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アフターダークの脱出

【タイトル】
「アフターダークの脱出」
殺し屋シリーズ・1部7話

【キャスト総数】
5(男:1 女:4)

【上演時間】
30分

【あらすじ】
都心の摩天楼で銃声が轟いていた頃、
娼家の顔を持つクラブ「ナイトホークス」に
侵入を試みる3人組の殺し屋の姿があった。

クラブには似つかわしくない静寂に
既に死体で転がっているオーナー。

迎え撃つブージャムの右腕と配下の殺し屋たち。

軟禁された「フラッパー」の店主。

闇が濃くなるアフターダークに
それぞれの思惑が渦巻く。

【登場人物】
・シャーク(女)
3人組(チーム)で仕事を行う殺し屋。
荒っぽい言動が目立つ。

・センチピード(女)
3人組(チーム)で仕事を行う殺し屋。
ゲーム好き。

・ブルズアイ(女)
3人組(チーム)で仕事を行う殺し屋。
色男には目がない。

・ルージュ(女)
情報屋を兼ねるカフェ「フラッパー」店主。
元殺し屋。

・オウル(男)
ブージャムの右腕である殺し屋。
飄々として掴みどころがない。

【本編】
 時刻は真夜中を過ぎた頃。
 極彩色のネオンが闇を照らすクラブ「ナイトホークス」。
 建物のシルエットが視認できる位置で様子をうかがう3人組。

シャーク:あれか、ナイトホークスってのは。
センチピード:ええ、間違いないわね。
ブルズアイ:ちょっと見てぇ、あのギラギラのネオン。悪趣味ねぇ。
ブルズアイ:ムードの欠片もないわ。よくて20点ってとこかな。
シャーク:あんたの趣味の採点なんざ聞いてねぇよ。
シャーク:……とりあえず外には誰もいねぇみたいだな。
ブルズアイ:え、すごぉい、シャークちゃん。
ブルズアイ:全然見えないわ、私。
シャーク:夜目(よめ)は利くんでな。
センチピード:良い目があるのに、ロングレンジはからっきしなのよね。
センチピード:宝の持ち腐れだわ。
シャーク:うるせぇよ、ムカデ。
シャーク:で、どうする。あたしは正面から行ってもいいけどよ。
シャーク:どうせお前のことだ、中のマッピングはできてんだろ。
センチピード:もちろん。でもあんまりスマホ使いたくないのよね。
センチピード:ゲームできないし。
シャーク:中でもやる気かよ……。ホント飽きねぇな。
センチピード:じゃ、さっさと済ませましょうか。
センチピード:行くわよ。

 正面の出入り口へ歩き出すセンチピード。

シャーク:お、おい。
ブルズアイ:あら、結局正面から?
センチピード:ええ。こういうのはあえて裏をかかない方が効果的。
センチピード:それに見たところ正面が一番手薄だわ。
シャーク:んだよ、先に言っとけ。
センチピード:無駄な騒ぎはナシよ。いいわね。
シャーク:わかってるよ。
ブルズアイ:ふふ、こんな美女ぞろいならあっちも大歓迎なんじゃなぁい?
センチピード:だと良いけどね。

 数分後、「ナイトホークス」店内。
 音を殺し、奥へと進んでいく3人。
 周囲を警戒するシャークが静かに口を開く。

シャーク:……静か過ぎんだろ。
センチピード:そうね。人の気配がしない。
ブルズアイ:変ねぇ。息づかいも聞こえないし。
シャーク:何だよ、あんたは目より耳が利くのか。
ブルズアイ:甘ぁい吐息がね。
ブルズアイ:ほらぁ、こういう店って大体……。
センチピード:シッ。

 センチピードが前方に何かの気配を感じ取る。
 乾いた血溜まりに横たわる無惨な男の死体が現れる。

シャーク:おい、これは……。
センチピード:ヤレフでしょ、このおじさん。
センチピード:私たちのマトの。
ブルズアイ:あらあら、随分と楽しいパーティだったみたいね。
シャーク:何だってドタマぶち抜かれてんだ、こいつ。
シャーク:女の恨みでも買ったか。
ブルズアイ:見るからに下衆(げす)な顔してるもんねぇ。
センチピード:何にせよマトは死んでた。
センチピード:仕事にならないわね。
シャーク:ちっ、無駄足かよ。
ブルズアイ:じゃ、さっさと帰ろうよぉ。
ブルズアイ:ヤニ臭くて嫌になるわぁ、ここ。
センチピード:そうね、長居は無用だわ。

 その時奥から声が投げかけられる。

オウル:まぁ、そう言わずにゆっくりしていってくださいよ。

 咄嗟に銃口を向ける3人。
 暗がりから姿を現すオウル。

シャーク:てめぇは……。
オウル:またお会いしましたね。
ブルズアイ:あらぁ、可愛い坊や。
ブルズアイ:会えて嬉しいわ。
オウル:銃は下ろしてください。
オウル:いつかの時と同じじゃないですか。
オウル:スマートにいきましょうよ。
センチピード:今日は血の匂いがしないわね。
オウル:良い香水でしょ?
センチピード:代わりに殺気は漏れてるけどね。
オウル:はは、そんな滅相もない。
オウル:ここで争っても互いにメリットはないと思いますよ。
シャーク:じゃあ見逃してくれんのかよ。
シャーク:土足で踏み込んでんだぜ、あたしらは。
オウル:おや、僕のスカウトに乗って来てくれたんじゃないんですか?
オウル:あの「不運(アンラック)」を退けたあなたたちなら実力は申し分ない。

 怪訝な目を向けるセンチピード。

センチピード:……何でそのこと。
オウル:だって依頼したの僕ですから。
シャーク:はぁ!?
オウル:一人二人は死ぬかと思ってましたけどさすがですねぇ!
オウル:やっぱり良いですよ、あなたたち。
オウル:ぜひ、一緒に……。

 言い終わらぬうちに、一発の銃弾がオウルの頬をかすめる。

ブルズアイ:好みの顔だからあんまり傷つけたくないんだけどねぇ。
オウル:……。
ブルズアイ:次は当てるわよ。
オウル:やれやれ……どうして僕の周りはこう血の気の多い女性ばかりなんでしょうか。
センチピード:口が減らないわね。
オウル:勝ち馬には乗っておいた方がいいですよ?
オウル:いつの時代も変革の時は来る。
オウル:裏の世界も変わろうとしています。
シャーク:てめぇらが勝ち馬だってのか?
シャーク:何がしてぇんだよ、ブージャムの野郎は。
オウル:ボスは殺し屋の社会を根底から変えようとしています。
オウル:メガロポリスを「クイーン」が支配するように、殺し屋にも先導者が必要です。
シャーク:吹いてんじゃねぇよ。
シャーク:宗教の類ならヨソでやれ!
センチピード:話にならないわね。
センチピード:そちらのボスは洗脳がお得意なのかしら。
オウル:ひどい言い草だなぁ。
オウル:まぁ変革に反発は付き物ですよね。
シャーク:与太話はこの辺でいいか?
シャーク:悪ィけど用は済んだしさっさと帰りてぇんだ、あたしらは。
シャーク:やるってんなら話は別だけどよ。
オウル:ただで帰れると思ってるんですか?
オウル:せっかくいらっしゃったことですし、おもてなしさせてくださいよ。
オウル:ねぇ? 皆さん。

 暗がりから、大勢の殺し屋たちが姿を現しシャークたちを取り囲む。

シャーク:……チッ、ゾロゾロとご苦労なこったな。
センチピード:ふぅん。気配を消すのだけは上手いみたいね。
センチピード:囲まれてたの気付かなかった。
ブルズアイ:うーん……駄目ねぇ。
ブルズアイ:どの子も好みじゃないかも。
オウル:あははっ、さすがこの数を前にして肝が据わってる。
オウル:いやぁますます欲しくなりました。
オウル:花はいくつあっても美しい。
オウル:ちょうど赤い花だけじゃ物足りなかったんですよ。

 3人を順に眺めるオウル。

オウル:まとめて生けましょうか。
オウル:うん、それがいい。ますます彩りが鮮やかになりそうです。
シャーク:意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇよ。
オウル:わかりませんか?
オウル:「情報屋」という大輪咲きはもう我々のものなんです。
オウル:情報という大きな武器も、殺しのプレイヤーも、得物も、全てそろいつつある。
オウル:だからこそ勝ち馬だと言ってるんですよ。
シャーク:てめぇ、まさかルージュを……。
センチピード:道理で店が空だったわけね。
オウル:そういうわけです。
オウル:合理的にいきましょう。殺し屋ならば。

 オウルたちと3人が対峙する。
 張り詰めた空気が部屋に満ちていく。
 拮抗の中でシャークが小さく語りかける。

シャーク:……オイ、合図でバラけるぞ。
シャーク:死角に入れ。一人ずつ確実に殺(や)る。
センチピード:オーケー。数が多いし、小道具も使うわよ。
センチピード:上手く合わせて。
ブルズアイ:ストップ、2人とも。

 2人を制し前へ出るブルズアイ。

シャーク:お、おい、ブルズアイ。
ブルズアイ:こんな小物ちゃんたち、私一人で十分。
シャーク:馬鹿言ってんじゃねぇよ。
ブルズアイ:合理的にいこうよぉ。
ブルズアイ:シャークちゃんとムカデちゃんはルージュを探して。
ブルズアイ:私会いたくないしさぁ。
ブルズアイ:貸し作っといた方がいいでしょ?
センチピード:……平気?
ブルズアイ:余裕だってば。
ブルズアイ:適当に片づけて帰るわぁ。
シャーク:……ちっ、わかったよ。
シャーク:くたばんじゃねぇぞ。
ブルズアイ:誰に言ってんの?
オウル:作戦会議は終わりましたか?
ブルズアイ:行って。
シャーク:ッ!

 威嚇射撃をするブルズアイ。
 隙をつきシャークとセンチピードが包囲を抜け、店の奥へ消えていく。

オウル:ああ、追わなくていいですよ。
オウル:後でゆっくり捕まえますから。
オウル:……あなたがお相手してくれるんですか、ブルズアイさん。
ブルズアイ:ええ。色男の相手は歓迎よ。
オウル:はは。では踊りましょうか。
ブルズアイ:かかってらっしゃい、坊やたち。

 銃声が鳴り響く。

 店内通路を行くシャークとセンチピード。
 シャークが扉の一つを蹴り破る。

シャーク:……くそっ、ここにもいねぇ。
シャーク:ムカデ! この階はこれで終わりか?

 スマホの画面に目を落とすセンチピード。

センチピード:あとは突き当りに一つ。
センチピード:全く無駄に広いわね。

 飛び出してきた敵の殺し屋がセンチピードの背に銃口を向ける。

シャーク:伏せろっ! 後ろだ!
センチピード:ッ!

 シャークの呼びかけに対し、咄嗟に身をかがめる。
 銃声が響き、狙っていた殺し屋が倒される。

シャーク:貸し一つな。
センチピード:さっき私が助けたのでチャラでしょ。
シャーク:素直じゃねぇなぁ、お前。
センチピード:早く行くわよ。
センチピード:あの部屋でラスト。
シャーク:わかってる……よッ!

 扉を蹴り破るシャーク。
 簡素な個室にルージュが腰掛けている。

シャーク:……よォ、助けにきたぜ、お姫様。
ルージュ:あら、騒がしいと思ったら……。
ルージュ:久しぶりね、シャークちゃん。ムカデちゃんも。
センチピード:災難だったわね。
ルージュ:ええ、本当よ。
ルージュ:パーティに招待されたと思ったら主宰は来ないし、軟派男に捕まってこのザマ。
ルージュ:主賓(しゅひん)にしてはひどい扱いだわ。
シャーク:はッ、そんだけ吹けりゃ上等だな。
ルージュ:シャークちゃんたちはお仕事?
シャーク:ああ、仕事は終わったんだけどよ、あんたが捕まってるって聞いてな。
シャーク:あの店が閉まると困るんだ。
センチピード:そうそう。
センチピード:あそこでコーヒー飲みながらゲームするの、最高なのよね。
ルージュ:ふふ、いつでもいらっしゃいな。
シャーク:さぁて、世間話はこのくらいにしてさっさと出るぞ。
シャーク:モタモタしてられねぇ。

 踵を返すシャーク。

ルージュ:……待って。
シャーク:どうした?
ルージュ:あの女は?
シャーク:えっ。
ルージュ:あのクソ売女(ばいた)よ、来てるんでしょう?
シャーク:あー……。
センチピード:来てるわよ。
センチピード:下でドンパチしてるわ。
ルージュ:あらそう。
ルージュ:まぁ、そうよね。
ルージュ:チームだものねぇ、あなたたち。
シャーク:ルージュ?
ルージュ:シャークちゃん、道具の予備持ってる?
シャーク:あ、ああ。
ルージュ:貸してもらえる?
センチピード:護身用よね?
ルージュ:もちろん。
シャーク:……。

 不承ながらも予備の銃を渡すシャーク。

ルージュ:ありがと。
ルージュ:あら、良いの使ってるわね。
ルージュ:手入れもよくされてるみたいだし。
シャーク:……ルージュ。
ルージュ:何?
シャーク:殺気は抑えとけよ?
ルージュ:了解。行きましょうか。

 部屋を出ていくルージュ。

シャーク:……全然現役でやれんだろ、あいつ。
センチピード:とりあえず止めないとね。
センチピード:ブルズアイが殺される前に。

 一方、戦闘中のブルズアイ。
 ソファに腰掛けたオウルが拍手を送る。

オウル:いやぁ、お見事です。
オウル:有象無象じゃ歯が立たない。
ブルズアイ:どーもォ。
ブルズアイ:そろそろあなたがお相手してくれないかしら?
オウル:強がってますけど大丈夫ですか?
オウル:疲れたでしょう。あなたも人間だ。
ブルズアイ:じゃ、ビール貰ってもいーい?
オウル:ははっ、そういうのは僕じゃなくて、ボスの役目なので。
オウル:ああ、もうマスターは辞めたんだっけ。
ブルズアイ:あまり調子に乗らないようにね、坊や。
オウル:あ、同じようなことルージュさんにも言われたなぁ。
オウル:そんなつもりないんですけどねぇ。
オウル:そういえば前はルージュさんと組んでたんでしょ?
オウル:お二人とも雰囲気似てますよね。
オウル:もしかして美人姉妹とかだったりします?
ブルズアイ:よく言われるわぁ、それ。
ブルズアイ:でも違うわね。あの子は一途なの。私とは大違い。
オウル:へぇ、意外だなぁ。
ブルズアイ:だからこそ脆いっていうか……。
ブルズアイ:ハァ、男女の関係は難しいわ。
オウル:興味深いですね。
オウル:もっと聞かせてもらえません?
ブルズアイ:いいわよぉ。
ブルズアイ:私に勝ったら教えてあげる。
オウル:それはいい。
オウル:じゃあ、ひとつ頑張っちゃいましょうか。

 軽やかに立ち上がるオウル。

ブルズアイ:やっと腰を上げたわねぇ。
オウル:でも、ブルズアイさん知ってます?
オウル:「死人に口なし」って言葉。

 素早く間合いを詰め拳銃を構えるオウル。

ブルズアイ:ッ!
オウル:どうせなら、死ぬ前に教えてくださいよ。

 発砲するオウル。
 すんでのところで銃弾をかわすが、バランスを崩したブルズアイに対しさらに間合いが詰められる。

オウル:女性に暴力は気が引けるんですけど、ねッ!

 オウルの蹴りがブルズアイを直撃。

ブルズアイ:ッぐ……っ!

 倒れたブルズアイの額に銃が突きつけられる。

オウル:チェックメイトです。
ブルズアイ:やる……じゃない。
オウル:一応聞きますけど、やっぱり僕たちと働く気はないんですか?
オウル:あなたみたいな美人、殺したくないんですよ。
ブルズアイ:言ったわよね……。
ブルズアイ:誰かの下につくのはごめんだって。
オウル:そうですか、残念です。

 引き金に力を入れるオウル。
 銃声が響く。

 オウルの手が止まる。
 奥から硝煙をまとった銃を構えるルージュが現れる。

ルージュ:そこまでよ、坊や。
オウル:おや……これは予期せぬお客さんだ。
ブルズアイ:げっ……。
ルージュ:悪いんだけどどいてもらえる?
ルージュ:その女に用があるの。
オウル:いやぁ、困りますよルージュさん。
オウル:勝手をされちゃ……。
ルージュ:二度言わせないで。
ルージュ:どけ、と言ってるのよ……私は。

 ルージュの様子をやや後ろから見ているシャークとセンチピード。
 シャークがセンチピードに声をかける。

シャーク:おい……止めろよ。
センチピード:イヤよ。死にたくないもん。
シャーク:そういう話だったろ。ブルズアイが殺される前によ。
センチピード:命あっての物種、って言うでしょ。

 ため息をつくオウル。

オウル:参ったな、さすがにこの人数はキツいですね。
オウル:せめてサソリさんがいればなぁ。

 オウルの言葉にセンチピードが反応を示す。

センチピード:……サソリ?
シャーク:おい、どうしたムカデ。
センチピード:……何でもない。
オウル:オーケー、どきますよ。
オウル:全く、綺麗な顔が台無しじゃないですか……。

 ブルズアイから離れるオウル。
 立ち上がり、ルージュと対面する。

ブルズアイ:……ん、久しぶりィ。
ルージュ:ええ、久しぶりね。
ルージュ:そしてさようなら。

 銃口が向けられる。

ブルズアイ:はぁ、やっぱまだ許せてないわけ?
ルージュ:当たり前でしょ……!
ルージュ:あんただけは絶対に私の手で殺すって決めてんのよ。
ブルズアイ:あのさぁ、何度も言ってるけどあれは彼の方からで……。
ルージュ:黙れ、クソ売女(ばいた)がッ!
ルージュ:あんたっていつもそうだったわよね。
ルージュ:息をするように男を惑わせる。
ルージュ:何でよりによってあの人だったのよ!
ルージュ:男なんて他にたくさんいるでしょう!
ブルズアイ:……無駄よねぇ、今さら何言っても。
ルージュ:殺してやる。
オウル:……え、ちょっと、何ですか、これ。
シャーク:やべぇぞ、ムカデッ!
センチピード:ああ、もう!

 弾かれたように飛び出したシャークとセンチピードがルージュを押さえる。

ルージュ:ちょっと、何よあなたたちッ! 放しなさい!
シャーク:おい、ブルズアイ! さっさとズラかれ!
センチピード:後のことはこっちで何とかするから!
ルージュ:放せッ!
ブルズアイ:ん、ごめんシャークちゃん、ムカデちゃん! 後でねっ!

 逃げるように去っていくブルズアイ。

ルージュ:ま……待て! 待てよ! 逃げるな!
ルージュ:待てェッ! 殺してやる!
オウル:何だか、大変なことになってますね。
シャーク:うるっせぇな、見世モンじゃねぇぞ!
オウル:色恋沙汰は恐ろしい、ということですかね。
オウル:ふぅ……。よいしょっと。

 ソファにもたれかかるオウル。

センチピード:もう諦めたの?
オウル:僕なりに一人で頑張った方です。
オウル:咎められる筋合いはありません。
センチピード:あ、そう。
ルージュ:……いい加減、放せっつってんのよ!

 シャークたちの拘束が振りほどかれる。

シャーク:うわっ、お、おいルージュ、待てって……。
ルージュ:逃がすかよ、クソ売女(ばいた)ァ!

 ブルズアイを追うように消えていくルージュ。

センチピード:あー……行っちゃった。
シャーク:まぁ、あとはあっちで何とかするだろ。
シャーク:あたしらも帰ろうぜ。

 ソファでくつろぐオウルに目を向けるシャーク。

シャーク:てめぇも、もうやる気ないんだろ?
オウル:はい、どうぞご自由に。
オウル:気が変わったらいつでも来てください。
シャーク:ねぇよ、アホが。
シャーク:行くぞ、ムカデ。

 背を向けるシャーク。
 なおもセンチピードはオウルを見据える。

センチピード:……ねぇ。
オウル:はい?
センチピード:あなた、さっきサソリって……。
オウル:ああ、言ってましたよ。
オウル:「妹なんかいない」って。
センチピード:……。
オウル:また会いましょう。
シャーク:おい、ムカデ!
センチピード:……今行く。

 何かを思考したまま、センチピードがその場を去る。
 2人を目で追った後、携帯電話を取り出すオウル。
 呼び出しをタップし、耳に当てる。
 
オウル:……ああ、ボス。オウルです。
オウル:もう、こちら向かってますか?
オウル:いえ、少々面倒なことが起きまして。
オウル:ルージュさんに逃げられました。
オウル:まさか、あの三人組が乗り込んでくるとは思いませんでしたよ。
オウル:……わかりました、待ってますね。
オウル:はい。それじゃあ。

 通話を切り、ソファへ深くもたれかかるオウル。

オウル:あーあ、疲れた。

 銃弾を受けた酒のボトルが棚から落ち、砕け散る。

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