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オウルの誘い

【タイトル】
「オウルの誘(いざな)い」
殺し屋シリーズ・1部3話

【キャスト総数】
5(男:2 女:3)

【上演時間】
20〜30分

【あらすじ】
裏の世界にも顔が利く武器商社社長、イヴァン。
彼の事務所には幾度とないリフォーム補修の跡がある。

そして今日も屋外で銃声が鳴り響く。
至って日常的な光景ではあるが慣れるものではない。
彼は頭を抱えていた。

――ちょうどいい。
専属で仕事を頼んでいる3人組の殺し屋たちが
ウチに来ている。

目には目を歯には歯を。
殺し屋には、殺し屋を。

【登場人物】
・シャーク(女)
3人組(チーム)で仕事を行う殺し屋。
荒っぽい言動が目立つ。

・センチピード(女)
3人組(チーム)で仕事を行う殺し屋。
ゲーム好き。

・ブルズアイ(女)
3人組(チーム)で仕事を行う殺し屋。
色男には目がない。

・イヴァン(男)
総合武器商社社長。
シャークたちによく仕事を頼んでいる。

・オウル(男)
ブージャムの右腕である殺し屋。
飄々として掴みどころがない。

【本編】
 裏社会にも多くのパイプを持つ、とある「総合武器商社」。
 広々とした敷地内では断続的に銃声が響いている。

 事務所の応接室。
 革張りのソファに深々と座り込んだシャークの顔には気だるさがうかがえる。
 隣には手元のゲームに集中しているセンチピードの姿。

 2人の対面側には耳に飛び込んでくる銃声に苛立つ社長と思しき男。
 目線は外をうかがっている。

シャーク:ったくうるせぇなぁ、オイ。品のねぇ連中だ。
センチピード:あなたにそれ言われちゃ、お終いよね。
シャーク:てめぇもうるせぇんだよ、ムカデ。
シャーク:バンバン無駄に弾ハジきやがって……。
シャーク:数撃って当てんのなんざ三流のやることだろ。
センチピード:まぁね、下手な鉄砲も何とやらって言うし。
シャーク:あーあ、めんどくせぇ。
シャーク:なぁ、旦那?

 社長の苛立った目がシャークに向く。

イヴァン:……余裕だな、お前ら。
シャーク:慌てたって仕方ねぇだろ。
イヴァン:全く厄介なことになった。
イヴァン:連中まさかカチコミかましてくるとは……。
イヴァン:頭数そろえてご苦労なこったぜ。

 立ち上がり窓際へ移動する男。
 外の様子をうかがおうとする。

センチピード:あ、窓際行かない方がいいわよ。
イヴァン:あ?

 窓の銃弾が命中し、硝子が砕け散る。

イヴァン:うおおっ!?
センチピード:言わんこっちゃない。
イヴァン:ああ、くそっ! 窓硝子が粉々だ! 見ろ、外壁もボロボロ!
イヴァン:何回リフォームしたと思ってんだよ!
シャーク:それにしても数が多いな。軍隊かよ。
センチピード:じゃないの?
センチピード:動きがそれっぽいのよね、統率が取れてるっていうか。
イヴァン:奴らは兵隊崩れだよ。
イヴァン:金に目の眩んだ人殺しのクズども。
センチピード:耳が痛いわねぇ。
シャーク:何でそんな奴らがアンタを狙ってんだ? カエシか?
イヴァン:知ったことか。
イヴァン:おおかた俺の商売にケチつけたいんじゃねぇのか。
シャーク:さっすが天下の武器商人様。
イヴァン:軽口叩いてねぇでさっさと何とかしてくれ。
イヴァン:これ以上リフォームに金を使いたくねぇ。
シャーク:金にならない殺しはやんねぇぞ。
イヴァン:わかってる。
イヴァン:次の仕事に上乗せしてやるからよ。
シャーク:ははッ、いいねぇ、こりゃあ拾いモンだ。
シャーク:おい、ムカデ。

 なおもゲームに目線を落としたままのセンチピード。

センチピード:あー、このクエスト終わってからでいい?
シャーク:ゲームやめろ! ぶっ壊してやろうか。
シャーク:そうすりゃシノギに集中できんだろ?
センチピード:はあ? ここまでランク上げるのにどれだけ溶かしたと思ってんの?
センチピード:その時はあなたをぶっ殺すわよ。
シャーク:おうやってみろコラァ!
イヴァン:オイ、喧嘩してる場合じゃねぇだろお前ら!

 いがみ合う二人。
 同時に事務所のドアが開き、ブルズアイが姿を見せる。

ブルズアイ:ただいまぁ。
イヴァン:おう、ブルズアイか。
イヴァン:丁度いい、この馬鹿どもを何とかしてくれ。
ブルズアイ:ハイハーイ、二人とも喧嘩しないの。
イヴァン:それで、外の様子はどうだ。
ブルズアイ:んー、蟻ちゃんたちがすっごい湧いてるわねぇ。
ブルズアイ:何人かやったんだけど、焼け石に水ってカンジ?
イヴァン:全くやれやれだな。
シャーク:ブルズアイ、あたしとムカデも出る。
シャーク:脇に隠れてる蟻は任せた。
ブルズアイ:あら、手伝ってくれるのシャークちゃんたち。
シャーク:おう、旦那から金になる話が拾えたからな。
センチピード:気は進まないけどね。
ブルズアイ:ふふ、それじゃあ楽勝かも?

 立ち上がりセンチピードを一瞥するシャーク。

シャーク:おい、ムカデ、勝負な。
センチピード:また? 好きねぇ、あなた。
シャーク:お前もゲームは好きだろ。
センチピード:まぁね。いいわよ、普通にやるよりマシだわ。
ブルズアイ:じゃ、行こっかぁ。
ブルズアイ:二人とも、グッドラック。

 各々がドアから出ていく。

 銃撃戦が続き、やがて音が鳴り止む。
 敵の殺し屋たちは全滅し3人が合流する。

シャーク:最後のはブルズアイがトドメ決めたからノーカンだろ。
センチピード:じゃあ私の勝ちね。
シャーク:馬鹿言ってんじゃねぇよ。
シャーク:何人やったんだお前。
センチピード:6……いや7かな。良い数字。
シャーク:けっ、同点かよ。
ブルズアイ:ふっふぅん、じゃ私の勝ちィ。
ブルズアイ:15だもんね。
シャーク:ロングレンジの得物にゃハナから敵わねぇよ。
ブルズアイ:あら、じゃ交代する?
ブルズアイ:フロントもたまにはいいかも。
シャーク:……得手不得手っての、あんだろ。
ブルズアイ:シャークちゃんイマイチだもんねぇ、遠距離。
シャーク:うるせぇ。
シャーク:おいムカデ、戻るぞ。
シャーク:こんなところまで来てゲームしてんじゃねぇよ。
センチピード:はいはい。
シャーク:……っ!

 物陰に気配を感じたシャークが咄嗟に銃を構える。

シャーク:待て。……まだネズミがいやがる。
センチピード:ホント、数だけは多いわね。

 身を潜めている相手にシャークが呼びかける。

シャーク:おい、いるんだろ。
シャーク:まだやる気があるんなら出てこいよ。
シャーク:きっちり殺してやる。
センチピード:誘い文句としては0点ね。
ブルズアイ:駄目よぉシャークちゃん。
ブルズアイ:こういう時は優しく「おいで?」って言ってあげないと。
シャーク:うるせぇな、何でもいいだろうが!

 やがて物陰から一人の男が現れる。
 両手を上げ、笑顔で敵意がないことを伝えている。

オウル:すみません、ここの事務所のイヴァン社長に用がありまして。
オウル:僕は彼らとは無関係です。
オウル:良かったら銃を下ろしてもらえませんか?
シャーク:ヤだね。
オウル:参ったなぁ、妙なタイミングで来てしまった。
オウル:いや本当、僕はビジネスの話をしにきただけで……。
センチピード:だったら血の匂いは消してきた方がいいわよ。
センチピード:良い香水紹介しましょうか。
オウル:え?
シャーク:同業だろお前。
オウル:はぁ、すごいですねぇ。さすがだ。
ブルズアイ:可愛い顔してるわねぇ。タイプだわ。
ブルズアイ:お名前、何て言うの?
オウル:オウル、と申します。
オウル:えー……シャークさん、センチピードさん、ブルズアイさん、ですよね。
オウル:3人組の。いやあ、お目にかかれて光栄です。
シャーク:軽口はいい。
シャーク:イヴァンの旦那に何の用だ。
オウル:だから仕事の話ですってば。
オウル:あなたたちだってそうでしょう?
シャーク:信用ならねぇ。
シャーク:旦那を消しに来たんじゃねぇのか?
シャーク:数えきれねぇくらい恨み買ってるからな、あのオッサン。
オウル:はあ、そうなんですか。
シャーク:殺されてもらっちゃ困るんだ。
シャーク:あれでも大事な雇い主だからよ。
オウル:……。
シャーク:おい、何とか言えよ……。

 突如としてオウルの顔から笑顔が消える。
 異変を察したセンチピードがシャークを制する。

センチピード:シャーク。
シャーク:……!
オウル:ガタガタ言ってねぇで通せ、メスブタ共が。
シャーク:んだと……。
オウル:俺が客かどうかは、イヴァンを通せばわかる。
オウル:そうでなければ殺したらいい。
オウル:……やれるものならな。
シャーク:てめぇ……。
ブルズアイ:シャークちゃん、埒が明かないわ。
ブルズアイ:ここは下がりましょ。
シャーク:……ちっ。

 不承ながらも銃を下ろすシャーク。
 オウルの顔に再び笑顔が戻る。

オウル:わかってもらえれば結構です!
オウル:それでは失礼します。

 事務所へ向かおうとしていたオウルの足が止まる。

オウル:あそうだ。よければあなたたちも一緒にお話聞きませんか?
シャーク:はぁ? 何でだよ、関係ねぇだろ。
オウル:金になるかもしれませんよ。

 時を経て、事務所の応接室。
 顎に手を当て、オウルに目を向ける社長のイヴァン。

イヴァン:……で、あんたがわざわざお越しくださったわけか。
オウル:やだなぁ、僕と社長の付き合いじゃないですか。
イヴァン:恐れ入るよ、全く。
シャーク:旦那、誰なんだよコイツは。
イヴァン:……。
オウル:別に構いませんよ。
オウル:僕もボスも素性を隠しているわけではないので。
イヴァン:……ブージャムんとこの殺し屋だ。
センチピード:ブージャムって、あの?
ブルズアイ:マジィ? ヤクネタじゃない。
オウル:はは、そんなに悪い人じゃないですよ。
シャーク:殺し屋に良いも悪いもねぇよ。
オウル:ごもっともです。
オウル:あ、そう言えばボスが言ってましたよ。
オウル:「いつぞやはベッドも用意せずに申し訳ございませんでした」って。
シャーク:あぁ? ベッドだ?
ブルズアイ:何の話ィ?
オウル:3人仲良く夢心地だったそうじゃないですか。
オウル:「デッドエンド」で。

 「デッドエンド」の名前に対し、3人に合点がいく。
 各々の表情には苦々しさが浮かぶ。

センチピード:やられたわね……。
シャーク:あのクソマスターが……ブージャムだったってのか。
ブルズアイ:はッ、ホント舐めた真似してくれるわねぇ。
オウル:ボスなりの優しさだと思いますよ?
シャーク:それが舐めてるって言ってんだ!
シャーク:生きてんのか、あいつ。
ブルズアイ:じゃあ、ウルフちゃんが殺(と)られたってこと?
オウル:いえ、聞いたところだと痛み分けだったみたいです。
オウル:最高峰は伊達じゃありませんね。

 こそりとシャークに対して耳打ちするセンチピード。

センチピード:良かったわね。
シャーク:黙れ。
オウル:ウルフさんのことです、近いうちにボスに辿り着くでしょうね。
オウル:次はどちらかが死ぬかも。
センチピード:上司の首がかかってるのにあまり関心がなさそうじゃない。
オウル:誰だって死ぬ時は死ぬでしょう。
シャーク:……ふん。
オウル:しかも聞くところによると、ウルフさんも「不運(アンラック)」に狙われてるそうじゃないですか。
オウル:狙う者に、狙われる者。ますます面白くなってきましたねぇ。
シャーク:「不運(アンラック)」?
ブルズアイ:あらぁ、シャークちゃん知らない?
ブルズアイ:最近噂になってるわ。若いのに相当な凄腕だって。
シャーク:先生は簡単に殺(と)られるタマじゃねぇよ。
センチピード:でも、死ぬ時は死ぬからねぇ。
センチピード:大丈夫、その時は慰めるから。
シャーク:お前が先に死んどくか?

 大きく咳払いをするイヴァン。

イヴァン:あー、業界話はそのあたりでいいか?
オウル:ああ、どうもすみません、盛り上がってしまいました。
オウル:それで、えぇと何だったかな。
オウル:あぁそうだ。僕はビジネスの話をしにきたんです、イヴァン社長。
イヴァン:わかってるよ。で、何が欲しいんだ。
イヴァン:先日も結構な数を買ったじゃないか。
イヴァン:まぁ、こっちは儲かるから別にいいんだが。
オウル:先日の倍の数を。
オウル:内訳は同じで構いませんので。
イヴァン:戦争でもやるのか?
オウル:そんなところです。
イヴァン:おっかねぇことで。

 朗らかに手を叩くオウル。

オウル:さて、ここからはお嬢さん方にも関係のある話です。
シャーク:あ?
オウル:我々は今、腕の立つ殺し屋を募っています。
オウル:条件は強いこと、これだけです。
オウル:ペイに関してはそれなりに融通が利きますよ。いかがです?
ブルズアイ:あら、なかなかお目が高いじゃない。
センチピード:殺し屋を集めて何を始めるつもりなの、そちらのボスは。
オウル:さあ? 詳しいことは知りませんが、ビジネスプランは立ててるんじゃないですかね。
オウル:あの人のことですし。
センチピード:どうもキナ臭いわね。
シャーク:アホくせぇ、勝手にやってろよ。
シャーク:言っとくが、次に奴のツラ見かけた時はドタマ吹っ飛ばしてやるからな。
ブルズアイ:そうねぇ、誰かの下につくのは性に合わないしねぇ。
ブルズアイ:それに私らにはイヴァンちゃんがいるし。
イヴァン:一応、本業は商人ってことを忘れんなよ?

 肩をすくめるオウル。

オウル:交渉決裂ですか、残念です。
オウル:まぁ、気が向いたら遊びにきてください。
オウル:はい、これ名刺。

 名刺を受け取るシャーク。

シャーク:殺し屋が名刺かよ。舐めやがって。
センチピード:身元を隠すつもりもないのね。
オウル:来る者拒まず、です。
オウル:それではイヴァン社長。道具の件、よろしくお願いします。
イヴァン:ああ。
オウル:では、僕はこれで……ん?

 屋外から騒音が聞こえてくる。

シャーク:あ? 何の音だ。
イヴァン:げぇっ、まだ残党がいやがったのか!
イヴァン:ったくしつけぇなぁ、あいつら!
シャーク:どんだけ恨み買ってんだよ、旦那。
イヴァン:知るか、くそっ!
ブルズアイ:んー、さっきよりは少ないわね。
ブルズアイ:ちゃちゃっと片付けよっかぁ。
センチピード:私、いる?
シャーク:サボんなよ、ムカデ。スマホ置け。
オウル:あぁ、僕がやっときますよ!
オウル:どうせ帰り道ですし。
イヴァン:いや、でもあんた……。
オウル:いいから、いいから。
オウル:どうぞ、今後とも良いお付き合いを。
イヴァン:あ、ああ……。悪ィな。
オウル:それではさようなら。お嬢さん方。

 部屋を出ていくオウル。

シャーク:ちっ、いけ好かねぇ……。

 数分後。
 敷地内から聞こえていた騒音がピタリと止む。
 ブルズアイが割れた窓から外をうかがう。

ブルズアイ:やるわねぇ、あの子。綺麗に掃除していったわ。
イヴァン:奴はブージャムの右腕だ。敵に回さない方がいいぞ。
シャーク:あのクソマスター、何がしてぇんだよ。
センチピード:殺し屋の会社でも作るんじゃないの。
イヴァン:情報屋に聞けばいいじゃねぇか。
シャーク:ルージュか……。
センチピード:ああ、良いわね。
センチピード:久しぶりにあの店のコーヒー飲みたいかも。
ブルズアイ:えー! やめましょうよぉ。
ブルズアイ:別にさ、私らには関係ないじゃない。ね?
センチピード:あなたが行くと風穴開けられちゃうもんね。
ブルズアイ:そーそー、絶対ろくなことになんないんだもん。
イヴァン:丁度いい、情報屋に行くなら次のマトのデータも受け取ってくれ。
イヴァン:連絡は俺から入れとくからよ。
シャーク:オーケー。そりゃ別に構わねぇけどよ、次来た時には事務所がふっ飛ばされてたってオチだけはカンベンしてくれよ、旦那。
イヴァン:縁起でもねぇこと言うんじゃねぇ!
シャーク:ははッ、恨み買うのも程々にな。
センチピード:またね、社長。
イヴァン:ったく……さっさと行け。

 事務所を出ていく3人。
 疲れた様子で椅子に座るイヴァン。

ブルズアイ:ねぇ、ホントに行くのぉ?
シャーク:あんたは外で待ってろよ。
ブルズアイ:ヤだぁそんなの! 寂しいじゃぁん。
センチピード:あの店、ゲームがはかどるのよね。
センチピード:好きだわ。
シャーク:ゲームしに行くんじゃねぇぞ。
センチピード:たまには息抜きも必要でしょ。
シャーク:お前は抜きすぎだ。
センチピード:あ! もしかしたら先生に会えるんじゃない?
センチピード:あの人もブージャムを追ってるんでしょ。
シャーク:んな都合よく会えるかよ……。
センチピード:わかんないじゃない。
センチピード:あはは、泣いちゃ駄目よ?
シャーク:おいてめぇ、いい加減にしろコラァ!
ブルズアイ:あーもうちょっと2人とも、やめなさいってばぁ!

 賑やかな3人組。
 倒された殺し屋たちが転がる武器商社の敷地を後に「情報屋」へと向かう。

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