はるま

少女マルバスはメギドを忌避する夢を見るか?

これはソーシャルゲーム『メギド72』に出てくるメギド、マルバスについての記事です。

最初に断っておくと、私はマルバスというキャラクターに対して特別な思い入れはありません。5章までクリアした今でもリジェネ前のキャラはうちにいないし。
この所感や推測についても単なる一個人の意見であり、解釈を誰かに押し付けるものでもありません。
また、リジェネマルバスのキャラストーリーについて読んでいるものとして話を進めます。ネタバレが嫌な方はそっと閉じてください
あと先述の通り、持っていないのでリジェネ前マルバスのキャラストは履修していません。なので読んだらまた解釈が変わるかもしれません。少年に醜いアヒルの子を話をするらしいとは聞いていますが、実物を見てニュアンスを検証できない箇所については扱わないことにします。

さて。
現在絶賛開催中のイベント『ハルマを夢見た少女』において、マルバスの独白という形で実は自分でもメギド体を醜いと思っている旨の供述がなされました。
これにより、「マルバスはあのメギド体も含めて自分は可愛いと思っている」と解釈していたユーザーの間に衝撃が走ります。
中には「それでも可愛く振る舞おうとする健気さアピールをしてきた、メギドというゲームとしてもマルバスというキャラとしてもそんなことはして欲しくなかった」と嘆く声まで見られました。

しかし、マルバスという少女は本当にそれだけなのでしょうか。
彼女のキャラストやイベントでの発言などを統合すると、マルバスの美醜意識には時期によって変遷があるのではないかと考えられます。
彼女にとっての大きな転機は「カソグサとの出会い」、そして「メギドラルからの追放」です。

◆カソグサと出会う前のマルバス

この時期の情報はかなり限られるため、大部分が推測になります。
が、当時はかなりコンプレックスを抱いていたと見ています。

リジェネマルバスのキャラストにおいて、マルバスは出会う相手に片っ端から「私、綺麗?」と聞いて回っています。

※画像の時期は、厳密には出会う前のマルバスではありません。しかし当時も開口一番カソグサに尋ねていたことから、同様の行動を取っていたものと推測されます。

自分の容姿について人に尋ねる理由としては、
①白雪姫の継母が鏡に問いかけるように、事実を改めて言わせて満足したい場合
自分に自信がなく、誰かに肯定してもらって安心したい場合
のどちらかだと考えられます。

当時のマルバスが①であると仮定するには、いざカソグサに肯定してもらえた時の反応が不自然です。
わかりきった答えが返ってきたなら普通はどうするでしょうか。そこまで自分に自信があれば、当然だという顔をしてふんぞり返るものです。平たくいえば現在のマルバスのような反応ですね。

しかし実際には戸惑うような言葉を漏らし、「他人から初めて綺麗と言ってもらえた」と証言しています。
そのため、この時点では自分が綺麗かどうか自信がなかったのではないかと思います。
一方で投げかける質問が「私を見てどう思う?」といった自由回答形式ではなく「私、綺麗?」という、回答に「綺麗」を直接引きずりだしたい形の問いになっているあたりに自意識の強さも伺えます。

また、マルバスは戦場で出会った初対面の相手にまで「私、綺麗?」と問いかけます。戦場で何をしているのかとつっこみたくもありますが、これは身の回りのメギドにはとっくに質問し尽くしており、誰も望む答えをくれなかったために(戦場で)新しい出会いがある度に尋ねていたのではないでしょうか。
その度に否定され、それでもなお尋ね続けるのは「とにかく誰かに綺麗だと認めてもらいたいから」と考えるのが自然です。

これらのことから伺える当時のマルバス像は、自分の理想と現実のギャップに苦しみ、誰かに綺麗だと肯定してもらいたいと願う少女(?)の姿です。

◆カソグサとの出会い

マルバスに訪れた大きな転機です。

おそらくいつものように「私、綺麗?」と問いかけていたマルバスは、カソグサから「あなたはとても綺麗よ」と言ってもらえます
ハッピーバースデー。ここから自己肯定感、ひいては自己愛を強化させた少女マルバスが誕生したのでしょう。

ただ、カソグサの発言は注意して見る必要があります。カソグサの言い分はこうです。

・何を美しいと思うかは人によって違う
・しかし誰にでも共通する美意識が「強い=美しい」
・だから強いあなたは世界一美しい、まるでハルマのように

おわかりいただけたでしょうか。カソグサは外見については1ミリたりとも触れないまま、それでいて確たる軸を持ってマルバスは美しいと言い切ってみせたのです。

メギドラル時代のマルバスは中央の部隊をも退けるレベルの強力なメギド達を一人で叩き潰しフライナイツの分隊長も自分だけでは勝てないだろうと暗に言うほどに強かったようです。
つまり「強い=美しい」の図式からいえば文句なしにマルバスは美しいのです。確かな実力があるマルバスにとって、これは根拠とともに自分が美しいと思える素晴らしい見方でした。

この出会いにより、マルバスは「自分はちゃんと美しいのだ」という意識を持ちます。それと同時に、美しい種族ハルマについての知識も得ました。
ただし、マルバスは思い込みの激しいところがあり、また難しい話は苦手なようでした。カソグサの発言の意味をすべて正確に理解していたかどうかは慎重に判断する必要があるでしょう。

ちなみに、この時の会話から「二人ともハルマを見たことがない」「マルバスはそもそもハルマの存在自体を知らなかった」ことがわかります。
ただ漠然と美しい存在として植え付けられたハルマ像は非常に都合の良い理想になったことでしょう。

ここで得られた「強い=美しい」の構図と、外見については実は誰も肯定していないことをよく覚えておきましょう。今回のマルバス解釈の肝になる部分です。

◆カソグサとの出会い以降

カソグサに美しいと言ってもらえたマルバスですが、相変わらず戦場で出会った相手に「私、綺麗?」と聞いて回る生活は続いています。

しかし既に美しさを認めてもらっている今のマルバスには自信があります。
以前のような「誰でも良いから認めて欲しい」というよりは、「自分の可愛さを認めてくれるメギドをさらに増やしたい」という意味合いが強いのでしょう。
可愛さを認めない相手には「もっとよく見なさいよ!私はこんなに可愛いでしょ!」と言い、苦し紛れに肯定した相手には「やっぱりあんたもそう思うわよね!」と機嫌を良くします。

一方で、同じ街に住む市民メギドからは「あの見た目でハルマだと言いふらしているおかしな奴だ」と笑いものにされています。
マルバス自身もそのことは理解しているようでした。陰口を叩いていたメギドたちが媚びへつらってくる姿に気を良くしているように見えて、自分が去った後にはまた彼らが悪口を言っていることを読み当てています。
とはいえ「あんな連中の言葉なんて私は気にしないんだから!」と言っている通り、自分は可愛いという自信を得たマルバスにはそうした悪口をはねのけることができます。

ところで、このあたりの下りには個人的に気になるところがあります。
市民メギドの媚びを見抜いていたマルバスが、明らかに命乞いのために美しいと言った敵メギドの言葉は真に受けていたのかどうか、です。
ここは微妙なところですが、その後で機嫌を良くしたマルバスが相手の治療までしていったことから、本心として受け取ったのではないかと思っています。
市民の嘘は見抜けるのに敵の嘘は見抜けなかった理由として、市民の方は日頃から悪口を言われていることを知っていたこと、そして「目の前で強い相手二人を倒して強さを証明してみせたので(強いから)美しいと評価されるのは正当」と判断する根拠があることが挙げられます。
逆に考えると、マルバスの強さを理解していながらマルバスの美しさを認めようとしない市民たちを不可解に思う部分があったのかもしれません。強い=美しいのはずなのですから。

「強い=美しい」の構図がマルバスの中に根付いていることは台詞の中で何度も出てくることからも伺えます。

「私は強くて可愛くて、性格も良い…!史上最高のハルマなのよ!」
「私は強くて美しいハルマになるのだからね!」
「いっぱい強く可愛くなっていつか本物のハルマになるのが私の夢なんだ」

さりげなく性格の良さまで追加されているあたり、さすがマルバスですね。
ともあれ、マルバスの中では強いと可愛いがセットになっていることがわかります。
特に、可愛くて強い(可愛いありきでさらに強い)ではなく強くて可愛いに徹底されているところもポイントです。この時のマルバスにとって、可愛さ磨きとはもっと強くなることと同義であった可能性すらあります。

この暮らしが続いていれば、マルバスは純粋に「私、可愛いでしょ」と言い続けられていたことでしょう。

◆追放された後のマルバス

マグナ・レギオにとって都合の悪い真実の一端を知ってしまったマルバスは、記憶を処理された上でメギドラルから追放されます
これに対してマルバスは「追放は私にとって苦じゃなかった。むしろ、少しだけハルマに近づけたような気がしていた」と語っており、追放自体は大したダメージになっていません。この発言には追放前の言動を考えると引っかかる点があるのですが、それはまた後ほど。
マルバスという人物にとって問題になったのはおそらく転生してヴィータの価値観の中で育ったこと、そして転生に際して記憶を処理されたことでしょう。

ヴィータに生まれ変わったマルバスが目指す姿はこうです。

「誰よりも美しく、誰よりも優雅に…そうやって生きれば、きっといつか本当のハルマになれる日が訪れるはずだから…」
「ハルマは私にとって美の象徴だった。あの美しく優雅な姿…」

はい。追放前に再三繰り返していた「強い」という表現が綺麗さっぱりなくなっています。それどころか、転生前には本人も触れていなかった「姿」や「優雅さ」の概念が出てきています。
私はこれが転生と記憶処理による弊害であると考えています。

マルバスの中で「強い=美しい」の構図がまだ生きているのであれば、脆弱なヴィータになることは絶望に他なりません。メギド時代にも「ヴィータは私たちより弱いってこと? それって微妙ね、強くなくちゃハルマみたいに綺麗になれないわ」と言っています。
しかし敵を圧倒する力を失ったはずのマルバスが弱くなった自分を嘆く様子は全く見られません。(ヴィータは弱くて哀れね☆と言うあたり、自分が弱くなったと思っていないだけかもしれませんが)
また、成長した際に「強くなった」とは言いますが「強くなってもっと可愛くなった」といった旨の発言もありません。

おそらくですが、転生前の記憶の処理に伴い「強い=美しい」の概念が抜け落ちてしまったのではないでしょうか。

「強いものは美しい」→「マルバスは強いから世界一美しい」→「ハルマは美しい種族」→「マルバスはハルマに近い存在なのでは?」

この順序で成り立っていた論法の、前2つがすっぽ抜けた形です。
ここから出来上がるのは「特に根拠はないけど自分はハルマに近いと思いたい少女マルバス」です。

そこに加えて転生後の生活が事態をさらに拗らせていきます。
金持ち一家の末っ子で恵まれた容姿を持つ彼女(プロフィール参照)は、さぞ可愛い可愛いと言われて育ったことでしょう。
ヴィータ社会で「可愛い」と言えばまず外見のことを指すと予想されます。両親や、おそらくその他の周囲からも可愛いともてはやされた彼女は「私は可愛い」という自意識を肥大させると同時に、ヴィータ式の美醜意識に寄っていくことになります。
ヴィータの姿に限って言えば、そんな可愛いマルバスが自分は美しいハルマに近いと考えても自然、と言えなくもありません。

ヴィータ的可愛い観に影響を受けたマルバスがここに来てようやく直視することになるのが「自分のメギド体の外見」です。外見の美醜意識を身に着けてしまったマルバスは、その物差しで見ると自分のメギド体が醜いということに気付いてしまいます。

しかしイベント時の発言をよく読み返してみましょう。

「ハルマは美しい。メギドは醜いだから私はこんな姿に生まれてきた。私がメギドだから、ハルマじゃないから」

私のメギド体が醜い」という話はしておらず、「この醜さはメギドだから」という種族全体の話に持っていっています。そしてマルバス、他人のメギド体の外見に対するコメントは一切ありません。
マルバスの中では「絶対可愛いはずの私のあの姿が醜いのは、メギドという醜い種族に生まれたせい」ということになったのでしょう。転生前は力があるメギドだから美しい=ハルマに近いと考えていたことを思うとなかなか皮肉めいていますが。

◆余談・リジェネ前のプロフィールついて

プロフィール詐欺がまれによくあると言われるメギド72ですが、リジェネ前のマルバスのプロフィールについて改めて紐解いてみます。

『強い自己愛の持ち主で、美しい自分は実はハルマなのではないか、とイカレたことを主張して追放されたメギド
ヴィータとなったのちは、金持ち一家の末っ子として大事に育てられた。
その恵まれた環境、恵まれた容姿は自己愛をさらに肥大化させることになった。
今でもハルマに憧れ、いつか自分もハルマニアに行くのだと根拠なく信じている。』

強い=美しいという根拠を得た彼女が美しいハルマに憧れ、私はハルマと言いふらしていたことは事実です。

一方で「イカレたことを主張して追放されたメギド」という表現はあまりにも意地が悪いと思いました。
普通に読めば「イカレたことを主張した」、そのことを理由に「追放された」と解釈するのが自然であり、プロフィールには嘘が書かれているように見えます。
しかし厳密に言えば「主張して追放された」であって「主張したために追放された」とは書いていません。
日本語の「して」にはもちろん理由・原因を表す意味もありますが、ただ出来事の推移を表すだけの場合もあります。マルバスは自分がハルマだと主張していました、やがて彼女は追放されました。こういう意図の記述であったと主張された場合、限りなく紛らわしい表現だが嘘とは断じられないので大変いやらしいと思います。

転生後のヴィータ人生で私可愛い!(外見的に)を膨らませていったのは前述の通りです。

「いつか自分もハルマニアに行くのだと根拠なく信じている」というのがまたなんともグレーな表記で、そもそも彼女の目標はハルマになることであってハルマニアに行くことではなかったはずです。
しかし本人の台詞を見ると「ハルマがスカウトしに来るかも?」といったことを度々口にしています。
このあたりの解釈は判断材料が少ないので微妙なところです。
強さ故に美しいという軸を失ってもとにかく可愛い自分はハルマに近いのでハルマが住む世界に行けるはず、と信じているかもしれません。
あるいは、転生後のマルバスの言動にはしばしば虚勢を含んでいるフシが見られたことから、ハルマになることは自分でも信じきれてはいないのではと思わせるところがあります。一方でハルマニアとヴァイガルドとの行き来は実績があります。なのでまずはハルマニアに行けばもっとハルマらしくなれるかも、と期待しているのかもしれません。
ともあれ、ハルマニアに行けると信じていることに根拠はありません。その点でいえばプロフィールに嘘はありません。

マルバスのプロフィールと実態の関係が制作側の狙い通りなのか後付けなのか知ることはできませんが、プロフィール詐欺と名高い他のメギド達のプロフィールを見ると「嘘は言っていないが誠実な紹介文とも言えない」という案件がちらほら見られます。そのあたり、”悪魔”らしいといえば悪魔らしいのかもしれません。

◆少女マルバスはメギドを忌避する夢を見るか?

色々と脱線もしましたが、私が解釈したマルバスは要約すると

メギドラル時代のマルバスは特に裏表もなく自分が可愛いと思っていた(ただし、それは自分が強いから
・転生後はヴィータの美醜意識に影響されたせいでメギド体の外見について気にするようになった。

というものです。
そのため、言われているような「マルバスは自分のメギド体を醜いと思っていた」というのも事実ではあるが正確ではないと考えています。少なくともカソグサと出会ってからのマルバスにそうした意識は見られません。

もちろん、これらの解釈が正しい保証は何もありません。作者はそこまで考えてないと思うよという話かもしれません。
ただ、聞いていた印象とまるで違うマルバスを公式から提示されたので出ている情報と睨めっこした結果、メギドラル時代のマルバスは自分のことを肯定できていたんじゃないかという説に至りました。実はずっと自分のことを醜いと思っていた、よりはまだ救いがある話ではないかと思います。

そして今回のイベントでヴィネと交流し、リジェネレイトしたマルバスにはかなり心境の変化が見られます。
メギドである自分を受け入れ、周囲から見られている自分の実際の評価に目を向けることができるようになり、なんと自分の話しかしていなかった彼女がヴィネに対する気遣いのようなものまで見せ始めるのです。
クズはクズのままだったのに良い子になりすぎでは!?と思わなくもないですが、今回は心境の変化をトリガーとするリジェネレイトだったのでその辺りはある程度変わってもおかしくないと言えるかもしれません。ヴィネルバの友情尊い。

私にはマルバスに対して特別な思い入れがなかった分、比較的フラットな目線で今回のイベントやマルバスを見ることができて逆に良かったと思っています。

今回みたいにイベント追加キャラ以外にもガチャ産祖メギドが出てきて交流してくれるイベントが増えると良いな。一周年には秘密のアジトイベ第二弾みたいなものも期待してます。


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