇ。
ベアトリス:あ、コーヒーもう一杯もらってもいいかい?
ベアトリス:この後会食なんだがどうも気分が乗らなくてね。
ベアトリス:思い出話に花を咲かせようじゃないか。
イヴァン:……お前も一緒に行ってきたらどうだ。
ベアトリス:「情報屋」かい? ああ、それも良いねぇ。
ベアトリス:店主がこれまた美人だとか……ふふ、今度顔を出してみようかな。
イヴァン:やれやれ……。

シャーク:(あの夜、炎が全てを燃やし尽くした。)
シャーク:(灰が壁になって、あたしの行く先を阻(はば)みやがる。)
シャーク:(馬鹿みてぇにでけぇ壁だ。)
シャーク:(行き止まりを前にして随分と時間を食っちまった。)
シャーク:(だが進んでいくしかねぇ。)
シャーク:(あの気持ちを置き去りにしてでも生きていくしかねぇんだ。)
シャーク:(あたしは止まれねぇ。)
シャーク:(だけど時々、疲れちまうこともある。)
シャーク:(そん時は……肩、貸してくれよ。)

 商社の敷地内。
 シャークたちの周りを敵の残党が取り囲んでいる。

ブルズアイ:さぁて、いっちょやろうかぁ。
センチピード:毎度ご苦労なことね。
センチピード:こっちとしてはいい金ヅルだけど。
シャーク:ったくどいつもこいつも遠慮もなしに得物向けてきやがって。
センチピード:今回はブルズアイも参加する?
ブルズアイ:いいわねぇ、負けないわよぉ。

 それぞれが銃を構える。

シャーク:来いよ。きっちり殺してやる。

 銃声が鳴り響く。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?